目次
「安かろう悪かろう」はもう古い! 現代アジアンタイヤ事情
みなさんは「アジアンタイヤ」と聞いてどのような印象をお持ちだろうか? 「安い」「性能が悪い」「寿命が短い」「硬い」……そんな「安かろう悪かろう」なネガティブなイメージしかお持ちでないなら、今やそれはハッキリ言って時代錯誤というものだ。
韓国や台湾、インドネシア、マレーシア、中国などで製造されるタイヤは、ひとまとめに「アジアンタイヤ」と呼ばれているが、その内容はメーカーによって大きく異なる。
例えば、ハンコックやクムホ、ナンカンなどは、今やグローバルメーカーとして世界市場で確固たる地位を築いており、OE (Original Equipment=純正装着)タイヤとしてトヨタやBMWなどの大手自動車メーカーに採用されるほど。
性能的にはブリヂストンやミシュランなどのリーディングメーカーのフラッグシップタイヤとは言わないまでも、これらのメーカーの普及グレードや中堅メーカーのタイヤとは遜色ないレベルにはあると言っていいだろう。
近年の円安や原材料費の高騰、品質自体の向上によりアジアンタイヤはひと昔のような激安価格で売られることは少なくなったが、それでも国産タイヤに比べればまだ安い。消耗品であるタイヤのコストはできれば抑えたいと考えるユーザーにとってはなんともありがたい存在ではある。
アジアンタイヤが安いのは、彼の地での人件費が安く、原材料費の入手が容易(東南アジアは天然ゴムの生産地だ)で、工場設置基準や環境基準が先進国に比べて幾分甘いという事情からだ。価格が安いから性能が低いと決めるのは早計というもの。
ただし、依然としてアジアンタイヤは玉石混交。市販されている製品の中にも明らかに品質が劣るものも含まれているのも否めない。だが、日本法人が設立されているメーカーや、輸入元がしっかりしている製品ならまず大丈夫。フツーに街乗りに使う分には心配はほとんどない。あとは実際に使っているユーザーの評価やタイヤショップのアドバイスを参考にしながら、使用用途に応じた製品を選べば問題はないだろう。
中国発の高品質・高性能タイヤ「VITOUR TIRE」は走り屋にも人気
そんなアジアンタイヤの中でも最近注目を集めているのがVITOUR TIRE (ヴィッツァータイヤ)だ。
D1GPのオフィシャルサポートタイヤとしても知られるこのタイヤは、ドリフト競技にエントリーする走り屋たちから人気に火がついたというが、
「国産のハイグリップタイヤに比べてやや熱ダレが早いが、グリップ性能はまったく遜色がない」
「ここ一番のタイムアタックの際はともかく、日頃の練習や走行会レベルでは充分すぎる性能」
「コスパの高いハイグリップタイヤ」
と押し並べてユーザーの評価は高い。
VITOUR TIREの生産国は中国だ。本社は山東省青島市にあるが、生産工場は青島と天津の中間地点にある東営市に置かれている。2006年に設立された若い会社だが、世界40カ国で販売され、OEタイヤとして自動車メーカーへの供給実績を持つグローバルタイヤメーカーである。
中国製と聞くと品質面で不安を覚える人がいるかもしれないが、同社の製品に対する姿勢は本物のようで、ドリフト競技などのモータースポーツに積極的に製品を供給し、そこから得られた情報を解析して市販タイヤにフィードバックする形で製品を開発している。こうして独自のノウハウを蓄積し、技術開発に力を注いできた結果が、ハイグリップタイヤを充実させたラインナップという形で結実している。
また、同社は品質へのこだわりも並々ならぬものがあり、ヨーロッパの一流タイヤメーカーが採用するオランダ製の加硫整形機を導入し、高精度なハイマイルの金型を採用するなど設備投資にも余念がない。もちろん、厳しい検品体制も確立しており、製造したタイヤは出荷前に1本1本熟練した工員が目と手を使ってチェック。少しでも品質に問題があるタイヤは破棄される。
こうした同社の姿勢は製品からも「トップブランドにも負けない良いタイヤを作ろう!」という気概がひしひしと伝わってくる。少なくとも価格だけが取り柄のアジアンタイヤメーカーとは違うと感じられる。その分、お値段は他のアジアンタイヤよりも高めだが、国産の同等品と比べればそれでもリーズナブルな製品が多い。
ホワイトリボンやホワイトレターなどのニッチなラインナップがありがたい
さて、今回そんなアジアンタイヤの中からVITOUR TIREを試す機会に恵まれた。と言っても、同社が金看板にしているハイグリップタイヤではなく、ドレスアップ派に静かなブームを読んでいるホワイトリボンタイヤの方だ。
と言うのも知人が愛用している四代目ダイハツ・ムーブに装着しているヨコハマECOS ES31(2016年05週製造)が使用限界を迎えたため、オーナーが「オシャレでカワイイ、ホワイトリボンタイヤを履かせたい」との相談があったからである。
どうやら先日のムーンアイズ主催カーショーの『35th Anniversary MOONEYES Street Car Nationals®』で、ホワイトリボンタイヤを履かせた軽自動車を見かけたことが理由らしい。
とは言え、1950~1960年代にかけては多くのタイヤメーカーが製造していたホワイトリボンタイヤも、現在では国産タイヤメーカーはラインナップに載せておらず、入手がしやすいものと言えばナンカンかVITOUR TIREくらいしか選択肢がない。ナンカンはつい最近、筆者の趣味車である1967年型アルファロメオにNS-1を履かせた経緯があるので、今回は巷で話題のVITOUR TIREをチョイスすることにしたのだ。
タイヤフィッター武蔵村山店での交換
プロのVITOUR TIRE JAPANの印象とは?
