滑り方も見え方も異なる凍結路面の実態

冬期の道路環境は、気温や日射のわずかな変化で大きく状態を変える。とくに凍結路面は、同じ氷であってもその成り立ちによって挙動が大きく異なる点が特徴である。
中でも、代表的な存在として挙げられるのが「アイスバーン」である。アイスバーンとは圧雪が踏み固められ、車両の通行により表面が磨かれたことで氷化した状態である。
光を反射するため、白く光る路面として認識される場面が多いが、「光って見える=安全に気づきやすい」とは限らない。それは、氷化した路面は摩擦がいちじるしく低下し、制動距離は通常路面とは比較できないほど伸びるためだ。
このギャップこそが事故リスクを高める大きな要因である。

そして、凍結路面の中には表面の見え方そのものが危険につながるタイプも存在する。その代表例が「ブラックアイスバーン」だ。
ブラックアイスバーンは路面の上に薄い氷膜が形成され、アスファルトの黒色が透けて見える状態を示す。
一見すると“濡れた路面”とほぼ変わらないため、多くのドライバーが凍結に気づかないまま進入しやすいとされている。
さらに、ブラックアイスバーンは、夜間や早朝の放射冷却によって発生しやすい。気温が3度前後でも、路面が氷点下に達する環境では即座に形成されるのだ。
とりわけ、都市部のように降雪量が少ない地域では、除雪や融雪が進みにくいためブラックアイスバーンが生じやすい傾向にあるという。

また、凍結が発生しやすい場所にも特徴がある。たとえば、橋上や陸橋は地中の熱が伝わらず凍結しやすく、河川沿いの道路や郊外のトンネル出入口では急激に路温が下がりやすい。
交通量の多い交差点付近ではタイヤによる磨き上げが氷膜を再形成し、いわば見えないスケートリンクのような状態が生まれることもある。
さらに、凍結路面での制動距離はドライバーの感覚とかけ離れている。実際にJAFのおこなった試験では、ウエット路面が停止まで11mだった状況でも、薄い氷膜路面ではその数倍の距離が必要となった。
この差は氷膜の薄さや路面温度の低下など複数要因が重なることで生じるものであり、視覚だけでは判断しきれない危険性を示している。
こうした路面特性を踏まえると、凍結に遭遇した際の対処を理解しておくことも重要といえるだろう。

では、滑った時にはどのような行動をとるのが適切だろうか。まず、滑った瞬間に強いブレーキを踏む行為は避けなければならない。
アクセルを戻して荷重を安定させたうえで、車体が滑る方向へステアリングを“合わせる”操作が必要となる。大きく切り込むのではなく、向きを取り戻すタイミングに合わせて微調整することで安定を図るのだ。
さらに、四輪が同時に滑る状況ではABSが作動するが、この際もペダルを乱暴に踏み込まず、一定の圧力で踏み続けることで車体の挙動が整いやすくなる。ただし、滑ってからの対処よりも“滑る前の備え”こそ重要である。

凍結の可能性がある日は車間距離を通常の2倍以上確保し、速度を抑えることが大切だ。そして、橋上や日陰、トンネル出入口では、路面の光沢や色の変化を注意深く確認しながら走行する必要がある。
さらに、場面別の操作にもポイントがある。発進時はタイヤが空転しないようにアクセルを軽く踏み、ゆっくりと動き出す操作が望ましい。
また、カーブでは進入前に減速を済ませ、旋回中は一定の速度を維持することで車体の乱れを防げるほか、下り坂ではエンジンブレーキを用いてフットブレーキの連続使用を避けることが安定性につながる。
* * *
冬道でもっとも危険なのは、アイスバーンやブラックアイスバーンのような、見た目では判断しにくい『隠れた凍結』である。
これらの特徴を正しく理解し、疑わしい路面では常に一段慎重な操作を心がける姿勢が事故回避につながるだろう。
