Dallara EXP

レーシングカーだけを作るために

フォーミュラカー製造界の“オンリー1”というべきダラーラ・アウトモビリ。設立は1972年で、私が訪れ始めて25年しか経っていないが、その間の成長は著しい。今やインディカーやスーパーフォーミュラはもとより、頂点たるF1も含め世界中のフォーミュラカーを一手に設計し、そして、自社にて製造まで取り仕切る。

ダラーラのスタッフ曰く「フォーミュラカーのデザインと生産だけでは全く商売にはなりません。けれども毎週末、世界中のどこかでフォーミュラカーレースが開催され、そのたびに多くの補修パーツ、ウイングやカウルなど、のオーダーが入ってきます。そこがビジネスのヒントです」。ダラーラには世界最先端のカーボンテクノロジーがあり、成型技術とファクトリーもあった。

創始者の名はジャンパオロ・ダラーラ。自動車界においてはエンツォ・フェラーリやコーリン・チャプマン(ロータス)と並ぶ立志伝中の人物だ。大学で空力を学んだ後、レーシングカーの設計に携わりたい一心でフェラーリ、マセラティ、ランボルギーニ、デ・トマソを渡り歩き、最終的には作りたいもの、すなわちレーシングカーだけを作るためには独立するほかないと決意するに至った。

今や複雑になりすぎたスーパーカーに対して

そんな彼が80歳の誕生日、2016年11月16日に発表したロードカーがその名も「ダラーラ ストラダーレ」。伝説のスーパーカー「ランボルギーニ ミウラ」を設計して以来、ジャンパオロのもうひとつの夢が自身の名を冠したロードカーを世に送り出すことだった。

ストラダーレの設計コンセプトはシンプルだ。“誰もが楽しめるリアルスポーツカー”である。スペックやデザインで人を驚かせる最新スーパーカーとは対極にあるシンプルなスポーツカーである。私は10年ほど前、ジャンパオロを京都に招いた際(ストラダーレの発表前だった)に「ミウラのようなスーパーカーをもう一度デザインして欲しい」とお願いしてみたが、はっきりと否定された。

「スーパーカーの設計は今や複雑になりすぎている。性能もすさまじいし、掛かる費用も莫大になった。仮に作ることができたとしても恐ろしく高価なクルマになるだろう(実際、その後にハイパーカーの流れができた)。私がデザインしたいのは、私のような老人でもドライブを楽しめて、何とか購入できるアフォーダブルなスポーツカーなんだ」。

何から何までドライバーの意思に忠実

そうして生まれたストラダーレは正に公道を走るレーシングカーだ。バルケッタからロードスター、ガルウィングクーペまで三様のスタイルが選べ、モノコックボディはもちろんボディパネルまでフルカーボン製。唯一無二のライトウェイトスポーツカーだと言っていい。

そんなダラーラ ストラダーレの派生モデルとして登場したのが、本稿の主役、トラック専用マシンのEXPである。最高出力500PS、最大トルク700Nmにまでチューンナップされたフォード製2.3リッター直4ターボエンジンをミドに積む。ダラーラ本社に程近いヴァラーノ・サーキットにてテストすることになった。

まずはノーマルのストラダーレでコースレイアウトを確認だ。嬉しいことに3ペダルマニュアル仕様だった。相変わらず乗り心地よく、それでいて何から何までドライバーの意思に忠実に動いてくれる(という感覚がある)。アクセルペダルはもちろん、ブレーキも、そしてステアリングも応答性に優れる。ダイレクトでクイック、だけど、ドライバーの先を行きすぎない。以前にもストラダーレで走ったコースだ。道順を思い出す。

圧倒的に戦闘的な雰囲気

ストラダーレで“サーキットでは軽さが正義”を実感し、本題のEXPに乗り込んだ。ウインドシールドのないバルケッタボディにエアロデバイスの数々を付け足して、ダクトの類も数多く穿たれている。巨大な、そしていかにも効きそうなリヤウイングも特徴のひとつ。もちろんスリックタイヤ。ストラダーレに比べれば、圧倒的に戦闘的な雰囲気だ。

こちらは2ペダル。とはいえ、ロードカーのようにゆるゆる発進すると前には進まない。思い切り踏み込み、トランスミッションと対峙する。ガツンガツンと容赦なく突き上げられて、否応なしに心拍数は上がる。盛大なエグゾーストサウンドのみならず、空中に晒された身体の風切り音が耳をつんざく。

その乗り味はストラダーレとはまるで違う。ロードカーでは世界一レベルだったマシンとの一体感は、そのさらに上。全身で、というよりも、神経レベルでマシンと繋がったかのよう。周回を重ねる、つまりマシンに慣れるに従って、自由度が増していく。凄まじい制動力に励まされつつスロットルを惜しみなく開けて、ダウンフォースを有効に使えるよう“速い”旋回速度をキープする。

アタマとカラダを鍛えるスポーツ

恐ろしいまでのダウンフォース。とても使いこなせているとは思えないから、かえって安心していられる。それでも実はスリリングなのだ。マシンは余裕綽々なのにドライバーがかつてない旋回Gを感じているからだ。私のような素人がレーシングカーに乗ると冷静さを失いがちになる。けれどもダラーラEXPは違う。場面ごとの課題がはっきりと記憶され、頭では冷静に習熟レベルを上げていける感覚があった。同時に身体への負担も徐々に増していく。ダラーラEXPをサーキットで走らせるということはアタマとカラダを鍛えるスポーツというわけだ。

スポーツカーとは何か。それを一般道とサーキット、両方の場所で教えてくれる。ジャンパオロの生み出したストラダーレとEXPは、フォーミュラカーマニュファクチュラーが生み出した現代の奇跡であった。

PHOTO/dallara

SPECIFICATIONS

ダラーラ EXP

ボディサイズ:全長4180 全幅1870 全高1170mm
ホイールベース:2475mm
車両重量:890kg
エンジン:直列4気筒ターボ
総排気量:2300cc
最高出力:368kW(500PS)/6000rpm
最大トルク:700Nm(71.4kgm)/4000rpm
エンジン:6速RMT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前205/45ZR17 後255/35ZR18
車両本体価格:4356万円

レーシングカーのようなダラーラ ストラダーレのサーキット仕様「ダラーラEXP」。車重とパワーは速いフォーミュラ級だ。

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レーシングコンストラクターが造ったロードカーである。ダラーラ初のナンバー付きスポーツカー、ストラダーレは当然レーシングカーに比肩する性能を有していたが、それをさらに過激にしたEXPの実力を確かめた。