最新「BMW 5シリーズ」をガソリン車とEVで試乗して比較

【比較試乗】最新「BMW 5シリーズ」はリラックスして乗れる「523i」と怒涛の加速を見せる「i5 M60」でどちらを選ぶ?

BMWがi3とi8を発売したのはもう10年も前のこと。EV専用プラットフォームと異彩を放つデザインで話題となったが、販売的には決して成功したとはいえず、ひっそりと消えていった。そんなBMWはいま、EVとエンジン車を同じ車台の上に構築する。ライバルとは真逆の戦略を貫く、BMWの最新作2台を試した。(GENROQ 2024年1月号より転載・再構成)

BMW 5 Series

全車がいわゆる電動化された

揺るぎない「型」があるからこそ「型破り」もできる、ということか。新しい7シリーズやXMなどでは、鬼面人を嚇すような巨大でアグレッシブなキドニーグリルで世間を驚かせたのに、新型5シリーズセダンは一転してどちらかといえば正統派でコンサバなスタイルである。それもまあ当然かもしれない。ミドルクラスセダンの代名詞的存在である5シリーズは、1972年の初代E12型から数えてこのG60型で通算8代目、半世紀を超える長い歴史を持ち、累計生産台数は1000万台以上という定番セダンである。BMWを支えるメインストリーマーの既存カスタマーを考えないわけにはいかないというものだ。

新型5シリーズの特徴は7シリーズ同様、同じボディでガソリン、ディーゼルからPHV(来春追加予定で日本導入は未定)、さらに純EVまで多彩なパワートレインを揃えていること。ただし、ガソリンとディーゼル車はマイルドハイブリッド化され、全車がいわゆる電動化されたことになる。そして全体的に大型化された。ガソリン4気筒ターボを積む523iの外寸は5060×1900×1515mm、ホイールベースは2995mmというもので、従来型と比べると全長はおよそ10cm長く、全幅と全高もそれぞれ+30mm、+35mm、ホイールベースは20mm長くなっており、全長5m内に収めた新型メルセデス・ベンツ Eクラスよりも明らかに大きくなった。

真っ当なセダンボディで全高が1500mmを超えるのは珍しいが、これはやはりBEVとボディを共用することが理由だろう。フロア下に駆動用バッテリーを搭載するためにBEVはどうしても床が高くなり、自然で快適な後席空間を確保するにはルーフを上げざるを得ない。それでもあまり背が高いように見えないのは伸びた全長を巧妙に利用してデザインされているからかもしれない。またホイールベースがほぼ3mともなれば取り回しが気になるところだが、523iにはオプションで後輪操舵を含むインテグレーテッド・アクティブ・ステアリングも用意されており(BEVのi5には標準装備)、その場合の最小回転半径は5.7mと発表されている。

最新のBMWインテリアを採用

今のところ発表されている日本仕様は、ガソリン2.0リッターターボの「523i」、ディーゼル2.0リッターターボ4WDの「523d xドライブ」、そして5シリーズでは初となるBEVの「i5 eドライブ40」、および「i5 M60 xドライブ」というラインナップである。この中からベーシックな523iエクスクルーシブを中心にフラッグシップのi5 M60 xドライブも含めて第一印象をリポートする。

比較的おとなしめとはいえ、キドニーグリルの輪郭に仕込まれたLED照明(アイコニック・グローと称する)をはじめ、細心のBMWであることを主張するアイテムには事欠かない。インテリアも最新のBMW各車同様、インフォメーションとコントロールディスプレイをつなげたカーブドディスプレイが目立ち、空調スイッチなどもタッチディスプレイの中に収められているが、センターコンソールにはiドライブのダイヤルコントローラーとドライブモード切り替えなどの個別のスイッチが残されている(一体式のタッチスイッチだが)。

オジサン世代だけかもしれないが、運転中に操作するのはやはり手元のスイッチが圧倒的に使いやすい。とはいえフィードバック付きではあるものの、今ひとつ馴染めないのが正直なところだ。523iのステアリングホイールは6角形の2本スポーク、M60のほうは3本スポークで握りも太めのMスポーツステアリングである。選択したモードに応じて色が変わり、また必要に応じて点滅する、ダッシュからドアまでつながる「インタラクション・バー」や「クラフテッド・クリスタル・フィニッシュ」と称するガラス製のシフトセレクター、iドライブコントローラーなど、光り物も上手に取り入れられてラグジュアリーな雰囲気だ。後席は当然十分に広く、いわゆるヒール段差(シート座面とフロアの距離)も適切で自然に座ることができる。

EVに切り替える理由は?

