高齢者の死者数は微増 75歳以上の単独事故が目立つ

高齢者の死者数は微増 75歳以上の単独事故が目立つ

警視庁の発表によると2025年上半期に発生した交通事故による死者数は1,161人。このうち65歳以上の高齢者は659人を占め、全体の約56.8%にのぼる。前年同期と比較すると9人増加しており、高齢者層のリスクは依然として高止まりしている。

特に注目すべきは、75歳以上の運転者による死亡事故の内訳だ。事故類型別に見ると「車両単独」が最も多く、75歳未満の運転者に比べて約1.7倍にのぼっている。つまり、高齢ドライバーが単独で事故を起こし、命を落とすケースが顕著なのだ。

背景には、加齢による認知機能や判断力の低下、反射神経の鈍化などがあるとされる。こうした傾向は、運転中に突発的な状況変化へ対応しきれず、重大な結果を招くリスクの高さを物語っている。

高齢化が進む日本において、この問題は避けて通れない。免許返納の促進だけでなく、サポカー(安全運転支援車)の普及、地域ぐるみでの移動支援体制の整備など、多角的な対応が求められている。

外国人運転者による重大事故が増加傾向

外国人運転者による死亡・重傷事故件数の推移(発表資料:警視庁)

2025年上半期、外国人運転者による死亡・重傷事故は引き続き増加傾向を示している。国際化が進み、観光や労働目的で来日する外国人が増加する中、運転に関わるリスクも顕在化してきた。

警察庁の統計によれば、外国人による死亡・重傷事故のうち、韓国・朝鮮、中国、ベトナム、ブラジル、フィリピンの5か国で全体の約7割を占める。これらの国からの来日者数が多いことを踏まえれば、交通インフラと外国人向け運転制度とのギャップが事故増加の一因とみられる。

言語の壁によって交通標識の意味を正確に理解できなかったり、日本独自の道路事情やマナーに不慣れであったりすることが、事故の背景にあるとされる。また、運転免許の制度や教習内容も国によって大きく異なるため、来日前に十分な運転経験があっても、日本の道路環境に適応しきれないケースも少なくない。

今後は、多言語対応の標識整備や、レンタカー利用者向けの交通ルール啓発、企業による安全講習の義務化など、現実的かつ即効性のある施策が求められている。

飲酒運転は横ばい、スマホ使用事故は増加

スマホ使用事故は、前年に比べ増加傾向に

2025年上半期の統計では、飲酒運転による死亡事故の件数は依然として横ばいで推移している。過去の厳罰化や啓発活動により、一定の抑止効果は得られているものの、「ゼロ」には程遠い状況が続く。

一方で、携帯電話やスマートフォンを使用中の事故は増加傾向にある。死亡・重傷事故の発生件数は前年を上回り、運転中のながらスマホが深刻なリスクとなっている。特に都市部や通勤時間帯での発生率が高く、短時間の“チラ見”が命取りになる事例が後を絶たない。

警察庁は「運転中のスマホ使用は飲酒運転と同等に危険」と警鐘を鳴らしており、道路交通法においても「携帯電話使用等に伴う交通の危険」は厳しく取り締まられている。反則金や違反点数の増加だけでなく、重大事故を起こした場合には罰則の対象となる。

背景には、車内の情報機器の高度化もある。カーナビ、音声アシスト、スマートフォン連携といった便利さが、逆にドライバーの注意力を分散させる要因にもなっている。安全運転の基本は「前方注意」であることを再認識すべきだ。

自転車と電動キックボード、見過ごせないリスク

電動キックボードの利用者の約7割が20〜30代で、飲酒運転の割合は約2割に達する

自転車関連の事故については、2025年上半期の統計でも死者数の減少傾向がみられた。一見すると前向きな変化のように見えるが、法令違反が関与する事故の割合は依然として高く、全体の約7〜8割を占めている。信号無視や一時停止無視、逆走といった基本的なルール違反が根強く、事故リスクの抑制には至っていない。

特に問題視されているのが、ヘルメット未着用やイヤホンの使用、スマートフォンの“ながら運転”といった「生活習慣化した危険行動」だ。自転車が「軽車両」であるという意識の希薄さが、安全意識の低下を招いている側面もある。

さらに、電動キックボードなどの「特定小型原動機付自転車」に関する懸念も強まっている。統計によれば、利用者の約7割が20〜30代で、飲酒運転の割合は約2割に達する。これは一般の原付の約30倍、自転車の約22倍という水準であり、都市部を中心に新たな危険因子として浮上している。

背景には、免許不要で手軽に利用できるという特性があり、ヘルメット着用が「努力義務」にとどまっている現状も、安全意識の希薄化につながっていると考えられる。今後は、これらの新たなモビリティを含めた総合的な交通安全対策が、制度面・教育面の両面から求められていくに違いない。

高まる交通リスク、社会全体でどう向き合うか

2025年上半期の交通統計からは、高齢運転者や外国人ドライバーによる事故の増加、飲酒やスマートフォン使用といった危険運転の継続、そして電動キックボードなど新たな移動手段の台頭といった、多様な課題が浮かび上がった。

中でも注目すべきは、「加害者・被害者」の双方に高齢者が多く含まれているという点である。免許返納制度や運転技能のチェックは徐々に普及しつつあるものの、高齢者が交通弱者であると同時に潜在的な加害者にもなりうる現状は、依然として深刻な課題をはらんでいる。今後は移動支援や地域の見守り体制など、社会全体での包括的な受け皿づくりが求められる。

また、国際化の進展により外国人運転者の割合も着実に増加しており、交通ルールに対する理解不足が事故リスクを高めている。これに対しては、多言語対応の道路標識や教育コンテンツの整備といった、受け入れ体制の強化が急がれる。

一方、自転車や電動モビリティなど、軽量で自由度の高い移動手段の普及は歓迎される反面、安全対策の面で新たな対応が必要だ。現行の法制度では十分にカバーできない領域も多く、機動的かつ柔軟なルール整備が不可欠となるはずだ。

交通社会は日々進化している。だからこそ、すべての運転者が「自分は関係ない」と考えるのではなく、日常のなかで小さな注意を積み重ねることが大切だ。