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9月で日本発売予定の新型EV、ヒョンデ・コナ。価格はアイオニック5より100万円安い!?
2022年に日本市場への再参入を果たしたヒョンデ。徐々に日本でもその名を耳にする機会が増え始めた今日この頃だが、世界に目を向ければ、ヒョンデは2022年に約680万台の販売を達成した巨大メーカー。グループ別販売台数では、トヨタとフォルクスワーゲンに次ぐ第3位に躍進しており、知らぬは日本ばかりなり、というのが世界の自動車メーカーの勢力図だ。
そんなヒョンデだが、日本への再参入にあたっては、ZEV(ゼロエミションビークル)のみを投入する戦略をとっており、まずはEV(電気自動車)のIONIQ(アイオニック)5とFCEV(水素燃料電池車)のNEXO(ネッソ)が販売中だ。また、日本ではディーラーを展開せずにオンラインのみで販売を行なっているのも特徴。車両を実際に試乗してみたいというユーザーのためには、試乗や購入の相談が行える「Hyundai カスタマーエクスペリエンスセンター」を横浜や丸の内、京都といった場所に設けている。さらにカーシェアサービスの「エニカ」とも業務提携を結び、ユーザーが車両に触れられる機会を提供している。
さて、現在のところ日本におけるヒョンデのセールスで中心になっているのはアイオニック5で、累計販売は約700台とのこと。日本ではシェアを獲得するのが難しい輸入車、そのうえニッチなEVという条件においてはまずまずの数字のように思えるが、さらにセールスを押し上げるにはラインナップの拡充が欠かせない。そんな中、待望の新型EVが日本上陸を果たすこととなった。それが今回ご紹介する「コナ」。9月中の日本発売が予定されている本命(!?)EVなのだが、韓国でいち早く試乗することができたので、その模様をお伝えしたい。実際に触れてみて感じたコナのセールスポイントは、ズバリ、「程良いサイズ」「充実した装備」「しっかりした走り」の三つだ。
2023年3月にワールドプレミアされた新型コナは、アイオニック5より2回り小型のコンパクトSUV。2017年登場の先代に対しては特に後席の居住性向上を目的としてボディが拡大されたというが、全長4355mm(先代比+175mm)、全幅1825mm(同+25mm)、全高1575mm(同+20mm)、ホイールベース2660mm(同+60mm)は日本でもジャストなサイズ。ヒョンデは自社の車種構成の都合上から「BセグメントSUV」と称するが、数字上はCセグメントにカテゴライズできるもので、取り回しやすさと室内空間の広さのバランスがちょうどいい。日本のSUVでは、ホンダ・ヴェゼルに近いと言える。ではEVはどうかというと、意外にもこのサイズのEVはラインナップが手薄で、日産サクラでは小さすぎる、けれどもアイオニック5では大きすぎる…と考えていたような人にとってはピッタリ。幅広く日本のユーザーに受け入れられるサイズではないだろうか。
一方、日本では賛否を呼びそう(⁉︎)なのがエクステリアのデザインだ。空気抵抗係数はわずか0.27という空力ボディは近未来からやってきたような雰囲気。ノーズを左右に横切るピクセル調のLEDポジションライト、ホイールアーチアーマーという勇ましい名前がついたオーバーフェンダー、そしてサイドのベルトラインからリヤのハイマウントストップランプまでつながったクロームラインが独自性をアピールしている。アイオニック5も独創的だが、それに負けずとも劣らない攻めたデザインだ。好き嫌いは分かれそうだが、そもそも万人から好まれることは目指していないのだろう。世界的にデザインの評価が高いヒョンデの底力が、新型コナからは感じられる。
なお、アイオニック5はEVに特化したプラットフォーム(e-GMP)を用いるが、これは中型車以上を対象とするもの。新型コナはK3という内燃機関のモデルと共通のプラットフォームを採用しており、日本以外のマーケットでは2.0L自然吸気と1.6Lターボ、2種類のエンジン車も用意されている。そうしたICEとEVが混在するモデルの場合、ICE車の方が先に開発され、その後にEVがつくられることが多いが、新型コナは逆。開発の順番はEVが先で、何よりもEVに最適なレイアウトを実現することが最優先されたそうだ。
後席はスペース十分で居心地良好。フロントフード下にも収納を用意
そうしたEV優先の開発プロセスの恩恵を受けているのが、ゆとりのある室内空間。後席に座ってみると、4.3m強という全長から想像する以上に膝まわりのスペースには余裕がある。身長165cmのドライバーが運転席の着座位置を設定してから後席に座った場合、膝前には縦にした拳がふたつ入る空間が確保されている。センタートンネルがないフラットフロアが実現されているのはEVならではのメリットだ。また、バックレストは2段階で角度が調整できるのも後席乗員にとってはうれしいところ。
ラゲッジルームも通常時で466L(VDA方式)の容量が確保されている。フォルクスワーゲン・ゴルフの荷室容量が380Lというのを聞けば、新型コナの荷室が十分なスペースであることが想像できるだろう。また、新型コナにはフロントフード下にも積載スペース(EVの場合、この空間をフランクと呼ぶ)がある。こちらは容量27Lなので大きな荷物は入らないが、普段は使わない小物を仕舞っておくの役立ちそうだ。
先進的かつ使い勝手に優れた運転席。便利な装備も満載!