523iとi5 M60で表情は大きく異なる。ただし523iもMスポーツになるとi5 M60同様のバンパーとなり、凄味が増す。一方、ブラックアウトされたグリル(?)+周囲が光るアイコニック・グローはi5 M60専用のアイデンティティ。この顔が迫ってきたら気をつけるべし。

523iが搭載する2.0リッター4気筒ガソリンターボエンジンは従来同様のB48型ながら、前述のように新たに48Vマイルドハイブリッドシステムが組み合わされるとともにミラーサイクルを採用するなどの改良が加えられており、従来型よりも若干強力な190PSと310Nmを生み出す。トランスミッションはこれまで同様シフトパドル付き8速ATである。5mを超える大型ボディに対してちょっと不安もあったが、なかなかどうして軽快に走る。全開加速時はもうひと踏ん張りと感じる時もないではなかったが、通常走行時は思った以上にレスポンス良く、そしてBMWらしく滑らかだ。コンフォート・ドライビング・パッケージ(可変ダンパーのアダプティブ・サスペンションやインテグレーテッド・アクティブ・ステアリングなど)を備える試乗車のハンドリングは切れ味鋭いというほどではないが、リニアで粘り強く、安心感に溢れている。

一方、前後に261PS/365Nmと340PS/430Nmを発生するモーターをそれぞれ搭載するM60(システムトータルでは601PSと795Nm!)は、2.4t近い車重をまったくものともせず、怒涛の加速を見せる。とはいえ、ローンチコントロールを試しても、アクスルがバタつくなど乱暴な仕草を一切見せないのが見事である。こちらはアダプティブMサスペンション・プロフェッショナル(アクティブ・スタビライザー付き)装備でグイグイと曲がっていくが、そんな走り方をしているとみるみる残りレンジが減っていくのが気になる。乗り心地も明らかに硬派なので、オジサンには清々しくリラックスして乗れる523iが好ましく思えた(高速道路を大人しく流すと燃費も17km/Lを超えた)。EVに切り替える理由はまだない、と私は思う。

REPORT/高平高輝(Koki TAKAHIRA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)
MAGAZINE/GENROQ 2024年 1月号

SPECIFICATIONS

BMW 523i エクスクルーシブ

ボディサイズ:全長5060 全幅1900 全高1515mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:1760kg
エンジン:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1998cc
最高出力:140kW(190PS)/5000rpm
最大トルク:310Nm(31.6kgm)/1500-4000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):255/55R18(7.5J)
車両本体価格:798万円

BMW i5 M60 xDrive

ボディサイズ:全長5060 全幅1900 全高1505mm
ホイールベース:2995mm
車両重量:2360kg
電気モーター:交流同期電動機
最高出力:前192kW(261PS) 後250kW(340PS)
最大トルク:前365Nm(37.2kgm) 後430Nm(43.8kgm)
システム総合最高出力:442kW(601PS)
システム総合最大トルク:795Nm(81.1kgm)
バッテリー:リチウムイオン電池
総電力量:83.9kWh
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/40R20(8.5J) 後275/35R20(10J)
車両本体価格:1548万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー・インタラクション・センター
0120-269-437
https://www.bmw.co.jp/

先代より全体的にサイズアップを果たした新型「5シリーズ」。その全長はついに5mを超え、ホイールベースもほとんど3mとなった。

「電気かガソリンか」新型BMW 5シリーズで選択できるICEとEVの価値を比較検討する

2023年7月、日本市場への上陸を果たした新型「BMW 5シリーズ」。当面はセダンボディのみのラインナップとなるが、これまで同様の内燃機関搭載モデルに加えて、EVモデルとなる「i5」も取りそろえられている。ということで、今回は新型5シリーズのガソリンエンジンモデルとEVモデルに設定された「THE FIRST EDITION」の違いを比べてみよう。

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著者プロフィール

高平高輝 近影

高平高輝

大学卒業後、二玄社カーグラフィック編集部とナビ編集部に通算4半世紀在籍、自動車業界を広く勉強させてい…