歴史から紐解くブランドの本質【ホンダ編】

ドラマチックな歴史こそがホンダのブランド【歴史に見るブランドの本質 Vol.19】

1973年のデイトナ200マイルで6位に入賞したCB750レーサー。
1973年のデイトナ200マイルで6位に入賞したCB750レーサー。
自動車メーカーは単に商品を売るだけではなく、その歴史やブランドをクルマに載せて売っている。しかし、イメージを確固たるものにする道のりは決して容易ではない。本連載では各メーカーの歴史から、そのブランドを考察する。

創業からわずか6年で挑む最高峰

1959年のマン島TTに初挑戦。谷口尚巳選手の駆るRC142が6位入賞を果たす。
1959年のマン島TTに初挑戦。谷口尚巳選手の駆るRC142が6位入賞を果たす。

HONDA。日本でもっとも美しく、かつロマンチックなストーリーを持つ自動車ブランドであると私は考えている。世界的に見ても量産車メーカーでこれほど甘美な歴史をもつブランドはないと思う。

創立者、本田宗一郎は幼少のころから車に魅了され、15歳で東京の自動車修理工場「アート商会」に丁稚奉公する。やがて21歳で独立し、戦後の庶民の足を提供するべく「原動機付き自転車」の生産を始めた。1948年、42歳で本田技研工業を設立し、翌年発売したドリーム号が大ヒット、1952年には従業員1300人の会社に急成長した。

創業からわずか6年後の1954年、宗一郎はとんでもない宣言をする。当時の最高峰バイクレース、マン島TTレースに出場するというものだ。かつてアート商会時代にも、ライディングメカニックとして主人に同乗して、第5回日本自動車競争大会で優勝を飾っていたほどのレース好きだったが、どうせレースをやるなら世界一になりたい、と思ったのだ。

四輪進出と同時にF1参戦を決意

F1初出場となった1964年のドイツGP。RA271に乗ったのはロニー・バックナム選手。
F1初出場となった1964年のドイツGP。RA271に乗ったのはロニー・バックナム選手。

そして5年後の1959年に125ccクラスで初出場を果たす。まだ製品の輸出も始まっておらず、日本には舗装されたサーキットが一つもなかった時代の話である。初戦ながらも最上位は6位を獲得、4台が完走し、メーカーチーム賞も獲得した。この成果により、ヨーロッパでのホンダの知名度はまだ製品が売られていないにもかかわらず一気に高まったのである。

1960年には125ccと250ccの2クラスに参戦、125ccでは2位、250ccでは4位入賞を果たす。そして翌1961年はロードレース世界選手権にフル参戦し、マン島TTでは125ccと250ccの2クラスで1~5位を独占する快挙を成し遂げる。1962年には125cc/250cc/350ccでシリーズチャンピオンを獲得する。怒濤のような快進撃である。

そして四輪車進出と同時にF1参戦を決意。当初はロータスと提携する予定だったが破談となり、エンジンだけでなくシャーシも自製で製造するフルコンストラクターとしての参戦となった。初の四輪車、T360発売翌年の1964年ドイツGPから参戦。2年目の1965年には1500cc時代の最終戦、メキシコGPで初優勝を遂げる。翌1966年にF1は3000ccとなるが、その2年目の1967年イタリアGPで歴史に残る接戦の末優勝する。

成功を収めたアメリカ市場とF1

1975年当時、世界一厳しいマスキー法排出ガス規制にあわせ、アメリカ市場で好評のシビックに搭載されたCVCCエンジン。
1975年当時、世界一厳しいマスキー法排出ガス規制にあわせ、アメリカ市場で好評のシビックに搭載されたCVCCエンジン。

その後ホンダは実現不可能と言われていた排ガスの有害物質を1/10に押さえるというマスキー法に対応するCVCCエンジンを開発、世界をあっと言わせた。シビック、アコード、プレリュード、CR-Xなどデザイン面でも斬新なモデルを次々と輩出し、技術力だけでなく日本車としては垢抜けた都会的なブランドイメージを築きあげた。特にアメリカでの人気はすさまじく、1980年代ではディーラーが希望小売価格を大きく上回るプレミアム価格で販売していたほどである。

1983年にはF1に復帰し、1986~1991年まで6年連続でチャンピオンとなった。その高性能イメージをストレートに感じさせるVTECエンジンやタイプRモデル、NSXなども相まって、世界中に強烈な印象を残し高性能イメージをさらに高めることになった。そしてF1参戦第2期の最後のチャンピオンイヤーである1991年に宗一郎は84歳の生涯を終えることになるのである。

初代レクサスLS400。クレイモデル約50台、試作車約450台、走行テスト350万km余り、開発期間は足かけ6年に及んだ。

日本を屈指の高級車「レクサス」が持つ意外な背景【歴史に見るブランドの本質 Vol.18】

自動車メーカーは単に商品を売るだけではなく、その歴史やブランドをクルマに載せて売っている。しかし、イメージを確固たるものにする道のりは決して容易ではない。本連載では各メーカーの歴史から、そのブランドを考察する。

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著者プロフィール

山崎 明 近影

山崎 明

1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。1989年スイスIMD MBA修了。…