コンパクトカー市場の波を受けて登場した日産・マーチ
1980年代、日本の自動車市場では都市部や若年層を中心に「小型で燃費が良く、取り回しのいいクルマ」が求められていた。そんな時代背景のなか、日産自動車は1982年10月にマーチを日本市場に投入した。
この初代マーチ(K10型)は、当時のライバルとして挙がる ホンダ・シティ や トヨタ・スターレット などと肩を並べるスーパーミニサイズのクルマで、軽量設計や低燃費が特徴だった。
1992年に2代目(K11型)へフルモデルチェンジ。より広い室内や使い勝手を意識し、家族や女性ユーザーも視野に入れた仕様になった。
2000年代に入ると、コンパクトカーとしての性能に加えてデザインの個性やブランドイメージも要求されるようになり、マーチもスタイリングの刷新や内装の質感向上を図った。
やがて、2010年の4代目(K13型)あたりでは、マーチ/マイクラという名で海外市場も視野に入れたグローバル戦略車となった。
しかし、日本国内では2022年7月に製造終了、同年8月に販売終了となり、マーチの日本市場での歴史にひとまず幕が降ろされた。
大胆なデザインと完全電動化で生まれ変わる日産・新型マイクラ

ロンドンの「日産デザインヨーロッパ(NDE)」が手がけた新型マイクラは、SUVのような堂々とした存在感と、滑らかで上質なフォルムを融合。
ヘッドランプの「ウェルカム・ウィンク」演出や、LEDテールの円形モチーフなど、細部までこだわった新デザインが特徴だ。18インチホイールを全グレードに標準装備し、14種類のボディカラーとツートーンオプションが選択可能だ。
室内は「控えめなエレガンス」をテーマに、日本の意匠を取り入れた造形。10.1インチのデジタルメーターと中央タッチディスプレイを備え、質感の高いインテリアトリムを選択できる(モダン/オーダシャス/チルの3種)。
全長4m未満・全幅1.8m未満のコンパクトボディながら、室内空間を最大化。ホイールベース2.54mで安定性と俊敏性を両立した。ラゲッジ容量は326Lと同クラス上位の大きさを確保している。
初のフルEV化を果たし、40kWh/52kWhの2種類のバッテリーを搭載し、最大航続距離は408km(52kWh仕様)。急速充電にも対応し、100kW充電で15〜80%をわずか30分で完了。V2L(外部給電)機能も搭載し、アウトドアや災害時にも活用可能だ。
低重心設計のAmpRプラットフォームを採用し、マルチリンクリアサスペンションやストラット式フロントなど、上位車並みの安定性を実現した。軽量ボディ(1,400〜1,524kg)により、瞬時のトルクレスポンスと軽快なハンドリングを実現している。
日産・マイクラが描く、新しい時代の“小さくて賢いクルマ”のかたち

1980年代、日本の都市生活者が求めたのは「小さくて、賢くて、かわいいクルマ」だった。燃費が良く、狭い路地でも扱いやすく、それでいてデザインに個性がある。そんな時代の空気を背景に、1982年に日産が送り出したのが初代「マーチ」である。
軽快な走りと愛嬌のあるデザインで人気を博したマーチは、女性ドライバーや若年層を中心に日常に寄り添う小さな相棒として親しまれた。以降も時代ごとに姿を変えながら、コンパクトカーの定番として進化を続けてきた。
そして2025年、日産はそのDNAを受け継ぎながらも、時代の要請に応える新たな一台を発表した。
完全EVとして生まれ変わった新型「マイクラ」は、かわいさと知性を兼ね備えたデザインに、ゼロ・エミッションの先進技術を融合。都市に似合う小型EVとして、次世代のコンパクトカー像を鮮やかに描き出している。
「かわいい」だけでは終わらない、走りも環境性能も本格派の一台として、マーチの新たな時代を切り拓く存在となりそうだ。