ワイドボディが凄まじいオーラを放つ新型「シボレー コルベット Z06」に試乗

ワイドボディがオーラを放つ新型「シボレー コルベット Z06」のV8自然吸気を箱根の山道で試した

V8自然吸気、ドライサンプにフラットプレーンクランク、排気量5.5リッター、600PS以上……。新車で買えるV8DOHCフラットプレーンのミッドシップの出現はニュースという他ない。
V8自然吸気、ドライサンプにフラットプレーンクランク、排気量5.5リッター、600PS以上……。新車で買えるV8DOHCフラットプレーンのミッドシップの出現はニュースという他ない。
新型コルベットにZ06が追加された。レーシングユニット由来のV8DOHCを搭載してパワーは646PS、そしてさらなるワイドボディによって見た目でも凄まじいオーラを放つ。サーキットで鍛えられたV8はストリートでどのようなパフォーマンスを見せるのか。(GENROQ 2023年10月号より転載・再構成)

Chevrolet Corvette Z06

北米市場だけで4万台

ノーマルより張り出したフェンダーが圧巻。ウイング付きZ07パッケージではないが、張り出したフェンダーとフロントの形状違いがZ06を主張する。

3000。これが何を表す数字か、お分かりだろうか。伝統のFRからミッドシップへとコペルニクス的転回をみせた8代目コルベット(C8)のアメリカ市場における“月間”販売台数だ。つまり、アメリカ国内だけで実に年間3万台以上を売りさばく。昨年は3.5万台弱で、今年はそれを上回るペースだから、北米市場だけで目標の年産4万台に到達しそうな勢いだ。

地元マーケットでこれだけ支持されているということがコルベットの強みである。だからこそミッドシップレイアウトへの大転換というレース活動と電動化を見据えた布石を打つことができたし、欧州スーパーカー級のスペックながら価格を抑えることもできた。何しろV8コルベットと価格的に競合する欧州のリヤエンジンスポーツカーといえば4気筒エンジンが主流なのだから!

裾野が広がれば頂上も高くなる。GMは当然ながらハイブリッドのEレイをはじめ、さまざまな派生モデルをC8シリーズに用意しており、ラインナップの拡充もまたお楽しみのひとつ。なかでもZ06は性能面におけるアイコンとしてC8人気をさらに押し上げることになるだろう。

新車で買えるミッドシップV8DOHCフラットプレーン

“待望の”という形容はまさにこのクルマのためにあった。Z06には新開発のV8自然吸気エンジンが積まれると初めて知った時には耳を疑ったものだ。しかもコルベット久々のDOHCで、ドライサンプにフラットプレーンクランク、排気量5.5リッター、600PS以上……。早々に過給器ダウンサイザーとなったマラネッロ製V8ミッドシップカーに関してNAエンジンを搭載する過去モデルへのノスタルジーが一層深まった頃に知ったものだから、新車で買えるV8DOHCフラットプレーンのミッドシップが出現というニュースに垂涎となったのは言うまでもない。

もっとも当初は日本への正規輸入など叶わないという見立てが有力だった。GMの関係者でさえ難しいと言っていた。なかでも音が厳しい。並行車を狙うほかないのか。諦めかけた昨年、“どうやら正規輸入されるらしい”という噂がマニアの間で流れた。けれどもモデルキャラとアメリカ市場での人気ぶりを考えるに、小さな市場への導入は難しいのではないだろうか。筆者は否定的だった。

が、しかし。今年5月、GMジャパンは(しっかり)日本仕様としたZ06を発表した。ジャパンの熱情と執念に、いちコルベットファンとして感謝するほかない。

2023年モデルは僅かに4台

発表時点では分からなかった販売方法が明らかになった。23年モデルは僅かに4台で黒い3LTのみ。もちろん抽選だ。ただし抽選のみの応募はできず、まずは24年モデル(Z06)をオーダーし、9月3日までに申し込んだ人の中からMY23(4台)を希望する方だけを篩にかけ4名を決める。落ちた人(大多数)はそのままMY24を、場合によってはMY25を待ってもらう。抽選には参加できないが9月4日以降のオーダーも可能だ(10月31日まで)。要するにMY24以降は限定ではない。とりあえず並ぶことはできる!

