冬の大寒波や記録的な大雪により、高速道路で長時間動けなくなるケースは実際に何度も発生している。特に近年は気象変動の激化により、わずかな時間で道路状況が急変することも珍しくない。

こうした状況で最も危険なのは、「準備不足のまま長時間の立ち往生に巻き込まれる」ことである。そこで重要となるのが「事前の装備」と「正しい対処法」だ。

本記事では、冬に車へ積んでおくべき必需品と、大雪で動けなくなったときの対処法を、命を守る視点から解説する。

近年実際に発生した「大規模立ち往生」事例

大雪での車の立ち往生は、近年頻繁に起こっている。

冬の高速道路での立ち往生は決して特別な出来事ではなく、ここ数年だけを見ても深刻な雪害が繰り返し発生している。

2020年12月の関越自動車道では、記録的な大雪により最大約2,100台が立ち往生し、場所によっては最大50時間前後動けない状況が続いた。大型車のスタックをきっかけに車線が塞がれ、後続車が次々と巻き込まれたもので、この事例は国交省・NEXCOが立ち往生対策を強化する契機になった。

2021年1月には北陸自動車道や国道8号で同様の大規模立ち往生が発生し、道路によっては排除完了まで約2日を要した。視界不良や事故多発が重なり、長時間の通行止めが続いたことが報告されている。

2022年12月の新潟県内でも、国道17号を中心に立ち往生が多発し、最大で約38時間動けなくなったケースも確認されている。短時間で積雪が急増し、除雪作業が追いつかなくなったことが原因とされた。

さらに、2025年2月には「ここ数年で最も強い寒気」とされる大寒波が北海道・日本海側を直撃し、主要道路の通行止めや車両のスタックが相次いだ。短時間で約1m前後の積雪が発生し、車が完全に雪に埋まる様子が報じられるなど、各地で深刻な交通まひが生じた。

これらの事例が示すとおり、大雪の中では「想定外の長時間足止め」が現実として起こり得る。

まず確保すべきは「命」と「安全」

立ち往生に遭遇した際、最初に考えるべきは車内に留まるべきか、外へ避難すべきかという判断である。基本は車内待機が安全とされており、大雪下の車外は視界が悪く他車との接触リスクも高いためだ。ただし、以下の状況では車外への避難を検討する必要がある。

・車内の暖房が使えず、体温低下の危険がある
・非常駐車帯など、車外に安全な退避スペースが近くにある
・行政や道路会社が避難を呼びかけている
・車内に毛布・水・食料がなく、長時間の寒さに耐えられない

ただし、むやみに車外を歩くのは極めて危険な行為だ。勝手に車を置いて歩き出すのは危険なため、ハザード点灯・周囲確認を徹底したうえで判断したい。

暖房使用時は「排気口の雪詰まり」が最大のリスク

大雪時に非常に多い危険が、排気ガスの逆流による一酸化炭素中毒だ。雪中で暖房を使用する際には、以下の点に注意が必要だ。

・マフラー(排気口)が雪で塞がれていないか確認
・可能であれば、30分おきに周囲を除雪
・窓を1cmほど開けて換気を行う

エンジンをつけっぱなしにするのは暖を取るため仕方ない場合もあるが、マフラーが雪に埋まった状態で暖房を続けると、排気ガスが車内に逆流し命を落とす危険性がある。

大雪時は、スコップやスノーブラシは必須装備だと理解しておきたい。

大雪で長時間動けなくなる前提で「7つの必需品」を積む

車に積んでおくべき7つの必需品:高カロリーの保存食

冬の立ち往生は、12〜24時間以上続くことも珍しくない。そのため、以下の7つは“冬の命綱”として必ず車に積んでおきたい。

  1. 飲料水(1人1〜2Lが目安)
  2. 高カロリーの保存食(ようかん・カロリーバー等)
  3. 毛布・ブランケット
  4. 使い捨てカイロ
  5. 携帯トイレ
  6. モバイルバッテリー
  7. スコップ・スノーブラシ

特に水分は想像以上に重要で、暖房使用時は車内が乾燥するため脱水症状のリスクも高まる。

正しい情報を集め続けることも生存の必須条件

冬の渋滞では、誤った情報に惑わされないことが重要だ。SNS上のデマや未確認情報に惑わされず、公式情報を中心に確認することが大切である。確認すべきは次のような公的情報だ。

