視認性や道路構造の複雑さが原因となる高速道路の逆走

逆走の発生か所は、本線からの合流・出口が37%、料金所周辺が25%が占める。その要因としては、間違いに気付き、戻ろうとしたというのが半数だ。高齢者の場合は、加齢による判断力や周囲の状況の認識能力の低下も原因として挙げられるが、それだけが理由ではない。高速道路での逆走には明確なパターンがあるのだ。
国土交通省の調査によると主な原因は以下の4つに分類される。
第1に、標識や路面表示の見落としだ。特に進入禁止や一方通行の標識が見づらい位置にある場合や、夜間・悪天候時には視認性が著しく低下する。こうした環境では、ベテランドライバーでも誤って進入してしまうケースがある。
第2に、道路構造の複雑さによる混乱が挙げられる。立体交差の多い都市高速や複雑なジャンクションは、方向感覚を失いやすいとされている。特に不慣れな道路や工事による一時的な迂回路設置時には混乱が生じやすい。
第3の原因は、運転者の一時的な判断ミスや思い込みが挙げられる。疲労や焦り、慣れない道路状況での運転では、瞬間的な判断エラーが起きやすくなる。深夜の長時間運転後や体調不良時には特にリスクが高まる。
最後に、カーナビシステムの誤った指示も一因となっている。特に古いマップデータを使用している場合、実際の道路状況と異なる案内をすることがあり、ドライバーを混乱させることがある。道路構造が変更された直後や、複雑な分岐部分でナビの指示に従った結果、誤った経路に進入するケースが報告されている。
現在、こうした高速道路の逆走に対して路面の矢印表示やポール設置、合流区間までの締切対策による誘導など、さまざまな対策が取られている。しかし、逆走事案は2021年から増加傾向にある。このような対策が取られているにもかかわらず、2021年から逆走事案が増加傾向にある事実を踏まえると、複雑化した道路構造が一つの要因となっているのではないだろうか。
実際、特に複雑な構造を持つ都市部の高速道路では、逆走案件の発生率が高い傾向にあるのだ。
高速道路の逆走が引き起こす重大な交通事故

高速道路での逆走事故は、2023年度の逆走全体の224件のうち39件と、発生頻度こそ低いものの一度起これば致命的な結果をもたらすことが多い重大な事故だ。
NEXCO東日本によると、高速道路における逆走事故は、死亡事故の割合が高速道路全体の事故と比較して約38倍、死傷事故となる割合が約3倍と明らかに高くなっている。車が時速100km程度で走行する高速道路において、車同士が正面衝突した場合、衝突時の相対速度は時速200kmとなり、非常に大きな衝撃が生じる。
この衝突によって発生する力は、現代の車の安全設計の限界を超え、搭乗者の命を脅かす致命的な状況を引き起こす可能性が高い。逆走事案の発生時間帯別では、視界が悪化する夕方から夜間にかけての発生頻度が高くなる傾向が見られる。
深刻な逆走問題に対応して進化する検知システム

逆走事故の深刻さを受け、官民一体となった対策技術の開発が進んでいる。近年注目を集めているのが、AIとIoT技術を活用した予防システムだ。国土交通省は逆走検知システムの導入を段階的に進めている。このシステムはカメラと画像解析技術を組み合わせ、逆走車両を早期に検知。検知後は道路情報板への警告表示や、道路管理者への通報を行う仕組みとなっている。
試験導入されたエリアでは、逆走事案の減少効果が確認されており、今後も全国の主要箇所への展開が計画されている。検知精度の向上や対応時間の短縮など、システムの改良に関しても継続的に行われているようだ。
このような高速道路逆走に対する取り組みは、自動車メーカーでも進められている。トヨタやホンダなど主要メーカーは、2022年以降の新型車に逆走防止アラートを標準装備し始めた。このシステムはGPSと高精度地図データを組み合わせ、車両が高速道路を逆走していると判断した場合、警告音とともに緊急ブレーキアシスト機能を作動させる仕組みだ。
また、高速道路の入口には逆走防止のための様々な対策が実施されている。路面に描かれた大型矢印マークの強化や、LED表示による視認性の向上、大型の進入禁止標識の設置など、ドライバーが直感的に進入方向を認識できるような工夫が全国的に広がっている。こうした対策により、特に対策が強化されたエリアでは逆走事案の減少が報告されている。
次世代技術による未来の高速道路の安全確保
高速道路の安全性向上に向けた取り組みは、今後さらに加速する見込みだ。次世代高速道路システムの開発が進められており、現在期待されているのが、道路と車両が通信するV2I(Vehicle to Infrastructure)技術の実用化だ。これにより、潜在的な逆走リスクをリアルタイムで検知し、事前に警告を発することが可能になる。
制度面でも対策が進んでいる。運転免許制度の見直しや、安全運転サポート車の普及促進など、多角的なアプローチで事故防止が図られている。特に高齢ドライバーに配慮した対策も重要視されており、免許更新時の検査内容の充実なども検討されているようだ。
こうした技術と制度の両面からのアプローチにより、社会全体で高速道路の逆走事故ゼロを目指す取り組みは今後も続いていくだろう。