MY24以降では先進安全装備など仕様が変わるかもしれない。少なくともMY24ではボディカラーが黒のほか赤や白も選べる。MY23のプライスタグは2500万円(アメリカのプレミア価格を考えるとバーゲンだ!)だが、MY24以降は為替や装備の充実によって価格の変更もありうる。というわけで、MY24のデリバリーは予約の先着順だ。

待望どころか奇跡の日本導入決定。さらに驚きは我々メディア取材用に貴重なMY23のZ06 3LTのプレスカーが下されたことだ。放っておいても確実に売れるクルマを広報車として提供するのだから、なんと太っ腹なことか。もっともこの手の高性能モデルの場合、その凄さをあらかじめ多くのクルマ好きに知ってもらっておくこともマーケティングや顧客対策上、重要ではあった。

だからといってスーパーカーマニアの筆者がZ06の性能を誰かに忖度して語ることはない。待望であったがゆえに舞い上がることなく冷静に見極めようと心を引き締めて夏のハコネでZ06と対峙した。

全身からほとばしる異質なオーラ

黒と赤のコンビネーション(要するに今年の4台と同じ仕様)は本国においてZ06の人気のコーディネーションらしい。ノーマルより張り出したフェンダーが秘めた凶暴さを抑えきれず見る者に迫る。ド派手なウイング付きのZ07パッケージではないので、張り出したフェンダーとフロントマスクの大きな口に(黒いボディゆえ)気づきさえしなければZ06だと分からないはずだが、全身からほとばしる異質なオーラに思わずたじろいでしまった。

エンドマフラーは本国仕様のセンター4本出しとは違ってスタンダードと同じ左右4本出し。それゆえ日本仕様の最高出力は少し下がった。十二分ではあるけれど。流石に直管仕様のセンター出しは日本のレギュレーションに適合しない。そしてもちろん右ハンドルである。

美しいレッドレザーインテリアに見惚れる。これまでのコルベットとはまるで違う見栄え質感の高さ。レーシングカーであるC8・Rとヘッドやブロックを共有するLT6エンジンが意外にも静かに目を覚ました。

“ツーリング”モードで走り出せば、街乗りから高速道路まで、標準モデルとなんら変わらぬ快適性を保つ。8000rpm以上回る高出力なNAエンジンとは思えぬ柔軟性の高さだ。逆にいうと乗り手をドキドキさせることはない。そこにかえって高性能エンジンに対するGMの開発能力の高さを知る思いだ。

レーシングユニット直系ゆえの扱いやすさ

まず日本では抽選販売となり、ボディカラーはこのブラックのみが導入される。

天気の変わり目で観光客の少ないオープンロードを狙い、“スポーツ”モードに切り替えた。サウンドは明らかにラウドさを増し、下半身に力の塊を感じる。4000rpmを過ぎたあたりから獰猛さを隠しきれなくなり、そこからずっと力を漲らせたまま一気に8000rpm超まで回っていく。高出力なターボカーほど劇的ではない。けれども回転数が上がるにつれてまるで転がる雪だるまのように力強さが増していく。

高回転域においても“苦しさ”をまるで感じさせず、むしろ平然と回っている感覚すらあった。そう、公道などこのマシンにとって鼻歌レベルなのだ。レーシングユニット直系ゆえの扱いやすさというべきだろう。逆にいうと、あまりに精緻に回りながら高回転域で力強さをキープするので、公道ではLT6の本当の魅力を味わいきれないと思う。サーキットでも試してみたい!

ルーフを外して軽く流した。背後で咽び泣くサウンドなど期待してなかったといえば嘘になる。LT6は、低回転域からの力強さはもちろんのこと、エキゾーストノートの音質においてもアメリカンV8らしさを貫いていたことも印象的だった。

REPORT/西川 淳(Jun NISHIKAWA)
PHOTO/平野 陽(Akio HIRANO)
MAGAZINE/GENROQ 2023年10月号

SPECIFICATIONS

シボレー・コルベットZ06

ボディサイズ:全長4685 全幅2025 全高1225mm
ホイールベース:2725mm
車両重量:1720kg
エンジン:V型8気筒DOHC
総排気量:5454cc
最高出力:475kW(646PS)/8550rpm
最大トルク:623Nm(63.6kgm)/6300rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/30ZR20 後345/25ZR21
車両本体価格:2500万円

【問い合わせ】
GMジャパン・カスタマーセンター
TEL 0120-711-276
https://www.gmjapan.co.jp/

ついに日本導入が発表された「コルベット Z06」。サーキット走行を前提としたハイパフォーマンスグレードには初めて右ハンドル仕様が用意される。

最高出力646PSの5.5リッターV8自然吸気を搭載する「シボレー コルベット Z06」の日本導入予定価格は2500万円

2023年5月20日、ゼネラルモーターズ・ジャパンは、富士スピードウェイで開催したシボレーのファンイベント「CHEVROLET FAN DAY 2023」において、「シボレー コルベット Z06」の日本導入予定を発表した。日本での販売台数は正式には発表されていないが、プレミアがつくのは必至で抽選販売が予定されている。

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西川 淳