なぜ「秋」が特に注意すべき季節なのか

全国交通安全運動は春と秋に実施されているが、特に秋が重視されるのには明確な理由がある。交通事故の発生件数を月別に見ると、9月以降から増加傾向を示し、10月と12月に大きなピークを迎えている。
月別の発生件数順は以下の通り。
| 月 | 発生件数 |
| 12月 | 28,997件 |
| 10月 | 26,021件 |
| 11月 | 25,431件 |
| 3月 | 24,181件 |
| 5月 | 24,154件 |
| 7月 | 24,010件 |
| 4月 | 23,511件 |
| 8月 | 23,156件 |
| 9月 | 23,079件 |
| 2月 | 22,885件 |
| 1月 | 22,776件 |
| 6月 | 22,694件 |
秋は夏に比べて日没が急激に早まる。特に9月下旬から10月にかけては、帰宅や外出の時間帯と薄暗くなる「薄暮」が重なり、視認性が大きく低下する。この時間帯は歩行者や自転車を発見しにくく、横断歩道での接触や右左折時の衝突が多発するリスクがある。
さらに、紅葉狩りや観光、学校行事などで外出機会が増えることも事故増加の一因だ。慣れない道を走行する車や、普段は交通量の少ない道路に車が集中することで、注意力が分散しやすい状況が生まれる。
また、秋は高齢歩行者の被害が目立つ季節でもある。反射材を使わない夜間の外出や、横断歩道以外での横断が事故につながるケースが多い。加齢に伴う視力や判断力の低下も重なり、わずかな見落としが重大事故に直結してしまうのだ。
このように秋は「日没の早まり」「外出機会の増加」「高齢者被害の多発」という複数のリスクが重なり、交通事故件数が年間でも特に増える季節である。そのため、全国交通安全運動では毎年、秋の運動において薄暮時間帯の安全対策が最重点として取り上げられている。
2025年秋の全国交通安全運動の重点テーマ
2025年秋の全国交通安全運動では、次の3点が全国的な重点として掲げられている。いずれも実際の事故データや社会的課題に基づいており、単なるスローガンではなく、今すぐ取り組むべき行動が反映されている。
歩行者の安全の確保と横断歩道における歩行者優先
横断歩道で歩行者が被害に遭う事故は依然として多く、特に高齢者や子どもは被害が重症化しやすい。そのため、ドライバーには「横断歩道では必ず一時停止」「歩行者優先」の徹底が求められる。加えて歩行者自身も、反射材や明るい服装を身につけることで、夕暮れや夜間に自らの安全を確保することが重要だ。
「ながらスマホ」・飲酒運転の根絶と夕暮れ時のライト点灯
スマートフォンを操作しながらの運転や飲酒運転は、厳罰化以降も完全には根絶されていない。こうした行為は一瞬の不注意で重大事故につながるため、社会全体で意識改革が求められている。また、日没が早まる秋は「薄暮時間帯」の事故が増加傾向にある。ドライバーは早めのライト点灯を習慣にし、必要に応じてハイビームを活用することで、歩行者や自転車を確実に確認できる環境をつくることが重要だ。
自転車・特定小型原付のヘルメット着用と交通ルール遵守
2023年の道路交通法改正により、電動キックボードなどの「特定小型原動機付自転車」が定義されて以降、利用者は急増している。一方で、無灯火走行や信号無視、歩道での不適切な走行による事故が問題となっている点も見逃せない。
自転車についても、致命傷の多くは頭部損傷が原因であり、ヘルメット着用が強く求められている。夜間はライト点灯を徹底し、「見えるため」と同時に「見られるため」の安全行動を習慣化することが欠かせない。
交通安全を日常に根付かせるために

全国交通安全運動は、期間限定のキャンペーンで終わらせるのではなく、私たち一人ひとりが日常の中で安全行動を習慣化することが重要だ。小さな心がけの積み重ねが社会全体の安全を支える基盤となり、「事故ゼロ社会」に近づくための出発点となる。
警察庁や自治体、学校は取締りや啓発活動を通じて環境づくりを進めているが、最終的に安全を守るのは利用者自身の意識だ。自転車や電動キックボードといった新しいモビリティも、正しく使えば便利で環境に優しい移動手段となる。
2025年秋の全国交通安全運動をきっかけに、生活の中に安全習慣を根付かせることで、交通事故のない未来への一歩となることを願いたい。