ブガッティが開発した鉄道車両「ブガッティ オートレール」

知る人ぞ知る1930年代のブガッティ製気動車は「タイプ41 ロワイヤル」の12.8リッター直8エンジンを搭載

ミュルーズにある鉄道博物館「シテ・デュ・トラン(Cite du Train)」で保管されている、ブガッティ オートカー「ル・プレジデンティエル」。
ロワイヤル用直8エンジンの再利用先として、エットーレ・ブガッティが開発した鉄道車両「ブガッティ オートレール」。
ブガッティが鉄道用車両を手がけていたことをご存知だろうか? 第二次世界大戦前、ブガッティの創始者であるエットーレ・ブガッティが、フランス国鉄のために開発したのが、ブガッティ製ガソリンエンジンを搭載した気動車「ブガッティ オートレール」である。

Bugatti Autorail

先進的な「タイプ41 ロワイヤル」

エットレー・ブガッティが最高のクルマとして開発した「タイプ41 ロワイヤル」は、最高出力300PSオーバーの12.8リッター直列8気筒ガソリンエンジンを搭載していた。
エットレー・ブガッティが最高のクルマを目指して開発した「タイプ41 ロワイヤル」は、最高出力300PSオーバーの12.8リッター直列8気筒ガソリンエンジンを搭載していた。

時代を超越した数多くの自動車を世界へと送り出したエットーレ・ブガッティ、その先見性と革新性は、自動車の世界にとどまらず、様々な分野でも発揮された。彼の功績のひとつとして、高速鉄道よる贅沢な旅を戦前に実現したことにある。そして、そのベースとなったのが、ブガッティ タイプ41 ロワイヤルだった。

比類なき存在感に圧倒的なパワー、そして究極のラグジュアリー……。1926年、ブガッティがタイプ41を発表するとすぐに、自動車業界に大きな衝撃をもたらすことになる。エットーレ・ブガッティが王族にふさわしいクルマとして開発したしたタイプ41は、「ロワイヤル」という名に恥じない豪華さも讃えていた。

全長6mを超えるタイプ41 ロワイヤルは、細長いルーバーを備えたボンネットの下に12.8リッター直列8気筒ガソリンエンジンを搭載。ボンネットは2名によって持ち上げねばならないほど重く、ホイールベースは4.3mもある。

12.8リッター直列8気筒エンジンの使い道

ロワイヤル用直8エンジンの再利用先として、エットーレ・ブガッティが開発した鉄道車両「ブガッティ オートレール」。
「タイプ41 ロワイヤル」のために製造されていた、12.8リッター直列8気筒エンジン。300PSオーバーの最高出力を誇るこのエンジンを、エットーレ・ブガッティは鉄道車両に再利用することを思いつく。

1920~30年代にあって、最高出力300PS超を誇るこの直8エンジンは、3.5tのタイプ41 ロワイヤルを最高速200km/hまで加速させることができた。1気筒あたり3個のバルブを駆動するオーバーヘッド・カムシャフトやツインスパークプラグを備え、レーシングカーさながらのドライサンプ潤滑システムなど、多くの先進性を備えていた。

1932年、ブガッティはエレガントなロードスタースタイルと優れた性能をあわせ持つタイプ41 ロワイヤルの生産仕様を発表した。ただ、世界恐慌による経済不況の影響は凄まじく、すでに25台分のエンジンが製造されていたにも関わらず、実際には4台のみの販売に留まった。

タイプ41 ロワイヤルの洗練された直8エンジンは、エットーレ・ブガッティの中で特別な存在だった。常に天才的なひらめきを持ち、好奇心旺盛な彼は、すでに生産されていたロワイヤル用エンジンの流用先を思いつく。この独創的なエンジンは、フランスの鉄道網に革命をもたらした特急用気動車に搭載されたのである。

当時の世界鉄道速度記録を樹立

ロワイヤル用直8エンジンの再利用先として、エットーレ・ブガッティが開発した鉄道車両「ブガッティ オートレール」。
エットーレ・ブガッティがフランス国鉄のために開発した気動車「オートレール」は、最初の試験で当時の鉄道最速記録172km/hを樹立した。

当時のフランス国鉄は、全国津々浦々まで鉄道網が整備されていたものの、蒸気機関車を中心とした列車は遅く、そして重かった。自家用車やバスとの競合もあり、早急な近代化が求められていたわけである。エットーレ・ブガッティは、フランスの鉄道網の近代化を目指し、タイプ41 ロワイヤルにインスパイアされた先進的な列車のアイデアを実現する。

エットーレ・ブガッティは、わずか9ヶ月で新世代の高速豪華気動車「ブガッティ オートレール」を設計。ロワイヤル用直列8気筒エンジンに設計変更と技術的な改良を施し、フランス国鉄のために開発した新型の鉄道用4軸車両に搭載することを可能にした。

最初の試験で、パワー、軽量構造、空力効率を兼ね備えた美しいフォルムを持つ「ブガッティ オートレール」は、当時の鉄道最高速度となる172km/hを達成。非常に洗練されたエアロダイナミクスを備えており、当時、自動車開発の分野において日進月歩の進化を遂げていた空力の概念が、鉄道に持ち込まれた。1934年には、後期型オートレールが196km/hの世界最速記録を再度打ち立てた。この素晴らしい性能により、フランス国鉄は所要時間を大幅に短縮、快適な長距離特急が実用化された。パリジャンやパリジェンヌは週末に都会を離れ、田舎や郊外の別荘へと、より早く快適に移動できるようになったのだ。

時代を超えた先進的なフォルムや車内

現代のレベルから見ても、非常に先進的な装備が導入されていた「ブガッティ オートレール」。
蒸気機関車が主流だった当時の鉄道に、ブガッティ オートレールは、流線形の車体やルーフ上の運転台、回転式シートなど、多くの先進的な装備を導入している。

ブガッティ製気動車は、走行性能だけでなく、そのフォルムや使い勝手の面でも画期的な存在となった。エットーレ・ブガッティは、運転台をルーフ中央の突き出た場所に配置。これにより、終着駅で方向転換する際にも、360度全方位が見渡せる上、乗り換えの必要もなく、操作性、効率性、安全性が飛躍的に向上したという。

回転シートを導入するなど先進的なインテリアは機能性に富んでおり、座席を回転させることで、乗客は進行方向を向いたり、友人同士で向かい合わせのシートパターンを楽しむことができた。エットーレ・ブガッティは、彼のすべての作品と同様、この列車の内外装にも最高の美しさを求めていたのだ。

ブガッティは、合計88両のオートレールを製造。鉄道事業により、ブガッティは1930年代の混乱期を乗り切っただけでなく、列車の製造とメンテナンスに必要な業務を担うため、モルスハイムの工場を拡張することにもなった。

ブガッティが製作した88両のうち、現存するオートレールは1両のみ。写真の「ル・プレジデンティエル(Le Presidentiel)」は、ブガッティが最初に納入した鉄道車両のひとつで、ETAT(フランス地方鉄道)が運用した。現在、ル・プレジデンティエルはミュルーズにある鉄道博物館「シテ・デュ・トラン(Cite du Train)」で保管されている。

2021年の実車お披露目以来、開発が続けられてきた「ブガッティ ボリード」。その実走テストがいよいよスタートした。

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ゲンロクWeb編集部

スーパーカー&ラグジュアリーマガジン『GENROQ』のウェブ版ということで、本誌の流れを汲みつつも、若干…