ポルシェを象徴する「クレスト」の誕生秘話とは?

ポルシェのロゴマーク「クレスト」の起源はシュトゥットガルトではなく1950年代初頭のニューヨーク?

ポルシェを象徴するクレストは、1950年代から現在に至るまで、ポルシェ製スポーツカーのボンネットやステアリングホイールで輝いてきた。
ポルシェを象徴するクレストは、1950年代から現在に至るまで、ポルシェ製スポーツカーのボンネットやステアリングホイールで輝いてきた。
ポルシェのボンネットに輝く「クレスト(Crest:紋章)」は、世界で最も人気のあるロゴマークのひとつだ。この美しい紋章は、1952年以来、ツッフェンハウゼンで製造されたすべてのスポーツカーを彩ってきた。そして、その起源は1950年代初頭のニューヨークにまで遡る。

シュトゥットガルトとの強い結びつきを表現

ポルシェを象徴するクレストは、1950年代から現在に至るまで、ポルシェ製スポーツカーのボンネットやステアリングホイールで輝いてきた。
356の品質を保証するシールとして導入されたロゴマーク「クレスト」。そのアイデアは、1950年代のニューヨークで生まれた。

伝統的な紋章からインスピレーションを得た「クレスト」は、中央にシュトゥットガルト市の公式紋章の馬が配置され、黄金の盾の輪郭で縁取られている。その周りをヴュルテンベルク・ホーエンツォレルン州の伝統的な紋章に由来する、スタイリッシュな鹿の角が囲む。

それまでも1948年以来、ポルシェ製スポーツカーのボンネットには「Porsche」文字が描かれてきた。初の量産モデルである356に、その品質を証明するシールとして、クレストが導入されたのは1952年のこと。

1951年3月、シュトゥットガルトの医師でポルシェのオーナーだったオットマール・ドムニックとポルシェは、ドイツの美術学校で、新たなロゴマークのデザインコンテストを開催する。優勝者には1000ドイツマルクが進呈されることになっていたが、残念ながらどのデザインも採用には至らなかった。しかし、このアイデアはドイツから遠く離れたニューヨークで日の目を見ることになる。

フェリー・ポルシェに強く訴えたホフマン

アメリカで欧州製スポーツカーの輸入業をおこなっていたマックス・ホフマン(左)は、フェリー・ポルシェ(右)に、カスタマーの視覚に訴える品質シールの必要性を訴えた。
アメリカで欧州製スポーツカーの輸入業をおこなっていたマックス・ホフマン(左)は、フェリー・ポルシェ(右)に、カスタマーの視覚に訴える品質シールの必要性を訴えた。

最後のひと押しとなったのは、オーストリア生まれのマックス・ホフマン。ホフマン・モーター・カンパニーのオーナーだった彼は、ヨーロッパ製スポーツカーをアメリカへと輸入しており、すでに自動車業界で名を馳せていた。建築家フランク・ロイド・ライトによって設計されたホフマン・モーター・カンパニーのショールームにおいて、彼が導入したほとんどのクルマはアメリカで人気モデルとなったからだ。

ポルシェ 356が米国に導入されて間もなく、ニューヨーク州ワトキンス・グレンで開催されたコンクール・デレガンスにおいて、356は注目車両として賞を獲得した。審美眼に優れたホフマンは、この時ポルシェに高い可能性があると強く感じたという。

そして1951年末、ニューヨークで行われたフェリー・ポルシェとのディナーにおいて、ホフマンはポルシェの人気を確立するためのアイデアをぶつけた。カスタマーの視覚に訴える品質シール、つまりさらなるアイデンティティを生み出すシンボルマークを作り出す必要性を訴えたのだ。

初期段階でほぼ完成に至っていたデザイン

ホフマンとのディナーでシンボルマークの必要性を感じたフェリー・ポルシェは、デザイナーであるフランツ・クサヴァー・ライムシュピースにクレストのデザインを依頼する。
ホフマンとのディナーでシンボルマークの必要性を感じたフェリー・ポルシェは、デザイナーであるフランツ・クサヴァー・ライムシュピースにクレストのデザインを依頼した。

こうして歯車は動き始めた。1951年12月27日、ホフマンとのディナー後にフェリー・ポルシェは次のように、メモを書き留めている。「ポルシェとシュトゥットガルトの紋章をあしらったステアリングホイール・ハブ、またはそれに類するもの」を、と。

ドイツに戻ったフェリー・ポルシェは、ポルシェのデザイナーであるフランツ・クサヴァー・ライムシュピースに、会社のルーツと製品の品質やダイナミズムを象徴する商標デザインを依頼。ライムシュピースがクレストの初期デザインを作成し、細部にわずかな変更が施されたものの、このデザインは現在に至るまで受け継がれている。

今も進化し続ける「クレスト」

現行モデルで使用されているクレストは、2008年から導入された5代目。1952年以来、そのコンセプトを失うことなく、細かい改良が続けられてきた。
現行モデルで使用されているクレストは、2008年から導入された5代目。1952年以来、そのコンセプトを失うことなく、細かい改良が続けられてきた。

1952年、356のステアリングホイール・ハブに初めて「クレスト」が刻まれ、1954年からはボンネットに、1959年からはホイールキャップにもクレストが刻まれるようになった。現在、5度目の進化を遂げたクレストは、デザインに細かな修正が加えられてきたが、その本質はけっして失われていない。

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ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…