猫がエンジンルームに入り込む理由

2024年6月、「エンジンルームに猫が入り込んでしまった」件数は全国で381件に上った

JAF(日本自動車連盟)の調査によれば2024年6月に、ドライバーから「エンジンルームに猫が入り込んでしまった」として救援要請があった件数は全国で381件に上った。

一方で、同じくJAFが行った2024年10月の調査では、同様のトラブル件数は1か月間で28件にとどまっており、夏場(6月)での事故が秋(10月)の約13倍にも膨れ上がっていることがわかる。

猫がエンジンルームに入り込むトラブルは、寒い冬だけでなく、むしろ梅雨時期の6月に急増する傾向があるのだ。

この背景には春に生まれた子猫が活発に動き始めることや、梅雨のじめじめした空気の中で車の下やエンジンルームが「安全で温かい隠れ家」になってしまうことが影響している。

とはいえ、外が冷え込む朝晩には、エンジン停止後の暖かさが残るエンジンルームやタイヤハウスは、猫にとって暖房付きの隠れ家のような存在だ。

そのため冬場の件数は増加する傾向にある。しかし気温が高い夏場でも、雨を避けたり、他の動物から逃げたりする目的で入り込むケースがあり、一年を通じて注意が必要だ。

また猫以外の動物が車に入り込んだトラブルも報告されている。ヘビや鳥、犬など猫に比べ件数は決して多くはないが、車に入り込むのは猫だけとは限らない。

エンジンルームに入ることで起こる危険

エンジンルームに入り込んだ猫が最も危険にさらされるのは、ドライバーがその存在に気づかずエンジンを始動してしまったときだ。

ファンベルトやプーリーに巻き込まれたり、高温になったエンジン部分でやけどを負ったり、車の下に落下して大ケガをするケースもある。いずれも命に関わる重大な事故につながる可能性が高い。

こうしたトラブルは、猫にとってだけでなく、ドライバーにとっても精神的なダメージが大きい。「知らぬ間に猫を傷つけてしまった」と自責の念にかられる人も少なくなく、事故後しばらく車に乗れなくなったという声もあるほどだ。

事故を防ぐための具体的な対策

猫がエンジンルームに入り込む事故を防ぐには、実はちょっとした心がけだけで十分なケースも多い。

まず、出発前にボンネットを軽く叩く「猫バンバン」。これは手のひらでボンネットをバンバンと叩くだけの簡単な行動で、内部に潜んでいる猫に気づいてもらい、逃げ出してもらうためのものだ。

次に、車の周囲や下回りの目視確認も忘れずに行いたい。特にタイヤの上や車の下は、猫がひっそりと身を潜めやすい場所。しゃがんでのぞき込むことで、安全確認になる。

そしてもうひとつのポイントは、エンジンをかけるタイミングだ。スマートキー車の多くは、エンジン始動と同時にファンが一気に回転する仕様になっている。乗車後すぐに始動せず、数秒間だけでも時間を置いたり、車体を軽く揺らしたりすることで、猫が逃げ出すチャンスを与えることができる。

このような対策方法は非常に有効だが、ドライバーに知識がなく実行されなければ事故を未然に防ぐことはできない。

最近ではカーシェアやレンタカーなど、車両の所有者と利用者が一致しないケースも増えており、「いつも車に乗る人ではない」ことで猫の潜伏に気づきにくい状況もある。

小さな命を守るための行動は、どれもほんのわずかな手間で済むものばかり。ドライバーのちょっとした気遣いと知識が、大きな事故を防ぐ第一歩となる。

もし猫が入り込んでいたら?

猫がエンジンルームに入り込んでいた場合は、猫を刺激しないように落ち着いて対応することが大切

エンジンルームから猫の鳴き声が聞こえたり、実際に猫を見つけたりした場合、焦って無理に引きずり出すのは避けるべきだ。猫は狭くて暗い場所に入り込むと、安心する反面、驚くとパニックを起こしやすく、かえって奥に入り込んだり、ケガをしたりするリスクがある。

こうした状況では、まず猫を刺激しないように落ち着いて対応することが大切だ。

たとえば、好物の餌やおやつの匂いで自然に出てきてもらう方法が有効だが、姿が見えるものの手が届かないようであれば、静かに様子を見ながら待つことも一手だ。

手が届く範囲であっても、素手で触ろうとすると引っかかれたり咬まれたりするおそれがある。不用意に手を入れてかまれた場合、けがや感染症の恐れがあるため注意が必要だ。

それでもうまくいかない場合は、自力でなんとかしようとせず、地域の動物保護団体や近くの動物病院に連絡して相談するのが望ましい。専門知識のある人の手を借りることで、猫にも自分にも危険が及ぶリスクを減らすことができる。

いずれにしても、慌てず騒がず、猫の安全と自身の安全を最優先に考えた行動を心がけたい。猫にとっても、ドライバーにとっても、不幸な事故を防ぐためにはその場の冷静な判断が何より重要だ。