2023新春サーキットテスト「走行を終えてのまとめ編」

【荒聖治の2023新春サーキットテスト】3台走らせてコンパクトスポーツカーの愉しみをまとめる

今回乗った3台は、それぞれキャラクターも価格も被らずに見事に分かれていた。いずれも魅力的なクルマ達ばかりだった。
今回乗った3台は、それぞれキャラクターも価格も被らずに見事に分かれていた。いずれも魅力的なクルマ達ばかりだった。
今やスーパースポーツならずとも400PSを超える高出力を持つ時代だ。駆動方式もボディ形状も多彩なコンパクトスポーツモデル3台を集めて、筑波サーキットでその実力をレーシングドライバー荒 聖治が測った。それらはいずれも異なる魅力に溢れた3台だった。本人も思い入れのあるカテゴリーというが、その背景も含めて語った。

Audi RS 3 Sedan

Porsche 718 Cayman GTS 4.0

Volkswagen Golf GTI

コンパクトスポーツの原点はラリー

自らもフォルクスワーゲンを筆頭にコンパクトスポーツを愛するレーシングドライバー荒 聖治。今回はゴルフGTIに思い入れがあったが・・・。

1980年代、グループB時代の世界ラリー選手権(WRC)には、ランチア・デルタS4、プジョー205に始まり、そしてラリーで勝つためにショートホイールベース化されたアウディ・スポーツクワトロなど歴史に残る数々の名車が活躍していた。

これらのグループBのホモロゲーションを取得するために登場した伝説のクルマ達は、WRCで勝つことを目的に造られた特別な存在だ。当時としては最先端で最強のマシンであった、それらのクルマのパッケージは、現代の基準に照らしてみると、性能が著しく向上したコンパクトスポーツカーにも通じるものだ。なにしろアウディ・スポーツクワトロの全長は4210mmで、今回試乗した中でもっとも短いフォルクスワーゲン・ゴルフGTIより80mmも短いのだ。40年で時代は大きく変わった。

そもそもラリー競技は、道幅が狭く、エスケープゾーンのないワインディングを全開で走る。つまり、ひとつのミスがコースアウトやクラッシュにつながってしまう。決してミスの許されない状況の中で、コ・ドライバーが読み上げるペースノートを頼りに限界を超えた領域でゴールまで全力で走り切ることが魅力の競技だ。タイヤの状況や路面のコンディションも変化していく状況の中で、あれだけの速さで走り続けるのだから、当然ラリーカーにはスピードだけでなく、ドライバーが正確に操れる高品質なハンドリングも高い次元で求められる。

ちなみに最近のWRCはコンパクト化が進み、トヨタGRヤリスやヒョンデi20クーペ、フォード・プーマなどのBセグメント・ハッチバックをベースにAWD化させて参戦している。2022年はラリージャパンが12年ぶりに開催され、トヨタGRヤリスがチャンピオンを獲得したので、日本でも大きな話題となったからご存知の読者も多いだろう。そのようなコンパクトながら、ハイパワーで、それを4輪で路面に伝えるというパッケージに惚れ込み、筆者もついGRヤリスGR4を購入してしまった。

楽しさは駆動方式にあらず

手前からポルシェ718ケイマンGTS4.0、アウディRS3セダン、フォルクスワーゲン・ゴルフGTI。駆動方式もボディ形状も多彩なコンパクトスポーツモデル3台だ。

実は個人的に大好きなカテゴリーなので、今まで何台かコンパクトスポーツカーを所有してきた。その魅力は、やはり軽量で軽快な走りで、乗っていて楽しいことに尽きる。排気量が小さくても、エンジンパワーが小さくても、軽量でコンパクトであれば、コントロールする楽しみやパワーを使い切った走りができるというのも楽しみのひとつだ。

私にとって原点ともいえる最初のクルマがフォルクスワーゲン・ゴルフ2で、これを筆頭に思い出せるだけでもフォルクスワーゲン・ジェッタ、フォルクスワーゲンup! GTI、BMW1シリーズ、MINIという走れるコンパクトカーを所有してきた。

所有はしなかったが、FF世界最速と称する、そのパフォーマンスの高さと刺激的な乗り味に驚いたルノー・メガーヌR.S.も魅力的な存在だった。ルノーのテストドライバーのレベルはとても高く、フロントサスペンションの作りに、かなりのこだわりを感じた。例えばキングピンの延長線がフロントタイヤのセンター部になるように設定するなど、フロントタイヤに依存し過ぎないように4輪をうまく使って走らせるようにセッティングしている。あのFFとは思えない自然なハンドリングは、素晴らしい完成度だ。

現代の技術を使えば駆動方式にかかわらず楽しい走りを実現できる。それは昨年試乗したMINI JCW GP3が証明している。なにしろスポーツタイヤに交換しただけの、ほぼノーマル状態で富士スピードウェイを1分58秒台で走ってしまう速さがあるのだ。