さっそく輸入・販売元のVITOUR TIRE JAPAN(アールプライド株式会社)に、ムーブに適合する155/65R14サイズのフォーミュラX WSWを4本注文。オーナーの自宅に届いたタイヤは、タイヤが汚れないように青いビニールで丁寧に梱包されていた。梱包の一部を解いて中を確認すると、サイドウォールにはブルーの保護剤が塗られたホワイトリボンが引かれていた。
交換作業は東京都武蔵村山市にあるタイヤフィッター武蔵村山店に依頼。この店は持ち込み作業歓迎のタイヤのプロショップで、高い技術力だけでなく、タイヤについての幅広い知見があることからVITOUR TIREについてもプロの目から見た面白い話が聞けることを期待した。
作業をしてもらいながら山本哲平店長にVITOUR TIREについて話をうかがう。
「最近、当店でも持ち込みによる依頼が増えているブランドです。なかなか良いタイヤですよ。安心してお勧めできます。
ハイグリップタイヤの『テンペスタ』シリーズが人気ですが、『フォーミュラ』シリーズや『ホワイトリボンタイヤ』シリーズのような普通のタイヤも良いですよ。
国産タイヤが転がり抵抗を抑えたエコ志向が強いのに対し、VITOUR TIREはトータルでの性能を重視したバランス型。走る・曲がる・止まるの基本を押さえていますので使っていて不満はないでしょう。燃費性能は国産タイヤに比べて若干落ちますが、走りや静粛性、乗り心地、そして一般的なタイヤの摩耗指数が300~400なのに対して、VITOUR TIREは600(×100をした数字が走行可能距離とされる)もあり、耐摩耗性に優れたことを考えれば納得できる範囲にあると思います」
タイヤ交換作業のしやすさについても訊いてみた。
「ショルダー部の剛性が高いので、ホイールへの組み込む作業でちょっと力が入りますね。ただ作業しにくいというほどではありません。DIYでタイヤ交換をする人は少ないと思いますが、手組みするのはちょっと難しいかもしれませんね。どうぞタイヤ交換は私たちのようなプロに任せてください(笑)」
また、ホワイトリボンタイヤやホワイトレタータイヤのラインナップが少なくなった理由についても尋ねてみた。
「ホワイトリボンタイヤはサイドウォールにペイントしているわけではなく、製造段階で白いゴムを埋め込み、黒いゴムとサンドイッチ構造でタイヤを整形します。ですから、仮に縁石などでサイドを擦ってしまっても剥げたりしないのです。ですが、こうしたタイヤを作るには手間とコストがかかります。しかも、需要は旧車やカスタムカーなどに限られてしまうニッチ商品。だから国産タイヤメーカーはラインナップしていません」
「逆に言えば、ホワイトリボンタイヤやホワイトレタータイヤを製造するメーカーは、技術力や製品にある程度自信があるメーカーということもあります。仮に技術がなく、品質に何かがあるメーカーがこの種のタイヤを作ると、整形不良による歩留まりが悪くてビジネスになりませんし、ユーザーの手に渡った後もサイドのゴムが剥離を起こしてクレームが多発……ということにもなりかねませんからね。VITOUR TIREはその点でも優秀なタイヤだと言えます」
山本店長とお喋りを楽しみながら交換作業を見守る中、30分ほどで終了。礼を言って帰ろうとすると、店長から「ホワイトリボンの青い保護材は蝋のようなものなので、帰ったら熱いお湯を浸したスポンジやウェスで掃除すると綺麗に撮れますよ」とのアドバイスをいただいた。
ただのファッションタイヤではなかった⁉︎
ニュータイヤ装着で型遅れのムーブが欧州コンパクトに変身!
