サイズ感の変化を生んだのは、法規とデザインの進化!?

近年のクルマを見渡すと、軽自動車からSUVまで全体的に存在感が増しているように感じられる。実際に数値をたどると、戦後の車両規格から現在まで寸法は明確に拡大してきた。
たとえば、軽自動車の規格は1949年に全長2800mm×全幅1000mmから始まり、1976年には3200mm×1400mm、1998年には3400mm×1480mmへと改定されている。
軽自動車検査協会によれば、これは利便性の向上だけでなく、安全装備や排ガス規制への対応を前提とした拡大であるという。
さらに、普通車でも同様の傾向が見られる。排気ガス対策や衝突安全の強化によって、エンジンルームやキャビンの構造に余裕を持たせる必要が生じ、結果としてボディが大きくなった。
かつてのコンパクトカーが全幅1600mm台だったのに対し、今では1800mmを超えるモデルも一般的である。この変化は、単なるデザイン志向の拡大ではなく、国際的な安全基準の整合によってもたらされたものだ。
また、1970年代以降、自動車の安全思想は「乗員を守る構造」へと大きく転換した。日本自動車研究所(JARI)によれば、1970年代の排ガス規制、1990年代以降の衝突安全・歩行者保護規制の導入が、ボディ構造の補強と厚みを増すきっかけとなったのだ。
クラッシャブル構造(衝撃吸収構造)やセーフティセル(生存空間確保構造)などが標準化され、フロントやサイドの骨格が強化された結果、ボディ寸法全体が膨らむ方向に進んだ。
加えて、ボンネット高やピラー太さも安全性を重視して設計されており、これが「大きく見える」印象をいっそう強めている。

また、視覚的な要因も見逃せない。現代のデザインは、衝突安全だけでなく存在感を演出する要素としても拡張している。
ワイド&ローを基調としたプロポーション、フェンダーの張り出し、グリルの拡大などは、車体を実寸以上に大きく見せる効果を持つ。
特にSUVやミニバンでは、前方視界を確保するための高いボンネットラインと厚みのあるピラー構造が組み合わさり、「重厚で広い」印象を与えている。
一方で、設計思想そのものが変化した点も大きい。かつての小型車は軽量化とコスト重視で設計されていたが、現代は安全・快適・静粛・衝突性能など多くの条件を満たす必要がある。
この多目的化が車体の大型化を避けられないものとし、結果として視覚的にも「膨張した印象」を与えている。

そして、電動化の流れも今後のサイズ感を左右する要素になる。バッテリー搭載スペースの確保は床下構造を厚くし、キャビンを高くする要因となる。
一方で、エンジンルームの縮小によって全長バランスの見直しも進み、プロポーションは再構築されつつある。その結果、実寸を抑えながらも広く見える新しいデザイン手法が今後主流になる可能性がある。
過去から現在に至るまで、クルマが「大きく見える」背景には、実寸の拡大、安全基準の進化、そしてデザイン思想の変化という三つの流れがある。
それらはいずれも社会的な安全意識の高まりに根ざした必然の結果であり、単なる印象の問題ではない。
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クルマが“大きく見える”ようになった背景には、技術と安全、そして時代の価値観の変化がある。その進化は単なる拡大ではなく、人と社会を守るための必然の形といえる。
この先の電動化時代では、その「大きさ」の意味自体が再び問われていくことになる。