個性的な3台の試乗を終えて

3台のコンパクトスポーツカー試乗を通じて、それぞれのブランドが持つ方向性を較べる荒 聖治。今やタッチスクリーン対応グローブは必須だ。

それでは1台ずつまとめていこう。まずRS 3だが、この3台の中で最も刺激的な乗り味で、とにかく乗っていて「気持ちいい」の一言だ。最新のクワトロシステムによる可変前後トルク配分、コーナリング時の旋回性能を高めるトルクベクタリング、エンジンサウンド、パワー感、そしてフロント265、リヤ245というフロントタイヤの方を太くするという設定に、アウディの本気度を感じた。

アウディ RS 3の最高出力は400PS。筑波サーキットのストレートはあっという間だ。

【荒聖治の2023新春サーキットテスト】アウディ RS 3 セダンはパワーもハンドリングも大満足の出来

2.5リッター5気筒を搭載するコンパクトAWDサルーンがアウディRS3セダンだ。アウディ自慢のクワトロシステムを初めとした走行性能を試す。

ゴルフGTIは一般道、高速道路、ワインディングというストリートを中心に、GTIが持つパフォーマンスの高さを感じた。余裕を持って走れる部分が優れていると感じる。高い安定性ときちんと走る・止まる・曲がるができる運動性能もありつつ、快適な乗り味も両立している。今でもFFハッチバックの世界基準となる完成度のクルマであると改めて評価したい。

クイックなステアリングと、車両の完成度の高さで、FFなのに舵角が少ない。シャープに曲がる印象。

【荒聖治の2023新春サーキットテスト】元祖ホットハッチのゴルフGTIはやっぱり今でもGTIだった

今はルノー・メガーヌR.S.やホンダ・シビック・タイプRに奪われたホットハッチの王座をはたして新型ゴルフGTIは奪還できるか?

718ケイマンGTS4.0は、ポルシェらしい完成度の高いクルマだ。前後バランスの良さ、コンフォートな乗り味と走りのパフォーマンスを高次元で両立させた大人のスポーツカーだ。

ポルシェと他車の差を感じるのがブレーキだ。ブレーキペダルを踏んだ時のしっかり感と、短い距離で止まる制動感。これがポルシェに乗っていると実感させてくれる。

【荒聖治の2023新春サーキットテスト】718ケイマンGTS4.0は燃料切れまで走っていたくなる

ポルシェのエントリースポーツモデル「718」とはいえ試乗したのはGTS。4.0リッターを搭載する上位グレードの性能ははたしてどれほどか?

今回乗った3台は、いずれも魅力的なクルマ達ばかりだった。それぞれキャラクターも価格も被らずに見事に分かれているので、駆動方式や走りの味の好みも含めて選んでもらって良いだろうというのが結論だ。冒頭で述べたように、この3台は車両の価格に差があるが、キャラクターも被らない。それぞれに強い個性がある。最新モデルは、この個性を以前よりも強く感じる。これからも、それぞれのメーカーのイメージに合った個性的なコンパクトスポーツが登場するのを楽しみにしている。

REPORT/荒 聖治(Seiji ARA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年2月号

SPECIFICATIONS

アウディRS 3 セダン

ボディサイズ:全長4540 全幅1850 全高1410mm
ホイールベース:2630mm
車両重量:1600kg
エンジン:直列5気筒DOHCターボ
総排気量:2480cc
ボア×ストローク:82.5×92.8mm
圧縮比:10
最高出力:294kW(400PS)/5600-7000rpm
最大トルク:500Nm(51kgm)/2250-5600rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前265/30R19 後245/35R19
最高速度:250km/h(電子制御)
0-100km/h加速:3.8秒
燃料消費率:11.4km/L
車両本体価格(税込):839万円

フォルクスワーゲン・ゴルフGTI

ボディサイズ:全長4295 全幅1790 全高1465mm
ホイールベース:2620mm
車両重量:1430kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1984cc
ボア×ストローク:82.5×92.8mm
圧縮比:9.6
最高出力:180kW(245PS)/5000-6500rpm
最大トルク:370Nm(37.7kgm)/1600-4300rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:FWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前後225/40R18
最高速度:250km/h(電子制御)
0-100km/h加速:6.9秒
燃料消費率:12.8km/L
車両本体価格(税込):486万2000円

ポルシェ718ケイマンGTS4.0

ボディサイズ:全長4405 全幅1800 全高1285mm
ホイールベース:2475mm
車両重量:1440kg
エンジン:水平対向6気筒DOHC
総排気量:3995cc
ボア×ストローク:102×81.5mm
圧縮比:13
最高出力:294kW(400PS)/7000rpm
最大トルク:430Nm(43.9kgm)/5500rpm
トランスミッション:7速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション:前後マクファーソンストラット
ブレーキ:ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前235/35ZR20 後265/35ZR20
最高速度:288km/h
0-100km/h加速:4.0秒
燃料消費率:10.4km/L
車両本体価格(税込):1207万2000円

【問い合わせ】
アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
https://www.audi.co.jp/

ポルシェ コンタクト
TEL 0120-846-911
https://www.porsche.com/japan/jp/

フォルクスワーゲン カスタマーセンター
TEL 0120-993-199
https://www.volkswagen.co.jp/

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荒 聖治