新品タイヤに履き替えた帰り道。その変化に筆者は気づかされることになる。まず驚いたのが高い静粛性、そして直進安定性だ。騒音計などは持っていないため、あくまでも体感によるものだが、往路に比べて明らかにロードノイズが減り、車内が静かになった。乗り心地もなかなか良い。
直進安定性に関して言えば、走行中もひょこひょことどこか落ち着かない印象のある背の高い軽トールワゴンが、どっしりと安定感のある走りに変わっている。おまけに軽くて頼りなかった電動パワステが適度に重さを感じるしっとりしたフィールに変わっているのだ。ステアリングを軽く左右に小刻みに切って車体を揺すってみたが、ここでも不安を感じることがない。「なんだこれ? ムーブが欧州車に変わったゾ!」。タイヤひとつでそれくらい印象が激変していた。
直進安定性が増したということは、ステアリングを切ったときの反力が強くなり、過渡特性が悪化しているのではないかと疑ったが、それも杞憂に過ぎなかった。ステアリングをじわりと切ると直進の安定性が残減しつつ、シームレスかつ穏やかに旋回へと移って行く。その際の手応えもなかなか良い。
耐摩耗性に優れたタイヤということで気になるグリップ性能だが、これもまったく不安がない。むしろカーブに多少速く進入してしまってもしっかり路面を捉えてくれるので安心感が高い。コンパウンドに頼るだけでなく、ケース剛性の高さもグリップを得るのに貢献しているかの印象を受けた。
VITOUR TIREの評判は聞いていたが、それでも「アジアンタイヤの中では」というカッコ付きだろうと思っていたが、まさかここまでとは……。ハッキリ言って舐めてました。どうもスミマセン。
筆者はタイヤの専門家ではないし、先輩諸氏のようにタイヤのインプレッションを集中的にやってきたわけではないが、それでも自動車ライターの端くれ。タイヤの良し悪しはある程度はわかる。そんな筆者からしてもVITOUR TIREはなかなかなものだと思った。履き古し、ほぼ寿命を迎えたタイヤからの比較なので多少のバイアスは掛かっているのだろうが、それでもこのタイヤが優秀なことには変わりがない。
走り・曲がる・止まる・静粛性に一切の不満なし!
VITOUR TIREはコスパ抜群だ! 問題があるとすれば……
そんなVITOUR TIREだが、難点がまったくないわけではない。それはタイヤの重量だ。フォーミュラX WSWに履き替えてから妙にバネ下に重さを感じるのだ。あとで調べてみると同サイズのECOS ES31に比べると1本あたり0.8kgも重い。国産タイヤのほとんどが5kg台中盤なのに対し、フォーミュラX WSWは6.3kgもある。もちろん、タイヤを軽く作れるのもメーカーの技術力である。ひょっとするとVITOUR TIREは国産メーカーほどの軽量化技術を持ち合わせていないのかもしれない。だが、彼らはそれを逆手にとって「日本メーカーのように軽いタイヤを作れないのなら、重くても良いタイヤを作ろう!」とばかりに、優れたドライブフィールと静粛性、耐摩耗性を重視した製品開発を行ったとも考えられる。
これはこれでひとつの見識かもしれないが、この重さは燃費面で若干不利になることは否めないし、足回りの重量負荷増を避けることは物理的に難しい。実際、10年以上前のムーブにこのタイヤを履かせてみると、上記のように乗り味や操作フィールは良好ではあったが、反面、ダンパーやブッシュ類などの足回りのヘタリに起因するダンピング不足を意識させられるようになった。このタイヤを履きこなすなら足回りのリフレッシュ、ないしは若干の強化が必要になる、そのように感じたのもまた事実だ。古い軽ハイトワゴンだからそのように感じただけで、新車や足腰のしっかりしたクルマならそのようなことは感じないのかもしれないが。
その後もオーナーからムーブを借り出して、数百kmほど走ったが今のところ交換直後に感じた印象に変化はない。雨天時もグリップや操安性に不安を感じることもなくなかなか良好だ。オーナーも「車内が静かになった。走りに安定感がある。乗り心地も良い。何よりも足元がかわいくオシャレになった!」と大変ご満悦である。
そろそろ結論を出そう。VITOUR TIRE フォーミュラX WSWは指名買いしても良いと思った。まずタイヤの素性が良い。昨今の国産メーカーは転がり抵抗を抑えたエコタイヤの開発に力を入れているが、タイヤに求められるのは燃費性能だけではない。走る・曲がる・止まる・静粛性などの総合バランスを考えるとVITOUR TIREの良さが俄然輝きだす。さらには基本性能を押さえた上での耐摩耗性に優れた設計は、ロングドライブ派にとっては燃費と同様に十分な経済利得性がある。「とにかくガソリン使用量を節約!」とする極端なユーザーでもなければ、自信を持ってオススメできる。
国産タイヤより安いとは言うけど……気になる価格は!?
ホワイトリボンタイヤのフォーミュラX WSWの価格は155/65R14サイズで1本8580円だった。ホワイトリボンが入らない同サイズは7480円。ともにVITOUR TIRE JAPANオンラインショップでの価格だ(送料無料)。ともすれば3000円代から購入できるアジアンタイヤの中では高価であるし、安売り店なら国産タイヤも狙える価格設定ではある。だが、それでもホワイトリボンタイヤという希少性や、基本性能の高さや走りの良さ、長寿命ということを考慮すれば選択肢のひとつになり得る。長期の使用で走りや乗り味が今後どのように変化するのかはまだ分からないが、現時点で筆者はかなり気に入っており、次は自分の愛車にも履かせてみたいと思った。
タイヤフィッター武蔵村山店(移転リニューアル準備で営業休止中) 所在地:東京都武蔵村山市神明4-122 電話:042-843-5245 https://www.tire-fitter.co.jp