暫定税率廃止へのこれまでの協議経緯

野党による法案提出(2025年8月1日):野党7党(立憲民主、維新、国民民主、共産など)は、ガソリン暫定税率を廃止するための法案を衆議院に共同提出した。法案では2025年11月1日からの廃止を目指す内容となっている。
与野党国対委員長が合意(2025年7月31日):与野党6党がガソリン暫定税率の年内廃止に向けた合意文書を交わした。臨時国会において協議体を立ち上げ、早期の法案成立を目指す方針である。あわせて、政府が現在実施している補助金による価格抑制策との整合性も重視されており、廃止後の価格安定をどのように確保するかが今後の焦点となった。
実務者協議(2025年8月21日):政府が補助金シミュレーションや外為特会の剰余金を提示した。これによれば、補助金を拡充して暫定税率分を肩代わりする形にすれば、追加財源は不要であるとの見解も示された。一方で、暫定税率廃止による減収は約1.5兆円に上ると試算されている。
また、代替財源の候補としては、租税特別措置の見直しや新税の創設といった案も浮上しており、今後の調整に向けた論点となっている。
8月28日に実施された協議会は平行線
2025年8月28日には与野党による第4回実務者協議が行われた。しかし、与党側から具体的な財源案は依然として示されず、議論はまたしても平行線に終わった。立憲民主党など野党は「来週中に結論を」と期限を区切り、ガソリンだけでなく軽油引取税についても来年4月の廃止を視野に入れ、既存の補助金を活用しながら段階的に調整すべきだと提案している。
一方で、与党は「財源はあくまで税財源が基本」との立場を崩しておらず、財源確保をめぐる溝は埋まっていないのが現状だ。さらに全国知事会からは「廃止に伴う地方財源の減収に対応する代替財源の確保が不可欠」との提言も出されており、地方財政をどう扱うかも大きな焦点となっている。
今回の協議の行方次第で、ガソリン価格の実際の値下がり時期や軽油の扱いが大きく左右される。ドライバーにとっては「いつ安くなるのか」、物流業界にとっては「軽油が対象外のままなのか」という点が最大の関心事であり、引き続き注視が必要だ。
ガソリンと軽油で分かれる明暗

今回の議論で鮮明になってきたのが、ガソリンと軽油の扱いの違いだ。
ガソリン税の暫定税率(25.1円/L)は廃止の方向で議論が進んでいるのに対し、軽油引取税の暫定税率(17.1円/L)は地方税であるため維持される可能性が高い。もし軽油が対象外となれば、物流・農業・建設業といった産業のコストはほとんど変わらず、家計に直結するガソリン車ユーザーだけが恩恵を受ける構図となる。
つまり、マイカーで通勤・買い物をする人にとっては燃料代が確実に軽くなる一方で、運送費や食品価格など、生活全体に関わるコストは思ったほど下がらない可能性がある。ガソリンと軽油の扱いの違いは、消費者と産業界の間で温度差を生む大きな要因となりそうだ。
ガソリン価格の地域差と暫定税率廃止の行方

政策見通しでは、ガソリン価格は暫定税率廃止によって1リットルあたり約25円下がる見込みだ。年間1万km走る家庭では1.5万〜2万円規模の負担減になると試算されており、政府が既に導入している補助金と合わせれば2025年末には160円/L前後まで落ち着く可能性もある。
ただし、軽油が据え置かれる見通しである以上、物流全体のコストが劇的に下がるわけではない。ガソリン車ユーザーには朗報である一方、物価全体への波及効果は限定的であり、地方財政の補填策も避けられない。暫定税率廃止は家計支援の一歩となるが、その恩恵の分布と持続性をどう担保するかが今後の大きな課題となっている。