順番が前後してまったが、続いて運転席に座ってみよう。そこから眺めたインパネは、先進性と利便性を巧みに両立したと思えるもの。12.3インチの液晶モニターがふたつ並列に並べられて多彩な情報を前席の乗員に提供する一方で、空調やインフォテインメントの操作のための物理スイッチも残されているため、初めて乗った際にも戸惑うことが少ない。
そして、装備の充実ぶりは目を見張るものがある。前席は左右ともに電動調整式だし、シートヒーターだけでなくベンチレーション機能も備わるなど、至れり尽くせり。また、テールゲートが電動開閉式なのもうれしいところだ。液晶メーターは、ウインカーを出すと巻き込み防止のため、曲がりたい方向の斜め後ろの画像が自動的に表示されるなど、いちいち気が利いている。
装備といえば、新型コナにはV2Lが備わるのもポイント。V2Lとはヴィークル・トゥ・ロードの略で、車両の電気を家電など外部の機器に給電する機能のこと。リヤのセンターコンソールにはコンセントが設けられているほか、充電ポートにV2Lアダプターを接続することで、さまざまな電気製品の利用が可能となる。万が一の災害時やアウトドアを便利に楽しむ際に活躍する、あったら間違いなくうれしい機能といえるだろう。
走りはスムーズそのもの。充実したADASも頼りになる
前置きが長くなったが、そろそろ新型コナで韓国の路上に出てみよう。ステアリング奥の右側(左ハンドル車ではワイパーレバーの下側)に位置するシフトスイッチを「D」に回してアクセルに置いた右足に力を入れると、クルマはスルスルと上品に走り出す。こうしたスムーズな加速はEVの真骨頂といえるところで、コナもその例外ではない。
ちなみに新型コナにはモーターとバッテリーが異なる2種類のモデルが用意されており、スタンダード(基本型)と呼ばれるモデルには容量48.6kWhのバッテリーと最高出力99kW/最大トルク255Nmのモーターが組み合わされる。それよりも上級に位置し、今回の試乗車となったロングレンジ(航続型)が搭載するのは、容量64.8kWhのバッテリーと最高出力150kW/最大トルク255Nmのモーター。気になる航続距離は欧州仕様が約490km(WLTPモード)と発表されているが、日本仕様ではそれ以上の航続距離が確保されるとのこと。なお、新型コナの駆動方式は、フロントに搭載したモーターが前輪を駆動するFWDモデルのみとなっている。
しばらく一般道を走った後、高速道路へ。本線に合流するため、アクセルを全開にするとあっという間に法定速度の上限である110km/hに達する。パワーフィールはスムーズのひと言。最高出力150kWといえば、トヨタbZ4X/スバル・ソルテラのFWDモデルのモーターと同値。背中を蹴飛ばされるような加速…というほどでは正直ないものの、車両重量は新型コナが約1.7t、bZ4X/ソルテラが約1.9tで、新型コナは200kgも軽いということもあり、加速感に不満は感じられない。いったん減速した状態から再加速するような場面でも、EVらしくアクセル操作に対するレスポンスが良好で、交通の流れを自在にリードできる。
しばらく110km/hでクルージングする時間が続いたが、そこで気がついたのは新型コナの車内が静かなこと。もともとICE車に対して静粛性では有利なEVだが、エンジン音がしない代わりに、ロードノイズや風切り音が耳についてしまいがち。しかし新型コナは、そのどちらも綺麗に抑え込まれており、Boseのプレミアムサウンドシステムから流れる音楽を楽しみながらの快適なドライブが可能。その気になって走りを満喫したいという方のためには、アクセル操作に応じて擬似的なサウンドを発生する「e-ASD」という機能も用意されている。
