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自動車エンブレム秘話

ブガッティのエンブレムが象徴しているのは?

1924年に登場した"Type 35"のエンブレム。レース専用車両として開発されたこのモデルは、5年間で1,000勝以上を挙げた。
1924年に登場した”Type 35″のエンブレム。このモデルはレース専用車両として開発された。

ブガッティのエンブレムは、赤い楕円の背景に「BUGATTI」の白抜き文字と60個の小さな赤いドット、そして上部に配置された創業者エットーレ・ブガッティのイニシャルである「EB」で構成されている。これは1909年の創業当時からほとんど変わっていない。赤は情熱と力を、白は純粋性を、そしてシャープな輪郭は精密さを象徴している。中央の書体はブガッティのオリジナルで、ブランドの個性と職人の誇りを表している。

60個の赤いドットに隠された意味とは?

2016年に登場した"シロン"にも、基本的には昔と同じ意匠のエンブレムが確認できる。
2016年に登場した”シロン”にも、基本的には昔と同じ意匠のエンブレムが確認できる。

周囲を飾る60個の赤いドットに関しては公式な説明がなされていないが、工業製品に用いられるリベットを表しているという説がある。また、フランス菓子のような視覚的印象を与えることから、“マカロン”の愛称で呼ばれるようになったと言われる。視認性を高める効果もあり、遠くから見ても明確にブランドの存在を主張するデザインだ。

歴代モデルが引き継いでいる“マカロン”

このブガッティのエンブレムは、ブランド休眠時代を経ても変わることはなく、1998年にフォルクスワーゲングループ傘下で復活してからも、「ヴェイロン」や「シロン」といったハイパーカーに継承されてきた。2024年に登場した新世代モデルの「トゥールビヨン」においても、マカロンはフロントグリルで堂々たる存在感を放っている。変わらぬデザインは、ブガッティが最新かつ最高のテクノロジーを採用するだけでなく、伝統と芸術性を継承していることを示している。

高級素材と製法:ジュエリー並みのクオリティ

ブガッティのエンブレムは、一般的なブランドロゴとは一線を画す。宝飾品や高級食器などに使用されるスターリングシルバー素材をベースに、伝統的なエンボス加工、職人の手によるエナメル塗布と鏡面仕上げが施される。その質感と輝きはジュエリーと呼ぶにふさわしい。これほど高価な素材と凝った製法を、量産モデルのエンブレムに採用している例は極めて稀である。機能美と造形美の融合こそが、ブガッティの真骨頂といえるだろう。

ブガッティのマカロンが語る“走る芸術”の哲学

一世紀を超えて変わることのないブガッティの哲学(写真は2005年に登場したヴェイロン)。
一世紀を超えて変わることのないブガッティの哲学(写真は2005年に登場したヴェイロン)。

ブガッティのマカロンは、単なるブランドロゴではなく、一世紀を超えて受け継がれてきたクラフツマンシップと芸術性の象徴だ。細部にまで徹底してこだわり、手作業によって仕上げられるそのエンブレムには、デザインだけでなく素材選びから組立工程に至るまで一切妥協しないという哲学が貫かれている。ブガッティが“移動の手段”ではなく、“芸術作品”であることの証でもあるだろう。マカロンは、その精神を凝縮した”走る芸術”の顔と言える。

変わらないことが、ブガッティの誇り

最先端の技術革新に挑みながら、決してルーツを見失わないブガッティのブランド哲学を体現しているのがマカロンである。新しいモデルが発表されるたびにクルマとしての性能が進化を遂げる一方で、エンブレムはほぼそのままの姿で存在し続けている。

それは、それぞれのクルマが単なるスピードや富の象徴ではなく、伝統と精神性の継承者でもあることを物語っている。このマカロン、100年後もきっと同じ形でブガッティのフロントを飾っているに違いない。

かつてはフェラーリも傘下に収め、イタリアを代表する自動車メーカーグループを形成したフィアット。その歴史は1899年にまでさかのぼる。

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