・JARTIC(日本道路交通情報センター)
・NEXCO各社の公式アプリ・サイト
・気象庁の警報情報
・国土交通省道路局
・カーナビのリアルタイム情報

行政は通行止めを解除する際も事前に情報発表を行うため、これらのルートを定期的にチェックすることで、次の判断がしやすくなる。

車内で長時間過ごすための「技術」も必要

長時間の立ち往生では、寒さに加えて体力の消耗やトイレの確保といった問題が深刻化する。

暖房を使い続けるとバッテリーへの負荷が大きくなるため、可能であれば電力消費の少ないシートヒーターを優先するとよい。体温維持は車内環境だけに頼らず、毛布やカイロを使って暖房の使用頻度を下げる工夫が重要だ。

スマホの電池は緊急連絡や情報収集に不可欠であるため、車の電源ではなくモバイルバッテリーで充電するのが望ましい。

体温を守る際は、手先や足先よりもお腹や背中といった「体の中心部」を温めるほうが効率的で、少ないエネルギーで冷えを防ぐことができる。

また、冬期の大雪時には、SA・PAが閉鎖されたり、トイレが十分に使えない状況になることもあるため、携帯トイレを車内に備えておくことは必須といえる。これがあるかどうかで、長時間の渋滞下での安心感は大きく変わるはずだ。

通行止め解除=安全ではない

通行止めが解除されても油断できない道路状況は続く。

通行止めが解除されたとしても、その直後の道路は安全とは限らない。

多くの場合、除雪がまだ十分ではなく、圧雪路の上に見えない氷が形成されるブラックアイスバーンが残っていることがある。さらに、道路脇の雪壁に車体を接触させる危険や、解除後に一斉に車が動き出すことによる再渋滞、さらには前方に立ち往生車両が残っているケースもあり、油断できない状況が続く。

とりわけ問題なのは、通行止め解除直後に「圧雪とブラックアイスが重なった最悪の路面状況」になりやすいという点だ。

見た目には乾いているように見えても滑りやすい路面が広がっている可能性が高く、速度は常に控えめに保ち、急ブレーキや急ハンドルといった挙動は厳禁である。道路が動き出した瞬間こそ、安全運転への意識を最も強く持つべき場面である。

立ち往生を防ぐための「出発前の準備」が何より大切

冬の高速道路では、出発前の判断がそのまま生死を分けると言っても過言ではない。

大雪警報が発表されているような状況では、そもそも出発を見合わせる判断が賢明だ。どうしても移動が必要な場合でも、冬タイヤの溝の深さや空気圧を事前に確認し、スコップや牽引ロープなどのスタック対策用の装備を積んでおくことが欠かせない。

近年は、国土交通省が指定した一部の区間で、「チェーン規制=スタッドレスだけでは通行不可」という運用が導入されている。大雪特別警報級の降雪時には、スタッドレスタイヤでもチェーンを装着していない車両は通行できない区間があり、チェーンの携行は“推奨”ではなく実質的な必須装備と言ってよい。

さらに、夜間や早朝は急激な冷え込みで路面が凍結しやすく、視界も悪化しやすいため、可能な限り日中の移動に切り替える判断が望ましい。

こうした準備と判断を出発前の段階で徹底できるかどうかが、冬の高速道路を安全に走り抜けられるかを大きく左右する。

冬の高速道路は“準備こそ命綱”

冬の大寒波や大雪による渋滞は、どれだけ気をつけていても巻き込まれる可能性がある。しかし、事前の備えと適切な判断があれば、危険を最小限に抑えられることが可能だ。

特に重要なのは次のポイントである。

  • 暖房使用時の排気ガス(マフラー)チェック
  • 車内で過ごすための防寒対策
  • 食料・水の携行
  • 携帯トイレの準備
  • 信頼できる交通・気象情報の継続的な確認
  • 出発前の状況判断と装備確認

これらを確実に押さえておけば、最悪の立ち往生に巻き込まれたとしても、落ち着いて状況に対応できる。冬の高速道路は「準備がすべて」と言ってよい。命を守るためにも、本記事で紹介した内容を次の冬ドライブの備えとして役立ててほしい。