運営主体の違いが料金制度の出発点

首都高・阪神高速・NEXCOは、いずれも高速道路ネットワークを構成しているが、運営している法人が異なることがポイントだ。

  • 首都高速道路株式会社:東京都・神奈川県を中心とする都市高速道路を運営
  • 阪神高速道路株式会社:大阪・兵庫エリアに特化した都市高速道路を運営
  • NEXCOグループ(東日本・中日本・西日本):全国の多くの高速自動車国道を管理(※首都高・阪神・名古屋高速・本四高速などは別会社が管理)

これらはいずれも民営化された道路公団の系譜を持つものの、その役割や設立の背景が異なる。特に、首都高・阪神高速は「都市部の短距離移動」を目的とした道路網であるのに対し、NEXCOは都市間移動や物流幹線としての長距離移動に重きを置いている。

都市高速(首都高・阪神高速)とNEXCOの料金体系が異なる理由

ETCの普及と制度の変化

都市高速とNEXCOの料金制度が異なるのは、単に運営会社が違うからというだけではない。

背景には立地条件、利用形態、法制度、整備目的といった複数の要素がある。都市高速は東京や大阪といった地価の高い都市部に建設されており、用地取得費や高架・地下など特殊構造に伴う建設費が膨大である。

これに対し、NEXCOの高速道路は郊外や地方部を通る区間が多く、比較的安価に整備できる場合が多いといえる。都市高速は短距離での乗り降りが頻繁で渋滞や混雑も起こりやすいため、かつては均一料金が合理的とされていた。

一方、NEXCOの高速道路は長距離移動を前提としているため、距離に応じた課金が基本である。法制度の面では、首都高や阪神高速を含む都市高速は道路整備特別措置法に基づいて整備・運営されており、各会社が独自に採算を取る必要がある。

NEXCOの高速道路も同法に基づくが、旧日本道路公団の資産を継承した3社(東日本・中日本・西日本)が各担当エリアで運営し、全国で概ね統一した制度設計のもとで料金が運用されている。さらに整備の目的も大きな違いを生んでいる。

都市高速は都市内交通の円滑化を目的に高度経済成長期の都市圏需要に応える形で整備されてきたのに対し、NEXCOは全国物流や地域間交流を支えるインフラとして発展してきた。このような目的の差が料金制度の違いに直結しているのである。

そして、ETCの普及は料金体系に大きな変化をもたらした。首都高速では2016年にETC距離制が導入され、現金払いは依然として基本料金のままである。

阪神高速は2017年6月3日に近畿圏の新料金として対距離制を基本に移行した。さらに2024年6月1日に上限額などの見直しを実施し(普通車:上限1,950円・下限300円)、一部端末区間などに特例が残っている。

このように、かつての「都市高速は均一料金、NEXCOは距離制」という単純な対比は成り立たなくなりつつあるのだ。

高速道路料金制度の多様性が示す、今後の「柔軟化」と「最適化」への可能性

合理的な料金形態の複雑さも、ETCの普及とともに変化の兆しを見せている。

高速道路と一口に言っても、首都高速・阪神高速・NEXCOのように運営母体ごとに料金制度は大きく異なる。首都高も阪神高速も現在はETC利用時は対距離制が基本(上限・下限や現金利用時の取扱い等の特例あり)。NEXCOは対距離制で、一部路線に上限・下限の激変緩和事例がある。

この複雑さは一見、利用者にとって分かりにくく、不公平感を生む要因ともなっているが、その背後にはそれぞれの地域事情に即した「合理性」が存在する。都市部では土地代や構造上の制約により均一料金制が妥当とされる一方で、郊外や地方を中心に構成されるNEXCOでは、移動距離に応じた従量制が適しているというわけだ。

しかし、この合理的な複雑さも、ETCの普及とともに変化の兆しを見せている。

ETCによって個別の課金が容易になり、従来では実現困難だった「距離に応じた細やかな課金」が可能となってきた。首都高は2016年、阪神高速は2017年から対距離制を導入済みで、その後も見直しが図られるなど、制度の柔軟化と最適化が進んできた。

今後は、さらにテクノロジーの進化とともに、AIやビッグデータを活用した動的料金の導入も現実味を帯びてくる可能性がある。たとえば、交通量の多い時間帯は高く、閑散時間帯は安くする「時間帯別料金制」や、経路選択に応じた「最適料金提案」などが導入されれば、より効率的な道路利用が促進されるはずだ。

すべての道路を一律の制度で縛るのではなく、それぞれの道路が果たす役割を活かしつつ、テクノロジーを駆使して利用者にとっての透明性・納得感を高めていく方向が、今後の制度設計の鍵となる可能性が高い。