日常点検と定期点検の違い

両者は目的も、点検を行う主体も異なる。日常点検は、ドライバー自身が日常的に行う安全確認である。走行前や給油時といったタイミングで、タイヤの空気圧やエンジンオイルの量、ランプ類の点灯状態、ブレーキ液や冷却水の残量などを自分の目で確かめる。いずれも、走行中の安全に直結する項目ばかりだ。

一方で、定期点検は整備工場やディーラーなど、専門の整備士が行うものだ。12か月点検や24か月点検(車検)といった周期に従い、法令で定められた基準に基づいて車両全体を整備・確認する。

つまり、日常点検は「今、安全に走れるか」を確認するための行為であり、定期点検は「これからも安全に走り続けられるか」を確認するための行為である。両者は補い合う関係にあり、どちらか一方を行えば十分というものではない。

車の状態は、点検のタイミングから日々変化していく。定期点検で完璧な状態に仕上げても、翌日にはタイヤの空気圧が下がることもある。そうした日々の変化を見逃さないためにこそ、日常点検が必要なのだ。

定期点検だけでは防げないトラブルも

定期点検だけでは防げないトラブルも

たとえ車検に通っていても、点検直後から劣化やトラブルは少しずつ進行していく。日常点検を怠ると、こうした変化を見落とし、思わぬ不具合や事故につながる恐れがある。

たとえば、タイヤの空気圧低下や偏摩耗は、走行距離や気温の変化で容易に起こる。ブレーキランプなどのライト切れも、日常的に確認しなければ気づかないまま走行してしまうことが多い。さらに、ウォッシャー液の不足やエンジンオイルの減り、冷却水の漏れ、バッテリー端子の緩みなども典型的な見落とし例だ。

これらはいずれも、放置すれば走行中の故障や重大な事故につながる可能性がある。

実際に「車検を通したばかりなのに壊れた」というトラブルの多くは、整備不良ではなく日常点検の不足が原因であるケースが少なくない。

つまり、車検や定期点検は「安全な状態を整えるための整備」であり、その後の安全を維持するための確認こそが日常点検なのだ。ドライバーが自ら点検を行う習慣を持つことこそ、安全運転の第一歩である。

日常点検を手間にしないコツ

日常点検といっても、すべての項目を毎回細かく点検する必要はない。重要なのは「走行前に異常がないかを確認する意識」である。わずかなチェックでも、トラブルを未然に防ぐ効果は大きい。

たとえば、エンジンをかけたときにいつもと違う音や匂いがしないかの確認。ライト類がすべて点灯するか、タイヤの空気圧や側面のひび割れがないかを見るだけでも十分な安全確認となる。

また、ボンネットを開けてエンジンオイルや冷却水の量をざっと見る習慣をつけておけば、オーバーヒートや焼き付きといった重大トラブルを防ぐことができる。

こうした点検は、ガソリンスタンドでの給油時に合わせて行うと継続しやすい。さらに、最近ではディーラーや整備工場で「無料の簡易点検」サービスを提供しているところも多く、こうした機会をうまく活用すれば、自己点検の補完にもなる。

要するに、日常点検は「手間」ではなく、「安全を確認するための小さな習慣」だ。走り出す前のわずかな時間が、重大なトラブルを防ぐ最も確実な保険になる。

安全は自分で守るもの

日常点検を省略したからといって、すぐに車が壊れるわけではない。しかし、わずか数分の確認を怠ったことで、高額な修理費や思わぬ事故につながるケースは少なくない。タイヤの空気圧不足からパンクやバーストを招いたり、エンジンオイルの減少に気づかず焼き付きを起こすなどのトラブルの多くは、日常点検をしていれば防げたものだ。

車検や定期点検は「安全の証明」ではなく、「安全を維持するための準備」にすぎない。点検を受けた瞬間から部品の劣化は進行しており、整備工場のチェックだけで安全が永久に保証されるわけではない。

だからこそ、日常点検はドライバー自身の安全意識を支える最も基本的な行為といえる。安全は整備工場任せではなく、自分の手で守るべきものだ。ハンドルを握る前の数分が、安心して運転するための最初の責任であり、事故を防ぐ最大の一手でもある。