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操る喜びに満ちあふれながらも、異なるベクトルを持つ2台の狼!
日本を代表するスーパーカー漫画を世に送り出し、スーパーカーブームの立役者ともなった池沢早人師先生。その代表作である『サーキットの狼』は、1975年に週刊少年ジャンプで連載が開始されてから約半世紀を経た今もなお“クルマ好きのバイブル”として愛読され、主人公の風吹裕矢が駆るロータス ヨーロッパが「柔能く剛を制す」の精神で繰り広げた名勝負は現代へと語り継がれている。
そして池沢先生が「現代のロータス ヨーロッパ」と評価するアルピーヌ A110Sが、様々なライバルたちと対決する当連載、第8回目となる今回は最新のBMW M4 クーペ コンペティションを路上へと連れ出し、その魅力に迫ってみたいと思う。
グループAで大活躍した「M3」のDNAを受け継ぐアウトバーンの狼
自動車雑誌の撮影でお馴染のワインディング・箱根ターンパイクに姿を現したBMW M4 クーペ コンペティションは「サンパウロイエロー」と名付けられた華やかなボディカラーを身に纏い、当地を観光で訪れた人々の注目を集めていた。この車両は2021年の1月からデリバリーが開始された最新モデルであり、BMWが誇るスポーツクーペ「M4」のハイパフォーマンスモデルである。
ここで簡単にM4の立ち位置を紹介しておくと、M3は4ドアセダンとしてカテゴライズされ、このM4は2ドアクーペとしてラインナップされている。基本的には同様のパフォーマンスやボディサイズを持ちながらもイメージ的にはM3よりもM4はスポーツ色が強いということだ。
そして、新型M4の話題といえば巨大化したフロントグリルだろう。賛否両論あるものの実車を目の前にしてみると雑誌やネットの記事でみた印象とは異なり、その圧倒的な存在感に納得させられてしまう。今後はこのイメージが新時代を担うBMWのモチーフとして浸透していくはずだ。
『サーキットの狼』の流石島レースで隼人ピーターソンと風吹裕矢のバトルを思い出す
また、新型M4のボディデザインは想像以上にマッシブで、先代M4(F82型)の美しい女性的なボディラインとは正反対の印象を受けた。巨大な開口部を持つキドニーグリルの左右には切れ上がったヘッドライトが鎮座し、ボンネットには彫刻刀で刻んだような荒々しい二筋のラインが走り抜ける。ボディサイドは初代M3のブリスターフェンダーを彷彿とさせるワイドなフェンダーを備え、リヤエンドにはディフューザーと一対のデュアルマフラーが華を添える。
ボクのパブリックイメージは「フェラーリ」や「ポルシェ」色が濃いようだが、実は愛車遍歴の中でBMWの数は少なくない。1981年に手に入れたM1から始まり、アルピナ B7 ターボS、318is、135i、325iクーペ、アルピナ B3、そして先代のM4 クーペと、合計7台のBMWを乗り継いできた。その中でも先代のM4クーペは実用性と走りを両立したモデルとして取材やゴルフの足として活躍し、これまで所有した歴代モデルのなかでも上位に食い込むほどの走行距離を刻んでくれた。
そんなこともあり、今回の取材で新型のM4に対する期待値は高く、アルピーヌ A110Sとの対決をとても楽しみにしていた。イメージ的には『サーキットの狼』の流石島レースで隼人ピーターソンが駆ったBMW 3.0 CSLとディノ レーシングスペシャルのバトルを思い出し、箱根に向かう道中にニヤけてしまったのは・・・ここだけの話し。
先代M4から革新の進化を遂げさらなるパフォーマンスで乗り手を刺激する
日本市場へと投入されたばかりG82型M4において、さらにスポーツ色を強くしたものが今回のM4 クーペ コンペティションであり、ツインターボで武装した直列6気筒DOHCエンジンからは510ps/6250rpmを叩き出す。最大トルクは650Nm/2750-5500rpmとなり、低回転域でも扱い易く1730kgのボディを豪快に加速させる。この魅力的なエンジンにはパドルシフトを備えた8速Mステップトロニック(DCTではなくトルクコンバータ)を組み合わせ、シームレスなドライブは豪快さの中に繊細な操作感をもたらせるのも大きな魅力だ。
また、独特の光沢を放つブレーキローターはカーボンセラミック製となり、フロントのキャリパーは6ポットを採用。510psのハイパワーをしっかりと受け止めてくれるレーシングカー顔負けの制動力が与えられているのも新型M4クーペ コンペティションらしいポイントである。
試乗車として連れ出したM4 クーペ コンペティションはフロント19インチ(275/35R19)、リヤ20インチ(285/30R20)の異径ホイールを組み合わせ、510psの馬力を路面へと伝達する。その操る感触は「M」の称号に相応しいスポーティかつシャープなものだが、その乗り味は先代M4とは大きく異なっていた。
