北極圏スウェーデンの地で氷点下30度を下回る極限試験

世界の自動車メーカーが凍てつく冬の極寒テストを行う聖地として知られるのが、スウェーデン北部のアルイェプログだ。
ここではボルボやメルセデス・ベンツなど多くのメーカーが専用施設を構え、氷点下30度を下回る環境で車の性能を試している。
完全に凍結した湖上に造られた氷上コースでは、ブレーキシステムやスタビリティコントロールの限界テストが行われる。2022年に公開された映像では、メルセデス・ベンツの最新電気自動車(EV)が氷上でのコントロール性能を確認する様子が捉えられていた。
「極寒環境では、エンジンの始動性能からバッテリーの持続力、そして車内の暖房システムまで、あらゆる部品が過酷な試練にさらされます」と、あるテストドライバーは語る。北極圏のこれらの施設では、消費者が経験する可能性のある最悪の冬条件より、さらに厳しい環境でテストが行われているのだ。
エアコンシステムや冷却装置の限界が試される灼熱のサバイバルテスト

対照的な極限環境として、世界の自動車メーカーは灼熱の砂漠にも秘密の試験場を持っている。
その代表格が米国アリゾナ州のフェニックス近郊に存在し、夏季には気温が50度を超えるこの場所で、エアコンシステムや冷却装置の限界が試される。
トヨタやゼネラルモーターズ(GM)などが利用するこの施設では、炎天下で車を駐車した後のキャビン内温度が60度近くまで上昇する試験も実施される。
世界最悪の道を再現するトヨタ東富士研究所の過酷すぎる試験コース

日本国内にも世界が注目する秘密の試験場がある。トヨタの「士別試験場」は北海道の厳しい冬を利用した冬季テストで知られるが、さらに秘密度が高いのが「東富士研究所」だ。富士山麓に広がる約860万平方メートルの敷地には、公道では絶対に再現できない過酷なコースが設けられている。
特に注目すべきは「悪路耐久コース」で、世界中の最悪の道路状況を再現したテストコースとなっている。アフリカのサバンナの未舗装路からベルギーの石畳まで、あらゆる路面状況が凝縮されている。
2021年に一部公開された映像では、ランドクルーザーの試作車が50センチ以上の深さの水たまりや急斜面を走破する様子が確認できた。
東富士では24時間体制でテストが行われ、数か月にわたって同じコースを何度も走行する。市場に出る前に10年分の走行距離を稼ぐことも少なくないようだ。最新技術の漏洩を防ぐため、施設内では厳重なセキュリティ対策が施されているという。
より安全な自動車開発を目指し、進化するテスト手法と次世代試験場
自動車の開発プロセスが進化する中、テスト方法も変革期を迎えている。
2024年現在、多くのメーカーがバーチャルシミュレーションと実地テストを組み合わせたハイブリッドアプローチを採用し始めている。スウェーデンのボルボは実際の試験データをAIに学習させ、仮想空間での走行テストを行うシステムを導入した。
一方で、自動運転技術の発展により、新たな試験施設の需要も高まっている。米国ミシガン州の「Mcity」は自動運転車専用の都市環境を再現した世界初の試験場として注目を集めている。複雑な交差点や予期せぬ障害物など、実際の市街地で起こりうるあらゆる状況をコントロールされた環境で検証できる画期的な施設だ。
極限環境での物理的なテストとデジタル技術を融合させた次世代の試験手法は、より安全で信頼性の高い自動車開発への道を切り開いている。未来の車は、実世界とバーチャル世界の両方で鍛え上げられていくことになるだろう。