オイルショックが生んだエコカーの原点

1973年10月、第四次中東戦争をきっかけに発生した第一次オイルショックは、世界の自動車産業に衝撃を与えた。アラブ産油国による原油価格の引き上げと輸出制限により、世界中でガソリン価格が高騰。日本では同年末までにガソリン価格は40%前後も上昇し、各地のガソリンスタンドには長蛇の列ができた。
この危機は、これまでパワフルなエンジンと加速性能を競い合っていた自動車メーカーの開発方針を一変させた。特に日本の自動車メーカーは素早く対応し、トヨタは1979年に「カローラ」の燃費を従来比約30%向上させた新型モデルを発売。ダットサン(日産)も同時期に「サニー」の燃費性能を大幅に改善している。
米国でも1975年にエネルギー政策保全法が制定され、企業平均燃費(CAFE)規制が導入された。これにより、それまで大排気量エンジンを搭載していた米国車も、小型化と軽量化の道を歩み始める。
フォードは1979年に燃費重視の「フェアモント」を発売し、当時の米国車としては画期的な1ガロンあたり20マイル以上の燃費を達成した。この時期に開発された低燃費車こそが、現代のエコカーの原点と言えるだろう。
小さな排気量に軽量な車体、空気抵抗を減らした流線型のデザイン。このような基本的な思想は今日のエコカーにも受け継がれている。
トヨタのHEVプリウスにはじまった先進車革命

1990年代に入ると、エコカーは単なる低燃費車から進化を遂げる。地球温暖化への懸念が高まる中、二酸化炭素排出量の削減が新たな課題として浮上したのだ。
トヨタは1997年、世界初の量産ハイブリッド車(HEV)「プリウス」を発売。ガソリンエンジンと電気モーターを組み合わせたこの革新的なシステムは、従来のガソリン車に比べて大幅な燃費向上と排出ガス削減を実現した。当初は仕組みが複雑すぎる、故障が多いのではないか、といった懸念の声もあったが、プリウスの信頼性と経済性は徐々に市場に受け入れられていく。
ホンダもトヨタに続き、1999年に「インサイト」を発売。アルミボディによる徹底した軽量化と空力性能の向上により、当時の量産車として世界最高レベルの燃費を達成した。後に欧米メーカーも日本メーカーの先進的な取り組みに追随し、ハイブリッド技術は世界標準へと発展していった。
2000年代に入ると、リチウムイオン電池の性能向上と価格低下を背景に、プラグインハイブリッド車(PHEV)の開発も加速。充電設備から電力を供給できるPHEVは、短距離なら電気だけで走行できるため、さらなる環境性能の向上を実現した。
特に都市部での排出ガスゼロ走行が可能になったことで、大気汚染に悩む世界の大都市からの注目を集めることとなった。
世界的EV普及推進の流れ。ゼロエミッション時代の到来

2010年代になると、エコカーは新たなステージへと進化する。
日産は2010年にEV「リーフ」を発売。走行中に二酸化炭素を全く排出しないゼロエミッションを実現した。初代リーフの航続距離は約160kmと限定的だったが、環境意識の高い層からの支持を集め、世界的なEV普及の先駆けとなった。
テスラは2012年に高性能EVセダン「モデルS」を投入。「エコカーは性能が低い」というそれまでの常識を覆す加速性能と、従来のEVを上回る最大航続距離約425kmを実現し、高級車市場に存在感を示した。さらに同社は独自の急速充電ネットワーク「スーパーチャージャー」を世界中に展開し、EVの最大の課題だった充電インフラ問題にも精力的に取り組んだ。
一方、トヨタは別のアプローチを模索。2014年にFCEV「ミライ」を発売した。水素と酸素を化学反応させて発電し、走行中の排出物が水だけというこの革新的な技術は、次世代エコカーの可能性を広げた。
諸外国で目まぐるしく進歩するEV技術。自動車産業のカーボンニュートラルへの挑戦
2020年代に入り、世界は「カーボンニュートラル」という新たな課題に直面している。多くの国が2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロを目指し、各国政府はガソリン車の新車販売禁止時期を定め始めたことにより、日本の自動車産業もさらなる変革を迫られた。
英国は2030年、日本は2035年をめどにHEVを含むガソリン車の新車販売実質ゼロを目指すと発表。これに呼応するように、ボルボは2030年までに完全電動化を、GMは2035年までにEVのみの販売を目指すなど、各メーカーが壮大な転換計画を打ち出した。
この流れを受けて、EVの開発競争はさらに加速。バッテリー技術の進化により、最新のEVモデルは500km以上の航続距離を実現した。充電インフラも急速に整備され、EVの実用性は着実に向上している。
さらに、固体電池など次世代技術の研究も進み、将来的には充電時間の大幅短縮や航続距離のさらなる延長が期待されている。半世紀前のオイルショックをきっかけに始まったエコカー開発は、今や地球環境を守るための必須の技術として定着した。そして現在、自動車産業は「電動化」という新たな大転換期を迎えている。
日本の自動車産業はというと、HEV技術に関しては世界をリードしているものの、EV化に関しては諸外国に一歩遅れをとっている状況だ。どのようにしてこの変革を乗り越え、次の50年に向けて進化していくのだろうか。
気候変動という人類共通の課題に対する、日本の自動車産業の挑戦は続く。