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アメリカ市場を狙い「2+2」を開発
前項では、1960年代にマニファクチャラーズ・チャンピオンシップが懸けられていた、スポーツ・プロトタイプ・レースに対するフェラーリの戦略。そしてより低価格なフェラーリともいえるディーノの登場を中心に1960年代のフェラーリを振り返ってみた。すでにフェラーリの総帥であるエンツォは、この頃にはオンロードモデルの販売には、レースほどの意欲を持っていなかったともいうが、実際には12気筒の275 GTBや6気筒のディーノなど、魅力的なモデルを誕生させている。
フェラーリにとって当時最も重要だった市場は、もちろんアメリカだ。したがってアメリカのカスタマーがどのようなモデルを望むのかは、フェラーリにとって最も重要で有益な情報であり、エンツォはアメリカ仕様ともいえるモデルを常にラインナップしてきた。少し時間は戻ることになるが、ここではそれらのモデルを簡単に紹介しておくことにしよう。
フェラーリは2シーターモデルに生産を集中した1950年代の反省から、1960年になると「250 GT 2+2」で後席を備えるクーペを復活させる。搭載エンジンはもちろんコロンボ設計の250、すなわち総排気量2953ccのV型12気筒で、ホイールベースは2600mmのままだった。1960年のパリ・サロンでデビューを飾ると、それはセンセーショナルな話題として世界に伝わった。
250 GT 2+2は、1961年にテールランプの意匠などを変更したシリーズ2となった。その後、1963年にリヤサスペンションにスプリングが採用されたシリーズ3に進化する。同時にグリル内にレイアウトされていたドライビングランプをヘッドランプ下に移動した上でテールランプのデザインも一新した。
高い支持を得ることに成功
250 GT 2+2のセールスは、そのほとんどがアメリカのカスタマーに向け、あるいはGT(グランドツアラー)志向を強くもつ顧客に対して受け入れられた。250 GT 2+2はマイナーチェンジを受けつつ、常に魅力的なモデルとして高く支持されてきたが、フェラーリはその後継車として、わずかな期間で「330 GT 2+2」をデビューさせる。
一方でこの間、同様に3967ccのV型12気筒エンジンを搭載した「330 アメリカ」というモデルも存在した。これはシリーズ3、つまり250 GTの最終型をベースに排気量を拡大したものだった。ちなみに330 GT 2+2には4速MTに加え、4速AT仕様も設定され、それも好評を博した。
330 GT 2+2もまた、頻繁にマイナーチェンジを繰り返すモデルだった。ピニンファリーナの端正なボディを組み合わせてデビューしたのは1964年のことだが、翌1965年にはトランスミッションが4速MTから5速MTへと進化。このわずかな変更を受けたモデルを正確には「330 GT 2+2 インテリム」と呼ばれる。
1965年にはボディデザインがよりスタイリッシュなライン構成の美しさを感じさせるものへと変わった。メカニズムはインテリムのそれと基本的には共通で、セールスも相変わらず好調に推移していた。
パワーを望まれて着実に進化
そして、1967年になると排気量を4390ccに拡大した「365 GT 2+2」が誕生。フェラーリにさらなるパワーを望むのは、2シーターモデルのカスタマーばかりではなく、2+2モデルでも同様なのだということを一連の排気量拡大は物語っている。参考までに記すと、1960年発表時点での250 GT 2+2の最高出力が240psだったのに対して、365 GT 2+2は320psにまで達している。最高速度も同様で、365 GT 2+2では245km/hをマークするまでに至った。
その後フェラーリは、1970年代を迎える頃になると進化を続けてきた2+2シリーズのフルモデルチェンジを考えるようになる。デザインはもちろん、ピニンファリーナ。新時代が到来したことを誰もが知るように、これまでとは大きく異なる直線を基調とした端正なボディを与えていくことになる。
SPECIFICATIONS
フェラーリ 250 GT 2+2
年式:1960年
エンジン:V型12気筒SOHC
排気量:2953cc
最高出力:176kW(240hp)/7000rpm
乾燥重量:1280kg
最高速度:230km/h
フェラーリ 330 GT 2+2
年式:1964年
エンジン:V型12気筒SOHC
排気量:3967cc
最高出力:221kW(300hp)/6600rpm
乾燥重量:1380kg
最高速度:245km/h
フェラーリ 365 GT 2+2
年式:1967年
エンジン:V型12気筒SOHC
排気量:4390cc
最高出力:235kW(320hp)/6600rpm
乾燥重量:1480kg
最高速度:245km/h
解説/山崎元裕(Motohiro YAMAZAKI)