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スケールメリットを目指すフォルクスワーゲン
「テックデイ 2023」のプレゼンテーションにおいて注目されたのは、フォルクスワーゲン・グループが開発する未来の電動駆動システムだった。現在、フォルクスワーゲン・グループはEVに搭載されるすべての主要コンポーネントの自社開発を目指しており、バッテリーや電気モーターだけでなく、パルスインバータや熱管理システムも自社で開発を続けている。
これらのコンポーネントが実用化するれば、フォルクスワーゲンの電動パワートレインは、すべて1社により提供されるため、約20%もの効率アップに加えて、コスト面で大きなメリットがあるという。フォルクスワーゲン・グループの取締役会長、オリバー・ブルーメは次のように、EV開発におけるアドバンテージについて次のように説明する。
「フォルクスワーゲン・グループとそのブランドは、一流の製品と高い技術の象徴となっています。グループの規模とレンジ、そしてグループ内に結集された専門知識により、私たちは非常に大きなスケールメリットを活用することができます。これがお客様に利益をもたらし、私たちのクルマをより良い存在にしているのです」
フォルクスワーゲン・グループの技術担当取締役のトーマス・シュモールは、次のように付け加えた。
「私たちの目標は、電動モビリティにおいても技術的なリーダーシップを発揮することにあります。そのため、グループ全体が持つ能力を活かし、バッテリーセルや電気モーターだけでなく、パルスインバータや熱管理システムの開発も行なっています。将来的には、フォルクスワーゲン・グループは、最適化された完全な電動駆動システムを提供できる、世界で唯一の自動車メーカーとなるでしょう」
大幅にコンパクト化される熱管理モジュール
パルスインバータは電気駆動系の頭脳であり、効率と性能に大きく関わってくる基幹コンポーネント。フォルクスワーゲンが独自設計した初のパルスインバーターは、ハードウェアとソフトウェアをすべてゼロから設計し直すことになった。
このパルスインバータは、モジュール形式で開発されたことにより、エントリーレベルの電動パワートレインから、最高出力500kW(680PS)以上を発揮するスポーツモデルまでカバー。さらに、将来的には、それ以上の大きさとパワーを持つ大型商用車にも実装することが可能だという。現在、この技術は量産化に向けて開発が続けられており、すでに次世代MEB(Modularer E-Antriebs Baukasten:モジュラー・エレクトリック・ドライブ・マトリックス)に導入される予定だ。
また、熱管理システムに関しても、フォルクスワーゲン・グループは全く新しい技術ソリューションに取り組んでいる。現在使用されている電動パワートレインでは、多数の個別機器とホース接続が使用されているが、将来的には、これらに代わって、極めてコンパクトな統合一体型熱管理モジュールが使用される予定だ。高電圧バッテリーを含め、空調全体を一括制御するため、車両の航続距離と急速充電機能に大きな影響を与え、大幅な軽量化により堅牢かつ効率的な機器になるという。
共通バッテリーセルを80%の車種に採用
フォルクスワーゲン・グループ・テクノロジーは、バッテリー/充電/電気コンポーネントの分野におけるグループ全体の活動を束ね、グループ全体のテクノロジーサプライヤーとして、フォルクスワーゲン傘下にある各ブランドをサポートする。この取り組みには、子会社のバッテリー企業「PowerCo」、充電・エネルギー企業「Elli」も参加している。
今回紹介したフォルクスワーゲン・グループを横断した取り組みは、2025年以降、フォルクスワーゲン・グループの全車両に搭載され、バッテリー技術における新たなベンチマークとなる、共通バッテリーセル「ユニファイド・セル(Unified Cell)」も含まれる。
フォルクスワーゲン・グループは、このユニファイド・セルを2030年までに80%の車両で採用する計画を発表。これにより、バッテリーにかかるコストを50%も削減することが可能になり、より購入しやすい価格でEVを販売することが可能になるという。