中村史郎×古場博之=「めっちゃ楽しいクルマですよ」




キュートなこのクルマ、デザインは日産でチーフ・クリエイティブ・オフフィサーを務めた中村史郎氏が率いるSNデザインプラットフォーム(SNDP)が手がけた。エンジニアリング面は、トヨタ在籍時にC-HRの開発責任者を務めた経歴を持つ古場博之氏がまとめている。「めっちゃ楽しいクルマですよ」と話す古場氏に、EVMについて質問を投げかけた。

──EVMはどういうコンセプトで開発したクルマなのか、教えていただけますか?
古場博之(以下古場):以前、クラブマンレースをしているときに顔見知りだった鈴木社長(鈴木幸典氏)から連絡がありまして、沖縄の人たちが台風のときに停電して困ると。2人乗りの小さなEVを作りたいと。沖縄の道は狭いので、小回りが効くクルマがいいと。2023年の1月にそういう話を聞きまして。
で、2月に「受けます」という返事をし、早速GPSを持って久米島(面積59.53km2)に行き、道路の勾配データを全部とりました。最大の勾配が13度ちょっとだったので、EVMは坂道発進の目標を14度に設定しました。また、久米島は1周走っても50kmちょっとなので、航続距離は120kmに設定しました。1周走っても半分は残る。
そういう形でターゲットを決め、パッケージングやデザインは史郎さんのところ(SNDP)で進め、僕はフレームのレイアウトや足まわりの設計をしました。内外のメーカーを検討しましたが、最終的にモーターと(LFPの)バッテリーは中国製。2024年1月に詳細設計に入り、試験評価と適合を終えて、ようやく量産態勢に入るところです。




──電動コンポーネント系のスペックを教えてください。
古場:モーターは定格出力が7kW、最高出力は14kW。バッテリーの総電力量は9.98kWhです。最高速度の60km/hまでスッと出ます。200Vの普通充電で約5時間、100Vで13〜14時間で充電できます。沖縄の離島は台風で停電することが多い。なので、V2H用のアダプターを標準でつけています。久米島を訪れた際に町長さんから話を伺ったところ、久米島にはガソリンスタンドが2ヵ所しかなく、しかも水曜と日曜が休みだったりする。ガソリン車の場合はわざわざそこまで行かないといけないし、遠い。




──EVMなら自宅で充電できる。ガソリンスタンドまで行かなくていい。
古場:はい。なので、充電ケーブルも標準装備です。V2Hのアダプターも含めてオプションなんてセコイことはしたくないと思いまして。(東京都の)大島からも引き合いがあり、品川ナンバーのクルマも展示しています。島に住んでいる方はだいたい同じ悩みを抱えている。狭い道で山坂があり、ガソリンスタンドがなく、停電がある。
──クルマのサイズは。
古場:超小型モビリティ枠で全長が2.6m、全幅は1.3m。型式指定ではなく認定車枠があり、1台、1台陸運局に持ち込んでナンバーをとる形式です。
──衝突安全はどのように担保しているのでしょうか。
古場:基本的には寸法要件です。バッテリーと全長、全幅の間に寸法をとる。EVMはメインフレームの前後にサブフレームを締結する構造です。CAEで解析し、メインフレームに筋交い状のメンバーを入れ、前突と後突の際は力が横に逃げ、側突の際は前後に逃げ、50km/hの衝突でもバッテリーが変形しないようにしています。

──サスペンション形式は。
古場:前後ともマクファーソンストラット式です。この手のクルマに大きなブッシュを付けると動きが不安定になるので、ブッシュは小さめにしています。カチッとさせることでショックは若干あるんですけど、その代わり運動性能はバリバリです。
──アクセルペダルのオンオフで減速側もコントロールできるワンペダル制御は採用しているのでしょうか。
古場:入れていません。久米島のお年寄りがガソリン車から乗り換えても普通に運転できるように、という意図です。ただ、(ワンペダル制御は)アクセルから足を離しさえすれば減速してくれるので、そのほうが安全かなという気もしています。制御を入れるにはフェールセーフの担保などがあり簡単ではないのですが、技術的には可能です。
──ありがとうございました。



展示車に乗り込んでみたが、外観だけでなく内装もキュート。エアコンとパワーウインドウは標準装備。USBポートはタイプAとタイプCが一口ずつ備わっており、センターにはApple CarPlayとAndroid Autoに対応した7インチディスプレイが設置されている。利便性はバッチリ。さすがに左右はタイトだが、身長183cmの古場さんが無理なく運転姿勢をとれる室内空間が確保されている。左右ドアとバックドアは高級車も顔負けの電磁式で、ボタンを押すと解錠される。
日常的な買い物の荷物なら難なく飲み込んでくれそうなラゲッジスペースはラバーマット敷きで、気兼ねせずに使えそうだ。EVMは島に暮らす人々をターゲットに開発された小型の2人乗りEVだが、環境を問わず支持を集めそうな使い勝手と魅力を備えているように感じた。
