高市政権が挑む「暫定税率」という長年の課題

政権交代のたびに浮上しては消えてきたガソリンの暫定税率問題が、いま再び政治の中心に戻ってきた。もともとこの暫定税率というのは、道路整備のために暫定的に上乗せされたものである。
財務省によれば、揮発油税は本則税率28.7円に対し、特例として25.1円が加算され、合計53.8円が課されている。さらに、この課税分にも消費税が上乗せされるため、実質的には「税に税をかける」構造となっている。
1970年代の道路財源確保を目的に始まった暫定措置は、その後も時限的延長を繰り返し、結果として恒久化した。
経済状況が変化しても制度が維持されてきた背景には、税収の大きさと地方財政への依存度がある。政府見積では、暫定税率を廃止した場合、国と地方を合わせて年間約1兆5700億円の税収減が想定されている。
一方で、国民の負担感は根強い。ガソリン価格が上昇するたびに「暫定の名に値しない」との声が上がり、制度そのものへの不信感が強まっている。
この状況に対し、高市総理は就任直後から明確な姿勢を打ち出した。2025年10月21日の首相官邸での記者会見において、高市総理は「いわゆるガソリンの暫定税率については、今国会で廃止法案の成立を目指す」と発言。
長年の政治的懸案に、明確な期限を伴う形で切り込む意向を示した。この発言は、物価高対策の柱としての位置づけを持ち、国民生活の改善を前面に押し出す内容である。しかし、廃止への道筋は平坦ではない。
国税庁が定める「トリガー条項」は、ガソリン価格が1リットルあたり160円を3か月以上超えた場合に特例税率を停止する仕組みだが、2011年の東日本大震災後に凍結されたままである。
参議院の調査資料によれば、発動時の在庫処理や課税調整の複雑さ、地方財政への影響が凍結継続の一因とされている。
また、廃止による減収をどのように補うかも大きな論点である。財源を他の車体課税や走行距離課税に移行する案も出ているが、制度設計には時間を要する。道路整備や地方交付金に充てられる歳入を確保しつつ、国民負担を軽減するバランスが求められている。
資源エネルギー庁の週次調査によると、2025年10月時点の全国平均レギュラーガソリン価格は約171円前後で推移している。
もし暫定税率が完全に撤廃された場合、特例25.1円に消費税分を加えた約27.6円が減税要因となり、単純計算で1リットルあたり170円が140円台へと下がる試算となる。年間600リットルを使用する家庭では、およそ1万6000円以上の節約効果が見込まれる計算である。
近年の価格推移をみると、全国平均の現金価格(gogo.gs調べ)は2024年末に176円前後を記録したのち、2025年春に160円を割り込み、夏場に再び170円台へ回復している。同時期の会員価格も160円前後で推移しており、全体としては高止まり傾向にある。
また、「e-nenpi」の最新データでは、10月第4週のレギュラー実売価格が約161円、看板価格が171円と報告されている。補助金の段階的縮小や円安の進行が価格を押し上げており、暫定税率の廃止議論はこうした流れの中で現実味を増している。
こうした動向を踏まえると、暫定税率は単なる税制改正ではなく、価格安定政策そのものの見直しにつながる。
高市政権が「暫定からの脱却」を実現すれば、グラフに見られるような上下動が抑えられ、国民負担の可視化も進む可能性がある。逆に、財源調整が難航すれば、再び“暫定”の名を冠したまま延命される懸念も残る。
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ガソリン価格の折れ線は、政治と経済の温度差を映す鏡である。高市政権が掲げる「暫定からの脱却」が実現すれば、半世紀続いた制度の節目となる。



