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新しいブランド価値の創出
スティーブ・ジョブズが着ていたイッセイ ミヤケのタートルネックにリーバイスのストレートジーンズ。Apple Watchに限らずアップルの製品は、常にニュートラルな味付けとミニマルな外観を身に纏っている。だらこそ、誰もがオシャレに使いこなせる面もある。
だがあらゆる人にとって邪魔にならないシンプルなデザインは、それ自身を好まない人にとって“買わない理由”にもなり得る。Apple Watch UltraはApple Watchの基本を踏襲しながら、そこに極限状況で“命を救う”ための要素、機能性を盛り込むことで、新しいブランド価値を創出しようという意欲的な製品だ。
厳冬期の雪山を登山、厳密な窒素管理が必要なテクニカルダイビング、数時間のトレイルランを続けるといったことに挑戦する人は、ごく稀かもしれない。しかし、そんな極限状況に挑戦する人をサポートするために何が必要かをアスリートとともに考え、機能や内蔵ソフトウェアに落とし込むことでブランドとしての価値を引き出そうというのだ。
過去を振り返れば、IWCがパイロットウォッチを生み出し、ブライトリングがクロノグラフと計算尺の機能を様々なプロフェッショナルに提供し、ブランパンがスクーバダイバーの健康を守るためのウォッチを開発し、それを一般ユーザーが求めることでブランド価値が生まれた。
大きく見やすく、大容量バッテリー、高精度GPSも
Apple Watch Ultraは、より大きく見やすくなった上、2倍の輝度をもつディスプレイを2倍の容量で長時間駆動できる大容量バッテリーで支え、さらには素早く高精度に位置を把握できる2波対応GPSを内蔵。
軽量かつディスプレイを衝撃から守る構造のチタンボディには、手袋をはめたままでも使いやすくなる工夫が盛り込まれるなど、アスリートのための改良が盛りだくさんだ。
腕時計業界に大きな衝撃を与えたApple Watchはスマートウォッチというジャンルを確立すると7年連続で市場をリードしてきた。“時を知る”ためにばね仕掛けで動きつづける複雑な機械が持つロマンチックな世界とは無縁だが、あらゆる情報が集まるスマートフォンの情報を効果的に、我々に知らせてくれる上、毎日の生活を見守る道具としても機能する。
日常ではなくなるスマートウォッチ
携帯電話の普及から腕時計を必要としなくなっていた世代にも訴求し、時刻や日付を知るという基本的な腕時計の機能を超えた価値を周知した。しかし機能性だけに価値が集約されるのなら、そこにブランドは生まれない。実際、売れているのはApple Watch“SE”だ。消費者の大多数は基本機能のみで十分と判断している。
スマートウォッチ黎明期、Apple Watchはニュートラルな1モデルのみで次の時代を指し示す特別な製品であることを主張できた。しかしスマートウォッチが当たり前になっていく中で、それはだんだんと日常になってきたと言える。Apple Watch Ultraは、そんな日常への埋没を拒否しようとするアップルの抵抗なのだ。
REPORT/本田雅一(Masakazu HONDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年 2月号
PRICE
12万4800円
評価
円安の影響で高価に感じるが実はステンレスモデルとの差異は小さい。高輝度、大画面、大容量バッテリーは普段使いにも優れ、チタン素材で意外に軽量。大きさが許容できるなら買いだ。
コストパフォーマンス:3
機能性:5
バッテリー持続時間:4
デザイン・仕上げ:5
革新性:5
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