濡れた落ち葉がスリップ事故を招く仕組み

秋の道路に積もる落ち葉は、一見すると季節を感じさせる存在である。しかし、落ち葉が雨に濡れるとタイヤと路面の摩擦が大きく低下し、滑りやすい状態になる。
鉄道総合技術研究所の実験によれば、鉄道レールの表面に濡れた落ち葉が付着すると、レール部分に薄い膜のようなものができて摩擦が失われる。その結果、乾いたときに比べて半分以下、雨のときには1割程度まで滑りやすくなることが確認された。
これは鉄道分野で確認された現象だが、クルマとアスファルトの関係においても同様に摩擦低下が生じると考えられている。つまり、落ち葉は濡れると大幅に滑りやすくなり、タイヤのグリップを奪う危険な存在になるというわけだ。

また、国土技術政策総合研究所がまとめた「アスファルト舗装路面の水膜厚とすべり抵抗値の関係について」の調査でも、水膜が形成されることで滑り抵抗値が大きく低下することが明らかになっている。
そして、そこに落ち葉が重なると、葉の表面を覆うクチクラ層から油分がにじみ出し、路面に薄い膜を作ることでさらに滑りやすくなるというのだ。クチクラ層とは、乾燥を防ぐ役割を持つ、植物の葉の表皮を覆うロウ状の層である。しかし、雨に濡れると油分が溶け出し、摩擦を低下させる要因になる。

実際、落ち葉を原因とする事故も各地で発生している。たとえば、愛媛県内子町では、山あいの道路を走行中の送迎用マイクロバスが濡れた落ち葉でスリップし、道路脇に転落して横転した事例が報告されている。
さらに、熊本市北区では雨天の狭い道路でバイクが落ち葉に乗り上げて転倒し、路上に投げ出された直後に対向車にはねられて死亡する事故も伝えられている。
そして、これらの交通事故はいずれも濡れた落ち葉が大きな要因であったとされているのだ。このように、落ち葉は濡れることで想像以上のリスクを生む。

したがって、ドライバーは常にその危険性を念頭に置く必要があるだろう。では、運転者は濡れた落ち葉に対して、どのような対策を講じればよいのだろうか。
第一に、速度を控えることが重要である。摩擦力が低下した路面では急な操作に対応できないため、十分な車間距離を確保し、アクセルやブレーキの操作は穏やかにおこなう必要がある。
さらに、カーブや坂道で速度を出しすぎていると、さらに点灯のリスクが高まることはいうまでもない。ブレーキを強くかけすぎれば簡単にスリップし、バランスを崩す危険があるため、滑らかな操作を心掛けるべきである。
くわえて、落ち葉が多く積もる場所は、山間部や公園周辺の道路などに集中しやすい。そのため、これらの道を通行するときはとくに注意が欠かせない。
中でも、早朝や夜間は視認性が低下し、濡れた路面の変化に気付きにくいとされる。したがって、日常の通勤路でも落ち葉が多い季節は普段以上に慎重な運転が求められるのだ。つまるところ、秋の景色を楽しむ一方で、落ち葉がもたらす危険を忘れてはならないということである。
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濡れた路面に広がる落ち葉は、単なる秋の風物詩ではなく、摩擦を奪う潜在的なリスクといえる。したがって、運転者一人ひとりが季節特有のリスクを理解し、速度を抑え、車間を保ち、操作を丁寧におこなうことが交通事故を未然に防ぐもっとも確実な方法といえるだろう。