新型コナを上手に乗りこなすなら、回生ブレーキを意識するといいだろう。回生ブレーキはステアリング裏に設けられたパドルを操作することにより、4段階で調整が可能。アクセルから足を離してもほとんど減速しないレベル0、エンジン車のエンジンブレーキよりもやや減速感が弱めの印象のレベル1、やや強めとなるレベル2、そして最強(?)の回生ブレーキ強度となるMAXが用意されており、道路状況や好みに応じて使い分けられる。なお、MAXを選ぶと自動的に「i-PEDAL」モードになる。いわゆるワンペダル走行で、アクセルペダルだけで加減速をコントロールすることができる。新型コナの場合は、完全停止まで対応しているのが特徴だ。また、パドルを長引きするとAUTOモードが利用可能に。これは前方の交通状況に応じて回生ブレーキの効き方を自動で調整してくれるというもの。個人的には、このAUTOモードが一番走りやすかった。
ACCのスムーズな制御が好印象。ARナビがわかりやすく道案内
また、新型コナではクラス最高水準のADAS(先進運転支援システム)の採用を謳っており、交差点通過時や車線変更時にステアリング操作をサポートして衝突を回避する前方衝突回避アシスト機能や、ウインカーを出すと自動的に車線変更して遅い先行車を追い越してくれる機能も備わる。今回の試乗ではアダプティブクルーズコントロール(ACC)を試してみたのだが、速度調整がスムーズだったのが好印象。前方に車両が割り込んで来たような場面でも、ガツンとブレーキが掛かるのではなく、スーッと自然にスピードを落として適切な車間距離をキープしてくれた。
ちなみに、筆者が韓国でクルマを運転するのは初めてのこと。先導車の後を追いながらの試乗とはいえ、道がまったく分からないので、もし逸れてしまったらどうしよう…とドキドキものだったのだが、そんな不安を和らげてくれたのがヘッドアップディスプレイやARナビゲーションといった充実したインフォテインメント機能だ。
新型コナのヘッドアップディスプレイはとにかく見やすいのが特徴。表示スペースは大きく、カラフルな文字やアイコンによって、ACC稼働の状況やナビの方向案内、速度標識といった情報を表示してくれるほか、左右の側後方から車両が接近している場合にも警告してくれる。視線を前方にそらすことなく、車両の状況を把握することが可能だ。また、ARナビゲーションは、進行方向を表す矢印が実際の路上の映像に重ねて表示されるため、曲がるタイミングがとてもわかりやすい。見ても乗っても、新型コナの充実した装備には驚かされた次第だ。
かなりのコスパが見込める新型コナ。9月の日本発売が楽しみだ
前述したとおり、新型コナの日本発表は9月の予定。それに先立ち、予約が9月上旬から開始されるという。気になる価格は現時点では未発表。兄貴分であるアイオニック5の価格は479万円-599万円だが、試乗に先立っての説明会では「アイオニック5よりも100万円くらい下の価格帯」を予定しているとの発言もあった。さらにヒョンデは5月からカーライフサポートプログラム「ヒョンデ・アシュアランス・プログラム」をスタートさせているが、これが新型コナにも適用予定だという。最初の3年間における2度の法定点検、車検の基本料金、車検時のバッテリークーラントの交換、さらに外観のダメージケアまで含めたサービスが無償で付帯されるというものだ。
そうしたコスト面の情報と、今回の試乗の印象とを総合して考えてみると、新型コナのコストパフォーマンスはちょっと驚くべきものと言える。K-POPやメイクにファッションと韓国文化が日本でもブームを巻き起こしている昨今だが、ひょっとするとEVもその流れに乗ることになるかもしれない。
※今回紹介した新型コナは海外仕様のものです。日本仕様とは異なる場合がありますので、ご了承ください。
ヒョンデ・コナ ロングレンジ 19インチ(韓国仕様) 全長×全幅×全高:4355mm×1825mm×1575mm ホイールベース:2660mm 車重:1740kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式 モーター最高出力:204ps(150kW) モーター最大トルク:255Nm 駆動方式:FWD 電池:リチウムイオン電池 総電力量:64.8kWh 総電圧:358V 一充電走行距離:368km タイヤサイズ:235/45R19