なぜ「ブタ目」と呼ばれたのか
それまでのコロナ・マークⅡは、比較的オーソドックスで直線基調のデザインをまとっていた。しかし3代目では思い切って丸型二灯を採用し、よりモダンで印象的な表情を作り出した。トヨタとしては高級感と個性を演出する意図があったが、日本人の目には「豚っぽい」と映り、半ば揶揄を込めて「ブタ目」と呼ばれるようになったのである。
揶揄といっても、決してネガティブなだけではなかった。むしろユーモラスで親しみやすい愛称として定着し、今では旧車好きにとってアイコン的な存在となっている。
ブタ目と呼ばれた3代目コロナ・マークⅡの特徴
3代目コロナ・マークⅡは、トヨタの中堅セダンとして開発され、幅広い層のユーザーに向けて豊富なバリエーションを用意していた。エンジンは1.6L、1.8L、2.0Lといった直列4気筒に加え、上級グレードには直列6気筒エンジンも設定され、経済性からパワー志向まで選択肢があった。
内装はそれまでのモデルよりも上質感が意識され、木目調パネルや厚みのあるシートが取り入れられるなど、高級志向が強められていた。装備面でも当時としては充実しており、エアコンやオートマチックトランスミッションを備えたグレードは、ファミリーカーの枠を超えて「ちょっと贅沢なセダン」という位置づけを確立していた。
こうした実用性と快適性のバランスこそが、マークⅡシリーズが支持を集め続けた理由であり、「ブタ目」と呼ばれた3代目も例外ではなかった。
当時の時代背景とコロナ・マークⅡの立ち位置
1970年代半ばから後半にかけての日本は、高度経済成長を終えて安定成長期に移行していた。オイルショックの影響で一時的に自動車市場は冷え込んだが、その後は再び需要が回復し、より上質な車を求めるユーザーが増えていった。
トヨタは「カローラより上、クラウンより下」という絶妙なポジションをマークⅡに与え、家庭用にも法人用にも使いやすいサイズと価格を実現した。3代目はその戦略を受け継ぎつつ、デザインに大きな冒険を取り入れた結果、「ブタ目」というユーモラスな愛称を得ることになった。
当時の流行はファッションでいえばベルボトムやパンタロン、音楽では歌謡曲やディスコサウンドが街を彩っていた。自動車もまた、単なる移動手段ではなくライフスタイルを表現する存在として注目されており、マークⅡは「少し背伸びしたい層」のステータスカーとして強い支持を集めたのだ。
マークⅡからマークXへと続いた系譜と終焉

「ブタ目」とは、トヨタが開発した3代目コロナ・マークⅡに付けられた愛称であり、特徴的な丸目二灯のヘッドライトが生んだユーモラスな呼び名であった。揶揄に近いニュアンスを含みながらも、人々の記憶に深く刻まれ、今なお愛好家を中心に親しまれている。
高性能なエンジンバリエーションと上質な内装を備えた3代目は、トヨタのラインナップにおいて確かな存在感を放ち、1970年代の日本の自動車文化を映し出した一台だった。愛称が残り続けるという事実そのものが、この車が当時どれほど強い印象を残したかを物語っている。
その後もマークⅡは改良を重ねながらトヨタの中核モデルとして愛され続けたが、2004年に販売を終了。その後継車として登場したマークXが2世代にわたり2020年まで販売され、系譜はそこで一区切りを迎えた。