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Porsche 911 GT3
世界中のスポーツが目指す911 GT3の最新型
911 GT3は世界中のあらゆるスポーツカーの指針であり、常にど真ん中にいるような存在だ。その出力性能が、あるいはニュルでのラップタイムが常に注目され目標となり、我こそはと後を追うメーカーが後を絶たない。
そんな911 GT3の、タイプ992型がいよいよ登場した。全長20.8kmのニュル北コースのラップタイムを、先代(991/2型)に比べて17秒以上早く走ったという。その数値、6分59秒927。また高いハードルを用意してくれたものだと、世界中の自動車エンジニアが思っているに違いない。
とはいっても、特別な飛び道具をまとっているわけではない。パワーユニットは4.0リッター水平対向の“自然吸気”。911 GT3が自然吸気を貫いてくれたことだけでも敬意を評したい。過給機や電気のチカラを借りれば、出力性能だけは無尽蔵に上がる。それを敢えて封じ込めただけで価値がある。
伝統の“GT3”に相応しいレーシングカー直系モデル
具体的には、GT3カップカーの4.0リッター水平対向をそのまま持ち込むという大胆な手法である。排気系とECU以外はすべてレーシングエンジンと同じというから驚く。出力性能は最高出力510ps/8400rpm、最大トルク470Nm/6100rpm。エンジンは9000rpmまで回る超高回転型で、0-100km/h加速は3.4秒、最高速度は318km/hに達する。ミッションは7速PDKに加えて、トラディショナルな6速MTもラインナップされる。
タイムアップの理由はこのエンジン性能もさることながら、大幅にアップデートされたシャシー性能に依るところも大きい。フロントアクスルは911RSR譲りとなるダブルウィッシュボーン式。リヤは911カレラ系と同じマルチリンクながらも、ロワウィッシュボーンにボールジョイントを追加して精度を高めている。もちろん、リヤアクスルステアシステムも搭載して、高速走行時のスタビリティを確保し、低速時の旋回性能を高めている。
奇を衒わずスポーツカーの基本を愚直に追及
ボンネットとリヤウイング、スポイラーなどはすべてCFRP製としたほか、すべてのウインドウ類は軽量ガラスに。380mmから408mmに拡大されたにも関わらず17%も軽くなったというフロントブレーキや、前後20インチの鍛造ホイールなど、軽量化に抜かりはない。結果として6速MTモデルで1418kg、7速PDKモデルで1435kgに。先代よりも若干ボディサイズが拡大されたものの、重量は軽くなっている。
その上でエアロダイナミクス性能も抜群だ。スワンネックタイプのリヤウイングは最大で160kgものダウンフォース量を持って車体を路面にへばりつかせる。さらに前後のディフューザーやリップスポイラーなどの相互作用により、最大ダウンフォース量は先代モデルの4倍に到達したという。
地道な軽量化とエアロダイナミクス性能などの技術は、純レーシングカーである911RSRやカップカーのノウハウを活かしたもの。ポルシェモータースポーツセンターが手がける、レーシングカー直系ロードカーという側面がより色濃くなった印象を受ける。
6速マニュアルトランスミッションも用意
それでもなお、速さがすべてというレーシングカーの世界とは違って、トラディショナルな3ペダルの6速MTを残していたり、また先のスワンネックリヤウイングを廃して内装の意匠を違えたツーリングパッケージを用意したり。冷徹なサーキットアタッカーではなく、限界まで攻めずともドライビングを楽しめるような選択肢が残されていることを歓迎したい。
911 GT3に添えられたキャッチコピーは「Carpe secundum(その瞬間を生きろ)」だった。1秒を最大限に活用する(タイムを詰める)ことをずっと貫いてきたGT3らしい言葉だと思う。同時に、純粋な内燃機関が終焉へ向かいつつある今こそ、その集大成と言えるGT3と共に過ごす1秒を大事にすべきだ、という我々に対するメッセージなのかもしれない。
TEXT/中三川大地(Daichi NAKAMIGAWA)
PHOTO/山本佳吾(Keigo YAMAMOTO)