幻のアウディRS2の歴史と魅力を解説

カレラ2に匹敵するステーションワゴン「アウディRS2」誕生の背景とは?「今ネオクラシックが熱い」

ステーションワゴンのアウディ80アバントをベースに、2.2リッター直5にインタークーラー付きのターボを組み合わせた「RS2」。ポルシェ964カレラ2に匹敵するパフォーマンスを誇る。
ステーションワゴンのアウディ80アバントをベースに、2.2リッター直5にインタークーラー付きのターボを組み合わせた「RS2」。ポルシェ964カレラ2に匹敵するパフォーマンスを誇る。
最近クルマ好きの熱い注目を集めているのが「ネオクラシック」だ。粛々と進む電動化の波に抗うように、内燃機関、自然吸気、MTで、ABSなし。もちろんACCなどもってのほかで、極度にシンプルなクルマ達である。そんな今注目のネオクラの中から、今回は幻の激レアステーションワゴン「アウディRS2」を紹介する。

AUDI RS2

アウディとポルシェの意外な関係

クワトロシステムを採用し、ブレンボ製ブレーキ・システムをポルシェ928 S4から、17インチの鋳造マグネシウム・ホイールを964 RSから流用した。
クワトロシステムを採用し、ブレンボ製ブレーキ・システムをポルシェ928 S4から、17インチの鋳造マグネシウム・ホイールを964 RSから流用した。

ドイツ・シュトゥットガルトにあるポルシェ・ミュージアムには、VWビートルなど、ポルシェ製ではないものの、ポルシェに深く縁のあるクルマが何台か保存、展示されている。ポルシェとメルセデス・ベンツのコラボで生まれた500Eもそのひとつだが、それ以外にも2台のネオクラシックが保存されているのをご存知だろうか?

そのうちの1台は、オペルの小型車アストラをベースに、機能的な3列7人乗りのレイアウトや操縦性のセッティングを行い、1999年にデビューしたミニバンのザフィーラ。そしてもう1台が、ポルシェが開発を請け負い1993年のフランクフルト・ショーで発表したスーパースポーツ・ワゴンのアウディRS2である。

そもそもポルシェとアウディは浅からぬ関係にある。戦前、アウトウニオンのミッドシップGPカー、Pヴァーゲンの設計をフェルディナント・ポルシェ博士が請け負ったり、1975年登場のポルシェ924が元々アウディ用に計画されたもので、実際の生産がアウディのネッカーズルム工場で行われたのは有名な話だ。その他にもポルシェが1970年代終盤から911の次期モデルを模索していた時、AWD化を後押ししたのが、アウディの開発部門の責任者だったフェルディナント・ピエヒ(フェルディナント・ポルシェの孫で1972年までポルシェの開発部門の総責任者を務めていた)である。

他にも1985〜86年に極秘裏に製作されたミッドシップAWDのグループSマシン、スポーツクワトロRS002にポルシェの6気筒エンジンを搭載する計画が進められるなど、水面下で両社が関わったプロジェクトが数多くあるのだ。

カレラ2に匹敵するステーションワゴン

今回紹介する「アウディ RS2」もそうした両社のプロジェクトのひとつだ。当時B4系と呼ばれる4代目アウディ80には、すでにクワトロGmbH(1983年に設立されたスポーツ部門で2016年にアウディスポーツGmbHへと改称)によって開発された、230PSを発生する2.2リッター直列5気筒DOHCターボを搭載したアウディS2というスポーツバージョンが存在していた。

しかしアウディは、それを上回る超弩級のスポーツモデルの開発を、ステーションワゴンの80アバントをベースに依頼。ヴァイザッハのポルシェ開発センターもその期待に応え、2.2リッター直5にインタークーラー付きのターボを組み合わせてチューンし、最高出力315PS、最大トルク410Nmを絞り出すことに成功。

加えて専用の6速MT、クワトロシステムを採用したほか、ブレンボ製のブレーキ・システムをポルシェ928 S4から、17インチの鋳造マグネシウム・ホイールを964 RSから流用。0-100km/h加速5.8秒、最高速度248km/hという、ポルシェ964カレラ2に匹敵するパフォーマンスを誇るハイパーワゴンを送り出したのである。

発表されるや否や大反響を巻き起こしたRS2は、当初予定していた2200台を上回る2891台、そしてピエヒのリクエストによって4台のリムジーネ(セダン)が製造された。残念ながら日本には正規輸入されておらず、並行輸入でごくわずかな台数が上陸したのみなので、市場で見かけることはあまりないが、幸運にもアウディミュージアムの所蔵車をドイツで試乗させてもらったことがある。

ベースモデルの素性の良さ

RS2専用のレカロのスポーツシートや革巻きのステアリングホイールを装備する。
RS2専用のレカロのスポーツシートや革巻きのステアリングホイールを装備する。

イメージカラーのノガロブルーに塗られたミュージアムカーは、走行わずか1万5000Kmという極上車で、もちろん隅々までオリジナル。今となってはコンパクトに感じるボディの端にRSと一緒についたポルシェのエンブレムもピカピカだ。確かにレカロのスポーツシートや革巻きのステアリングホイールはRS2の専用装備だが、コクピットに収まった感覚は80のそれ。多少クラッチペダルに踏み応えはあるものの、ミートポイントもわかりやすく、気負いなくスルスルと街中を走ることができる。またAWDのクセもなく、ベースとなったアウディ80の素性の良さを改めて思い知る。

もちろん貴重なミュージアムカーゆえ、荒っぽいことは厳禁なのだが、空いた道でアクセルペダルを踏み込んでみると、ターボラグも感じさせずにグワっとパワーが溢れ出してくる。最初はESPなどの電子デバイスのないアナログなシャシーに315PSのパワーを持て余してしまうのでは?と思っていたのだが、そこはさすがクワトロ、4輪がしっかりと路面を捉え、素晴らしいスタビリティで矢のようにまっすぐと走っていく。またコーナーでも嫌なアンダーステアが出ることもなく、テールの滑り出しも穏やかで安心してコントロールできるのには驚いた。

巷では、500Eと並行してRS2にも関わっていたポルシェに対してメルセデスが怒り、500Eの生産を中止したと言われているが、真偽の程はともかく「メルセデスが嫉妬するのも無理はないな」と思わせるほど爽快なスポーツワゴンであった。

SPECIFICATIONS

アウディRS2

ボディサイズ:全長4310×全幅1695×全高1386mm
ホイールベース:2597mm
車両重量:1595kg
エンジン:直列5気筒DOHCツインターボ
ボア×ストローク:81×86.4mm
総排気量:2226cc
最高出力:315PS(232kW)/6500rpm
最大トルク:410Nm/3000rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:Fマクファーソン式ストラット Rダブルウイッシュボーン
ブレーキ:F&Rベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:F&R245/40R17
最高速度:262km/h
0-100km/h加速:5.4秒

1982年登場のE30型3シリーズをベースに開発されたM3。ライバルに比べ小型の車体やジオメトリー変化が大きいリヤのセミトレーリングアーム・サスペンションなどを補うために前後トレッドを大幅に拡大した。

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著者プロフィール

藤原よしお 近影

藤原よしお

クルマに関しては、ヒストリックカー、海外プレミアム・ブランド、そしてモータースポーツ(特に戦後から1…