アドトラックとは?

アドトラックとは広告用に装飾された大型トラックを活用し、街中を走行させることで注目を集める移動型広告メディアである。主に新商品のプロモーション、イベント告知、ナイトビジネス関連の集客などで利用されるケースが多い。一見すると街宣車と混同されがちだが、両者には明確な違いがある。
街宣車は政治的・政策的な主張を伝えることを目的とし、拡声器を用いた音声によるメッセージ発信が中心だ。一方、アドトラックは商品やサービスの認知拡大を狙った商業広告であり、大型ディスプレイやラッピングによるビジュアル訴求が主体だ。近年ではLEDビジョンを搭載した車両も増えており、動画広告を放映しながら繁華街を走行するケースも見られる。
また、音響機器の使用についても大きな違いがある。街宣車は大音量での演説が主目的であるのに対し、アドトラックは法令や条例によって騒音規制を受けることが多く、比較的抑えた音量でBGMを流すか、映像のみで訴求するケースが一般的である。
アドトラックが減少した理由
アドトラックは、かつて東京の繁華街では、派手な装飾や音響付きアドトラックが目を引くプロモーション手段として多用されていた。しかし近年、その姿は劇的に減少している。その背景には広告規制の強化と、これに対する対策としての抜け道利用という動きがある。
2011年、東京都は「屋外広告物条例施行規則」を改正し、アドトラックに対して広告デザインの自主審査を義務化した。この改正により、「鮮やかすぎる原色や派手な模様」「過剰な照明や点滅装飾」「騒音を伴う音響演出」の要素を含むデザインは認められなくなった。
これを通過するには、公益社団法人「東京屋外広告協会」でのデザイン審査が必須となり、審査を通過しなければ都内での走行許可は下りない仕組みである。それにもかかわらず、依然として活動を継続するアドトラックが存在している。それは東京都外で登録されたナンバーを装備した車両による抜け道運用だ。条例が東京都登録車両のみを対象としていたため、都外ナンバーの車両は直接的な規制除外となっていたのだ。
こうした実態への対応として、東京都は都外ナンバーの広告宣伝車にも屋外広告条例を適用すべきとの方針を打ち出した。
2025年6月の法改正で何が変わったのか

さらにアドトラックを取り巻く環境は、屋外広告物条例の強化にとどまらず、2025年6月施行の風営法改正によってさらに厳しさを増す見通しだ。
近年、風俗営業やナイトエンタメ系店舗による過激な広告表現が問題視され、国会でも繰り返し議論されてきた。新宿・歌舞伎町や渋谷などの繁華街では、アドトラックによる強烈なビジュアルや大音量広告が、未成年者を含む通行人への影響や治安悪化の一因と指摘されていた。
このため、警察庁は「安全で落ち着いた都市空間を確保する」という方針のもと、風営法を改正し、広告物のデザイン・演出・掲出時間に対する規制強化を決定した。
今回の風営法改正では、以下のポイントが特にアドトラックや街頭広告業界に影響を与える。
- 深夜時間帯(22時〜翌5時)の広告音量規制
大音量での宣伝は原則禁止。違反した場合は広告主と運営会社の双方に罰則 - 過激表現の禁止範囲の拡大
性的・暴力的・過剰演出の広告は、店舗系・イベント系問わず取り締まり対象 - 走行エリア制限の導入
繁華街でも「学校・病院・公共施設周辺」を中心に、特定エリアでの走行広告を原則禁止 - 事前審査制度の義務化
2025年以降は、広告内容の事前申請・審査を通過しなければ営業許可が得られない
これらの規制はアドトラック業界だけでなく、クラブ・ホストクラブ・イベント系広告の手法全体に大きな影響を与える見込みである。規制が厳しくなる一方で、アドトラックは単なる「移動式広告車両」から、「法規制をクリアした統合型プロモーション」へと業界構造が変わりつつある。
アドトラックにおける活用戦略はどのように変化していくのか
アドトラックを活用する際の料金は、走行距離・広告内容・大型装飾の有無によって大きく変動する。一般的には 1日あたり数十万円〜数百万円が相場であり、決して安くはない宣伝手段といえる。しかし、視覚的インパクトと認知効果を重視するナイトビジネスやエンタメ業界にとっては、費用対効果を見越した戦略として依然選択肢となっている。
今後は、「アドトラック単体」から「デジタル連携型の広告」へ進化できるかが、広告主の成否を分けるだろう。規制強化という逆風を逆手に取り、効果的かつ合法的な新たなプロモーション手法として再設計することが重要だ。