路面をしっかりとグリップしつつ程よいロールを伴ってコーナーを旋回する
長年、愛車としてステアリングを握っていたF82型M4はソリッドさが際立つレーシーなものであり、路面からのインフォメーションを体全体で感じるシビアさが感じられた。今度のM4はコーナーにアプロ―チしていくと一瞬ではあるがサスペンションストロークに入る時に、まるで握りこぶしをギュッとつかむような、粘りのある手応えを感じるところがメチャクチャ気持ちいい! このセッティングには脱帽だ。いや、拍手を贈りたい。
このように最新のM4はシャープさを残しながらも懐の深さを全面に押し出し、路面をしっかりとグリップしつつ程よいロールを伴ってコーナーを旋回することができる。
F82型がF1GPも開催されるフラットなホッケンハイム・サーキットで性能を発揮するとしたなら、新型のG82型は常に路面状況が変化するニュルブルクリンクを全開で駆け抜ける総合力と柔軟性を備えている。箱根ターンパイクでステアリングを握った印象としてはボディ剛性の高さはもちろんだが、リヤサスペンション全体の剛性感とゆっくり動くストロークの滑らかさが際立っていた。特に中速域での動きはシャープでありながらも決して硬さが前に出ることはなく「操る喜び」を感じる味付けが気持ちいい。
自分の走りにマッチした最適なセッティングを探すのもM4ならでの楽しみ
さらにM4の付加価値を上げているのがMスポーツ・キゾーストシステムの素晴らしさだ。エキゾーストに仕組まれたバルブによりエンジンサウンドが変更可能で、「スポーツ」と「スポーツプラス」モードでは力強いサウンドがドライバーを刺激し、逆に「コンフォート」モードではジェントルな排気音で快適性を後押しする。最近の高級スポーツモデルでは排気音を調整できるギミックを採用することも多くなったが、音量の強弱だけではなくこれほど顕著に“音質”の違いを実現しているモデルは少ない。
また、好みのセレクトをできるのはエンジン音だけでなく、タッチパネルを使ってエンジンのレスポンス、サスペンションの硬さ、ステアリングのフィーリング、ブレーキの反応を任意でチョイスすることができ、トラクションコントロールの効き具合も10段階から選択できる。その組み合わせ自由な多様性はテレビゲームの「グランツーリスモ」で自分だけの一台を作り上げるようなもので、自分の走りにマッチした最適なセッティングを探すのもM4 クーペ コンペティションならではの楽しみ方といえそうだ。
前モデルのネガティブな部分を解消した大人のパーソナリティカーだ
インテリアに関しては近代BMWのルールに基づく設計が施され、少々の無機質さを感じさせながらも人間工学に基づいた扱い易いデザインとなる。取材車両の内装はオプションで設定されるフルレザー×メリノとなり、ヤス・マリーナブルーとブラックのカラーが大きなアクセントを添えている。さらには太めのステアリングやシートベルトにもMスポーツを意味する青、紫、赤のステッチが入れられ、細部まで徹底したこだわりを主張。カーボン素材を多用したフロントの座席はバケットタイプとなり、太ももや背中、そして頭部までを包み込む形状がドライバーを刺激する。
座り心地はレーシーさと高級感を巧みにミックスしているが、個人的にはサイドサポートにもう少しだけタイトさが欲しいと感じた。体格の良い欧米人にはジャストフィットするのだろうが、細身の日本人には少し大きいかもしれない。そして、最もお気に入りのポイントはブレーキペダルの大型化だ。先代のF82型M4では3ペダルのクラッチペダルを排除しただけのような小さなものだったが、新型モデルはペダルが大型化されている。面積が広くなったことで安心してブレーキを踏めるのは嬉しい限りだ。
M4 クーペ コンペティション、ちょっと欲しくなるぐらいドライビングして気に入った。前モデルのネガティブな部分を解消して、大人のパーソナリティカーとして絶品だ。
ライトウェイトスポーツの楽しさを凝縮したアルピーヌ A110Sは何度乗っても楽しい
ライバルとして選んだM4 クーペ コンペティションからアルピーヌ A110Sへと乗り換えた瞬間、上質なスーツからカジュアルなTシャツに着替えたような気軽さが身を包む。肩の力が抜けたような気軽さはコンパクトなライトウェイトスポーツならではの味わいだ。スタータースイッチを押しアクセルを踏み込むと小川を流れる落ち葉のように“スッ”とボディが進み始める。この軽さはロータス ヨーロッパで体に染みついた快感であり、近代ライトウェイトスポーツとして評価の高いA110Sならでは魅力でもある。
