実は生産台数3000台以下!? 憧れのランサーエボリューションワゴンをワークスレプリカ×『世話焼きキツネの仙狐さん』痛車で楽しむ!

2023年7月29日(土)、群馬サイクルスポーツセンター(群馬県利根郡みなかみ町)で開催された走って遊べる『群サイBIGMEET』。多数の来場者を集め大いに盛り上がったこのイベントだが、走行会はもちろんミーティングもあり、実に多彩なクルマがオーナーと共に集まった。そんな参加者の中から気になるクルマを取材してみた。今回は生産台数2847台という希少車、三菱ランサーエボリューションワゴンGTを紹介しよう!
REPORT&PHOTO:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi)

2016年、惜しまれつつその歴史に幕を下ろした三菱ランサーエボリューション。世界ラリー選手権(WRC)への参戦を目的に開発されたランサーエボリューション・シリーズは、2005年までワークス体制で参戦し、多くの記録を残しているのはご存知の通り。ランサーエボリューション・シリーズは無印の第1世代から第10世代まで14年間にわたって生産され、初代モデルから最終モデルまで一貫してセダンボディが採用されていたが、第9世代にあたるランサーエボリューションⅨにのみ、ワゴンボディのモデルが存在したのをご存知だろうか。

初代の誕生は50年前! 歴代ランサーヒストリー

■初代
三菱ランサーは1973年に誕生。1969年にコルトシリーズが大型化してコルトギャランへとモデルチェンジされたため、これまでのコルト同クラスの小型セダンとして開発された。ボディは2ドアセダンと4ドアセダンの2タイプ。エンジンは4ストローク4気筒OHVの1200cc、同SOHCの1400cc、1600ccの3タイプが用意された。1973年には2ドアセダンモデルに、ギャランGTOに搭載されていた直列4気筒SOHC1597ccにSUツインキャブレターエンジンを搭載したモデル「1600GSR」を追加する。

ランサー1600GSR(1973年)

三菱自動車(当時は三菱重工)は1965年からラリーへの参戦を開始しており、1967年のサザンクロスラリー(オーストラリア)でコルト1000Fが総合4位、小排気量クラスでは優勝を果たしている。以降も参戦を続け、コルト1500SS、ギャランA2、ギャランGTOなどほぼ毎年新モデルを開発して投入している。1972年にはアンドリュー・コーワンのドライブにより、ギャラン16Lが総合優勝を獲得している。
1973年からは世界ラリー選手権(WRC)がスタート。同年10月のサザンクロスラリーにランサー1600GSRを5台出場させ、1-2-3-4フィニッシュを達成した。

ラリーを戦うランサー1600GSR(PHOTO:三菱自動車)

その後はオイルショックの影響により活動は縮小するものの、サザンクロスラリーで3勝、1976年のサファリラリーで 1-2-3フィニッシュを獲得して、ラリーの三菱、ラリーのランサーを印象付けた。

■ランサー1600GSR(A73/初代)
全長:3960mm
全幅:1525mm
全高:1360mm
ホイールベース:2340mm
車両重量:870kg
エンジン形式:直列4気筒OHC
総排気量:1597cc
最高出力:100ps/6300rpm
最大トルク:13.5kgm/4000rpm

■二代目
1979年のモデルチェンジで二代目に移行する。イタリア人プロダクトデザイナーアルド・セッサーノによるエクステリアデザインは、初代の丸みを帯びた形から一転して、直線基調のシャープなスタイルに変化し、車名は「ランサーEX」となった。
搭載されるエンジンは全て直列4気筒SOHCで、1200、1400、1600の3タイプを用意。翌年の1980年には1800ccエンジンを追加。1981年には2000ccのSOHCにターボチャージャーを追加したエンジン(4G63)を搭載する「ランサーEX2000 Turbo」がヨーロッパのみで発売。国内向けには1800ccのSOHC(G62B)にターボを追加した「1800GSRターボ」が発売となった。

ランサーEX 1800GSRターボ(1980年)

1977年にラリー活動を休止していた三菱自動車だったが、ランサーEX2000ターボの登場とともに活動を再開し、アクロポリスラリーへ参戦。1982年の1000湖ラリーで総合3位を獲得するも、当時連勝を続けていたアウディ・クアトロとのタイム差は大きく、三菱も4WDラリーカーの開発が急務と判断し、以降はランサーに変わってスタリオン4WDを開発することとなり、ランサーはWRCの表舞台から姿を消すことになった。

■ランサーEX1800GSRターボ(A170系/二代目)
全長:4230mm
全幅:1620mm
全高:1385mm
ホイールベース:2440mm
車両重量:1025kg
エンジン形式:直列4気筒OHCターボ
総排気量:1795cc
最高出力:135ps/5800rpm
最大トルク:20.0kgm/3500rpm

