新幹線が酔いにくい理由と「揺れを抑える技術」

新幹線の写真
自動車よりもスピードが速く、でも静かで揺れも少ない新幹線はなにか秘密があるのだろうか。

クルマでは酔いやすい人が、新幹線では不調を感じにくい状況はよくあることだという。これはなぜなのだろうか。

まず、この違いは速度そのものではなく、乗り物酔いを引き起こす刺激の種類に起因する。高速走行と酔いやすさが直結しない背景には、身体が受ける加速度の質と、視覚情報との一致度が強く関わっている構造がある。

耳の平衡感覚などが感じる「動き」と、目から入る景色の「動き」が食い違って脳が混乱することで酔いが起こる。

そもそも乗り物酔いの主な要因のひとつは、身体が受ける加速度刺激と目に入る景色の不一致である。

医学領域では「動揺病」と呼ばれ、発進と停止の反復、速度変化、前後左右上下の加速度が内耳の前庭器官を刺激し、その情報が視覚と整合しない場合に自律神経が乱れる仕組みが発生する。つまり、不調は速度の大きさではなく、変化する加速度の性質から生じている。

さらに、乗り物酔いには「どのような揺れが続くか」も大きく関わる。ここでISO2631が示す人体感度の周波数帯が重要となる。

ISO2631では、0.1〜0.5Hz付近の低周波振動に人間が敏感になり、酔いやすさが増す周波数帯であると整理されている。こうした規格に加えて、ある団体の研究では、列車内における0.25〜0.32Hzの左右低周波振動が酔いの発生に強く影響すると報告されている。

つまり、たとえスピードが出ていても、揺れの“質”さえうまく抑えられていれば、不快にはつながらない。この前提に対し、新幹線は揺れそのものを抑える技術体系を確立している。

制御が働くことで仕事も可能だ。

JR東日本の技術資料では、「FASTECH360」で動揺防止制御と車体傾斜制御を組み合わせることで、左右乗り心地レベルを目標値である80dB以下に抑え、上下方向についても従来車と同等レベルまで低減できた結果が示されている。

加えて、曲線通過時の横方向加速度も一定範囲に収められるよう制御され、時速320km級の高速域でも安定した挙動が保たれている点が特徴である。

一方、東海道新幹線の主力であるJR東海の「N700S」では、フルアクティブ制振制御装置が採用されている。

JR東海の公式資料によると、この制御装置は車体の揺れを能動的に抑制し、とくにトンネル区間での揺れを従来比でおおむね半減させたと報告されている。

あわせて、空気ばねの特性も見直されており、上下方向の細かな振動を低減することで、車輪から伝わる揺れを台車と車体の間で吸収する機能が強化されている。

こうした車体側の工夫に加え、視界の安定も酔いにくさへ寄与している。景色の流れが比較的一定で、急激な加減速が少ないため、身体が受ける加速度刺激と視覚情報のズレが小さく抑えられる構造になっている。

スマホを持ってみている写真
体調が悪くなったときには画面をオフにして安静を取るべき。

日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会では、乗り物酔い対策として遠くの景色を見る姿勢や進行方向を向く座り方を推奨しており、新幹線の車内環境はこの条件と一致している。

万が一不調が生じた場合には、頭を背もたれに預けて揺れを吸収する姿勢を取る、換気をおこなう、水分を少量ずつとる、読書やスマホを一時的に控えるなどの方法が有効とされている。

* * *

総新幹線が酔いにくい理由は高速走行そのものではなく、揺れの周波数帯を問題領域から外す設計、加速度の制御、車体制御技術、上下方向の微小振動の低減、視覚環境の安定といった複数要素が連続的に機能している点にある。

この複合的な仕組みによって、時速200km級の高速移動でも不快感が生じにくい乗り心地が確立されている。