連載

GENROQ マクラーレンクロニクル

McLaren F1

当初なかったコンペティションへの転用予定

搭載されるエンジンはBMW M社製の6064cc V型12気筒。基本スペックに変化はないが、そのチューニングはさらに進められ、最高出力は636PSとなった。

1994年にマクラーレン「F1」のデリバリーが開始されると、その驚愕のパフォーマンスはさまざまなシーンで実証されることになった。実際の加速性能は、0→96km/h(60mph)の3.2秒を始め、0→241km/h(150mph)においても12.8秒という圧倒的な数字を記録。

最高速テストも数度にわたって行われているが、1998年にプロトタイプの「XP5」を使用したテストでは、391km/hの最高速を記録している。ちなみにこの最高速はイタリアのナルド・サーキットにある真円の最高速テスト用の周回路を用いたもので、順方向と逆方向の2回を測定し、その平均値が最高速として認められる規則のため、正式にはここでの公式データは386.4km/hが最高速として認定されている。

そのパフォーマンス、そしてマクラーレンというモータースポーツの世界では超一流のブランドバリュー。多くのプライベーターが、F1をモータースポーツに投じようと考えたのは自然な発想だった。だがマクラーレンには当初、F1をコンペティションモデルに転用する考えはなく、それはあくまでオンロードで究極のパフォーマンスを体験するためのモデルという意識が強かった。だが将来的に何らかのカタチでF1がサーキットに姿を現すことは、これもまた間違いのないところで、それならば自らコンペティションモデルを製作した方が得策であるという考えが社内でまとまるまでに、長い時間は必要ではなかった。

当時のGTカーの車両規定に基づいて製作

このような経緯からマクラーレンが1995年1月に発表したのが「F1GTR」だ。それは紛れもなくマクラーレン製のコンペティションモデルであり、F1GP以外のカテゴリーに、マクラーレン製のマシンが久々に復活を遂げた瞬間でもあった。

F1GTRのエクステエリアは当時のGTカーの車両規定に基づきリニューアルされ、グランドエフェクトのためのさまざまな機構やエアブレーキとしての機能も果たす可変式リヤウイングなどの採用が認められない代わりに、リヤには大型のウイングを装着。フロントのバンパースポイラーやルーフに備わるエアインテークもそのデザインが変更されている。

搭載エンジンはBMW M社製の6064cc V型12気筒と基本スペックに変化はないが、そのチューニングはさらに進められ、最高出力は636PSに(実際には性能調整のためリストリクターで約600PSに制限されていた)。搭載方式もモノコックにリジッドマウントされる形式となった。クラッチやギアボックス、あるいはデファレンシャルといったパワートレイン一式にも、モータースポーツユースを想定して、万全の対策が施されている。

ル・マン24時間で勝利

マクラーレン・テクノロジー・センターに展示された3台。左から「F1ロングテール」、ル・マンで優勝した「F1GTR」、「F1LM」。

F1GTRの速さは、やはり予想されたとおりのものだった。デビューレースとなった1995年のBPRシリーズ開幕戦、へレスで見事なデビューウィンを飾り、さらにこの年のル・マン24時間には一挙に7台のF1GTRがエントリー。この最も過酷な戦いを制するに至ったのだ。

1995年に5台のみが製作された「F1LM」は、このル・マン24時間での勝利を記念した特別仕様車で、ボディーカラーはすべてビブラント・オレンジ。リヤウイングの翼端板にはル・マン24時間を制したことを表すロゴが、またテールエンドにはLMの専用エンブレムが装備されている。前後のタイヤが通常のロード仕様が17インチ径であるのに対し、このLMでは18インチ径となるのも特徴。生産当時に発表されたスペックによれば、その重量は1062kgという数字で、これは通常のロード仕様に対してさらに70kgも低い数字になる。

1997年のF1GTRは、大幅なエアロダイナミクスの見直しを図って登場した。ロングノーズ、ロングテールの特徴的なスタイルを得るとともに、搭載エンジンの排気量をそれまでの6064ccから5999ccにダウン。組み合わされるミッションもエクストラック社の6速シーケンシャルに変更された。これらの、いわゆるエボリューションモデルを製作するために、マクラーレンが1997年に生み出したのが、いわゆるホモロゲーションモデルの「F1GT」。その独特なスタイリングとともに、このGTはマクラーレンF1の最終進化型となった一台として知られる。

全生産台数はわずかに106台

マクラーレンの発表によれば、F1シリーズの全生産台数はロードモデル、コンペティションモデルを合せても、わずかに106台。この数字は2018年に誕生したアルティメットシリーズの「スピードテール」において、その限定生産台数として再びそれが掲げられている。スピードテールもまたキャビンセンターにドライバーズシートをレイアウトするF1譲りの独特な設計を採用したモデル。マクラーレンF1の伝統は、ここに受け継がれたのだ。

今も伝説の3シータースーパースポーツカー「マクラーレン F1」を解説する【マクラーレン クロニクル】

オンロードを走れるF1マシンと形容される「マクラーレンF1」。だがF1は、車両規定による制約がない分、逆に当時のF1マシンよりもはるかに進化した存在だったという。今も伝説のロードカーとして語り継がれる「F1」を2回に分けて解説する。

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