A110Sの1110kgという車重はM4 クーペ コンペティションに対して620kgのアドバンテージとなり、510psを発揮するM4 クーペ コンペティションには引けを取る292psの最高出力にも関わらず、バイエルンの狼に挑みかかる大きな武器になってくれた。もちろん、コーナリング時にも軽さは大きな味方となりシャープなラインでコーナーを駆け抜ける。その感覚は「鋭いナイフで斬るように曲がる」というもので、M4のようにタイヤに車重を乗せて踏みしめるように曲がるのとは全く異なる感覚を持つ。
今回、取材に向かう車中で頭の中に描いていたのはM4 クーペ コンペティションをA110Sで追いかけるという情景だ。小さなフロントスクリーン越しに見えるボリューミーなM4の後ろ姿。直線では離されるもののタイトなコーナーで距離を縮め、隙があれば“ズバッ”とインにノーズを差し込む・・・。そのイメージは『サーキットの狼』そのもので、隼人ピーターソンと風吹裕矢の戦いの再現でもあった。もちろん、マンガと現実は別世界ではあるが、そんなノスタルジーを思い起こさせる“興奮”が今回のライバル対決には存在し、最近の家電化する乗用車では決して味わえない楽しさに満ちあふれていた。
スペックで劣るもM4と真っ向勝負できるA110Sの戦闘力を再認識
A110SもM4 クーペ コンペティションもトップエンドのスポーツ仕様ということもあり、レーシーなパーツが随所におごられている。A110SとM4 クーペ コンペティションは共にルーフが軽量なカーボン製となり、ロールセンターを下げるだけでなく視覚的な効果もばっちりだ。両車共にリヤエンドにディフューザーを備えているが、M4 クーペ コンペティションのそれはマフラーのタイコ部分を隠す装飾カバー的なものであり、ボトム部分はフラット化されていない。逆にA110Sはリヤタイヤ付近までフィンが伸ばされ、アンダーボディの空力を向上させる実用性を伴っている。
実際に箱根ターンパイクでM4 クーペ コンペティションをA110Sで追走してみると、それは頭に描いていたシーンそのものであり、コーナリングの切れ味でM4 クーペ コンペティションを追う楽しさは珠玉の時間としてボクを興奮させてくれた。エンジンパフォーマンス的には数段上のM4 クーペ コンペティションとのランデブーによって、今回もまたアルピーヌ A110Sの戦闘力の高さを再認識することになった。
価格、パワー、車両重量がM4 クーペ コンペティションの約半分というA110Sだが、電子デバイスを満載しながらも操る楽しさを磨き上げたバイエルンの狼と真っ向勝負ができる完成度の高さは、まさに現代に蘇った『サーキットの狼』なのだ。
TEXT/並木政孝(Masataka NAMIKI)
PHOTO/森山良雄(Yoshio MORIYAMA)
【SPECIFICATIONS】
アルピーヌ A110S
ボディサイズ:全長4205×全幅1800×全高1250㎜
ホイールベース:2420㎜
車両重量:1110㎏(※グリトーネルマットのみ1120kg)
エンジン:直列4気筒DOHC 16バルブ+ターボチャージャー
総排気量:1798cc
最高出力:215kW(292ps)/6420rpm
最大トルク:320Nm/2000‐6420rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動動方式:MR
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
ディスク径:前後320mm
タイヤサイズ:前215/40R18 後245/40R18
最高速度:260km/h
0-100km/h加速:4.4秒
WLTCモード燃費:12.8㎞/L
車両本体価格(税込):889万円
BMW M4 クーペ コンペティション
ボディサイズ:全長4805 全幅1885 全高1395mm
ホイールベース:2855mm
車両重量:1730kg
エンジン:直列6気筒DOHCツインターボ
総排気量:2992cc
最高出力:375kW(510ps)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前275/35R19(9.5J) 後285/30R20(10.5J)
最高速度:250km/h(リミッター介入)
0-100km/h加速:3.9秒
環境性能(WLTC):10.1km/L
車両本体価格:1348万円
【問い合わせ】
アルピーヌ コール
TEL 0800-1238-110
BMWカスタマー・インタラクション・センター
TEL 0120-269-437
【関連リンク】
・アルピーヌ・ジャポン公式サイト
https://www.alpinecars.jp
・BMW 公式サイト
http://www.bmw.co.jp/