速さを求める選択が遅さを生む

高速道路では、走行車線が滑らかに進み、追越車線が混雑するという現象がしばしばある。

追越車線を選ぶ理由は、単純に「速く進みたいから」だ。その意図が重なれば、右側の車線に目的志向の車両が集中しやすくなる。その結果、交通量が均等に分散されず、左側の走行車線のほうがかえってスムーズに流れるという現象が起きやすくなる。これが、いわゆる「走行車線優勢現象」と呼ばれるものだ。

実際、高速道路では、走行車線が滑らかに進み、追越車線が混雑するという逆転現象がしばしば確認されている。その背景には、「追い越したら走行車線に戻る」という道路交通法の原則が、現実には十分に守られていないという問題がある。追越車線に居続ける車が増えることで、本来“通過”のためのスペースだった右側レーンに“滞留”が生まれ、流れが鈍くなる。

交通工学の見地では、こうした利用の偏りこそが“ボトルネック”の発生源になると考えられている。つまり、速く進もうとする意図が、皮肉にも渋滞を招く要因になっている。

ファスターレーン効果と「隣の芝生」現象

走行中、隣の車線の方が速く進んでいるように見える感覚を抱いたことがある人は少なくないだろう。この現象は「ファスターレーン効果(faster lane effect)」と呼ばれ、心理学の分野でも注目されている。

この効果は、“選択的注意”という認知メカニズムによって説明される。運転中、人は自分の車線が停滞している状況に強く注意を向けがちで、対照的に隣の車線の前進ばかりが目につく。たとえ数台の車に追い越されただけでも、「あちらの方が速い」と錯覚し、無意識のうちに焦りや苛立ちを感じてしまう。

しかし、実際の所要時間には大きな差がないことも多い。にもかかわらず、この心理的錯覚が進路変更の多発を招き、不要な競争意識や加減速を引き起こす。その結果、かえって交通の流れが乱れ、全体としての効率が低下してしまう。つまり「速そうに見える方」を選ぼうとする行動が、結果として渋滞の原因をつくり出しているという逆説的な構図がここにはあるのだ。

“速そうに見える”が渋滞を招く

どの車線を選ぶかという判断は、運転者の主観に委ねられている。

本来、追越車線は一時的な利用を前提としたレーンであり、追い越しが終われば速やかに走行車線へ戻ることが法律上も求められている。だが、現実の交通現場ではこのルールが徹底されていない。特に休日や連休など交通量が増えるタイミングでは、右側の車線に“居座る車列”が形成されやすく、それが新たな渋滞の火種となっている。

では、どうすればよいのか。第一に、必要のない追越車線の占有を避け、状況に応じて柔軟に車線を選ぶ姿勢が求められる。第二に、「隣の車線の方が速いかもしれない」という直感に左右されず、自車のリズムを崩さずに走行すること。第三に、無意味な車線変更を控え、全体の流れと歩調を合わせた“協調的な運転”を心がけることが重要だ。

交通の流れは、複数の車両が一定のリズムで動くときにこそ、最大の効率を発揮する。「誰かが抜く」ことより、「誰も止まらない」ことのほうが、結果として早く目的地に到達できる可能性が高くなる。

「止まらずに進む」運転が渋滞を防ぐ

2024年現在、道路管理の高度化やナビゲーション技術の進歩により、交通の最適化は少しずつ実現に近づいている。とはいえ、どの車線を選ぶかという判断は、依然として運転者一人ひとりの主観に委ねられているのが実情だ。

今後、自動運転技術が社会に浸透すれば、車線選択といった判断もAIが担うようになるかもしれない。しかし、それが当たり前になるには、まだ時間を要するだろう。少なくとも当面は、ドライバー自身が冷静な判断力と交通ルールへの理解を持ってハンドルを握る必要がある。

車線を選ぶときに求められるのは、「どちらが速そうか」という直感ではない。むしろ、流れを止めないという意識を持ち続けることこそが、渋滞のない道をつくる第一歩になる。