フルフラット仕様が映し出す多様なクルマの使い方

近年、ライフスタイルの変化にともない、後席をフルフラットにできるクルマの注目度が増している。この背景には、車中泊やキャンプといったアウトドア需要の高まりがある。
たとえば、後席をフルフラットにすればベッド代わりとなり、長尺の荷物も積みやすい。さらに、普段の買い物や送迎に加え、週末のレジャーでも活躍する柔軟性が評価されているというわけだ。
その代表格がホンダ「フリード」とトヨタ「シエンタ」である。いずれもコンパクトミニバンとして人気を集め、多人数乗車と効率的な空間活用を両立させた設計が特徴だ。

フリードの場合、仕様によってフルフラット可否が異なる。「エアー」(6人乗りまたは7人乗り)は床を完全に平らにできないが、アウトドア志向の「クロスター」では後席を倒してフラットな空間をつくることが可能だ。
そのため、車中泊やキャンプを想定する層からはクロスターが高く支持されるが、販売実績では依然として、ファミリー向けの「エアー」が中心であると販売店担当者は話していた。

シエンタも同様に、七人乗りはフルフラットにできないが、五人乗りは後席を倒して床を平らにできる。こちらもレジャー志向なら五人乗りが望ましいと言える。
しかし、前出の担当者によれば、ファミリー層は座席数を重視する傾向が強く、さらにハイブリッド仕様を選ぶユーザーも多く、経済性への意識も根強いという。

こうした事情から、後席フルフラットは販売全体で見ると多数派ではないようだ。しかし、「車内で寝られる」「荷物を効率的に積める」といった価値を求めるユーザーは一定数存在し、需要は安定していると言える。
ファミリーとアウトドア、それぞれの生活スタイルが真っ向から評価を分けていることこそが、この機能の存在感を際立たせている。

さらに、フルフラット仕様は利便性だけではなく、車内を居住的に活用できる可能性を備えている。自宅に代わる休憩場所として使える安心感や、災害時の避難スペースとしても役立つ可能性がある。
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評価が分かれるからこそ、フルフラット仕様はクルマの可能性を広げる機能として欠かせない存在になっている。こうした観点からも、フルフラットは“備え”としての価値を持ち、時代のニーズに適応していることはいうまでもないだろう。
結論として、後席フルフラットは単なるシートアレンジではなく、ライフスタイルの多様化を象徴する装備である。家庭向けの座席数重視と、アウトドア派の積載・就寝重視という両極のニーズを1台で吸収する柔軟性こそが魅力であり、この先も確実に支持され続けるだろう。