ちなみにこの時代、ランサーEXと並行して「ランサーフィオーレ」というモデルが販売されていた。当時、三菱には「カープラザ店」と「ギャラン店」の2つのディーラーが存在し、ランサーを取り扱うギャラン店にベーシックなコンパクトモデルが存在していなかったため、ミラージュのエンブレムを変更した姉妹車として投入されたもの。

ランサー・フィオーレ(1982年)

■三代目
ランサーEXがFRなのに対し、ランサーフィオーレはFFであった。このランサーフィオーレとランサーEXが統合する形で、1988年に三代目ランサーが登場。クリルのデザインなどが異なるものの、ミラージュとほぼ同じ姉妹車となった。スポーツモデルとして1600ccのターボモデル「1600GSR」も用意されていたが、当時のWRCはギャランVR-4が活躍している時代。ランサーが世界のラリーステージに登場することはなかった。

ランサーGSR(1988年)

■四代目
1991年には4代目へモデルチェンジ。前後のエクステリアデザインが異なるものの、ミラージュとほぼ共通の姉妹車。エンジンは直列4気筒の他、当時市販車では世界最小排気量だった1600ccのV型6気筒搭載車のランサー6もラインナップされた。

ランサーMR(1991年)

ランサーエボリューションシリーズの誕生

1992年にはこの四代目ランサーの1800GSRをベースに、2000ccの直列4気筒ターボエンジン(4G63)を搭載した4WDモデル「ランサーエボリューション」が登場した。
1980年代後半のWRCでは、ハイパワーなエンジンと高精度の4WDシステムを搭載したギャランVR-4がそのポテンシャルの高さを十分に発揮していたが、コースによってはそのホイールベースの長さに悩まされていた。しかも1993年からWRCのレギュレーションが変更されることとなった。

そこで三菱自動車チームはランサーのコンパクトなシャシーに注目し、ギャランVR-4(E39A)のユニットをランサーに移植することを計画。ボディにはスポット溶接を増して強化を施し、ギャランVR-4用の2000ccターボエンジンとビスカスカップリングのセンターデフを採用した4WDシステムを搭載。この年からWRCのホモロゲーション取得の最小生産台数が2500台へ変更されたため、このランサーエボリューションは2500台限定での発売となった。

ランサーGSRエボリューション(1993年)
■ランサーGSRエボリューション(CD9A)
全長:4310mm
全幅:1695mm
全高:1395mm
ホイールベース:2500mm
車両重量:1240kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1997cc
最高出力:250ps/6000rpm
最大トルク:31.5kgm/3000rpm

ホモロゲ取得用の少量生産だったにも関わらず注文が殺到し、最初の2500台は3日で予定台数を完売してしまったため、2度の追加販売により7600台を販売した。1994年には改良型のランサーエボリューションⅡが発売され、1995年にはさらに進化したⅢを発売。

ランサーGSRエボリューションII(1994年)
ランサーGSRエボリューションIII(1994年)

1995年にはランサーがモデルチェンジされ、1996年にエボリュションⅣが登場。エンジン搭載の向きを180度回転させ、駆動ロスを低減している。1998年にⅤ、1999年にⅥが販売された。WRCでの活躍も目覚ましく、1996年からはフル参戦。トミー・マキネンにより5勝を獲得して初のWRCドライバーズチャンピオンに輝いた。

ランサーGSRエボリューションIV(1996年)
ランサーGSRエボリューションV(1998年)
ランサーGSRエボリューションVI(1999年)
■ランサーGSRエボリューションⅣ(CN9A)
全長:4330mm
全幅:1960mm
全高:1415mm
ホイールベース:2510mm
車両重量:1350kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1997cc
最高出力:280ps/6500rpm
最大トルク:36.0kgm/3000rpm

2001年にはランサーエボリューションもランサーセディアがベースとなり、ランサーエボリューションⅦが登場。このモデルではシリーズ初のAT搭載車GT-Aが追加されている。その後もⅧ、Ⅸへと進化しするが、2006年、日本国内ではランサーシリーズがほぼ終了となり、ギャランフォルティスが後継車種とされた。

ランサーGSRエボリューションVII(2001年)
ランサーGSRエボリューションVIII(2003年)
ランサーGSRエボリューションIX(2005年)

2007年発売のランサーエボリューションⅩもギャランフォルティスがベースに変更になるが、このギャランフォルティスは日本国内以外ではランサーの名前で販売されている。エボリューションⅩはエンジンをこれまでの4G63型から4B11型に変更されている。オールアルミシリンダーを採用したことで、軽量化に貢献している。ちなみにWRCに関しては2005年を最後に三菱自動車ワークスでの参戦を休止してしまったため、エボリューションⅩが三菱チームからのWRC参戦は実現しなかったが、多くの国際ラリーで活躍している。

ランサーエボリューションⅩ(2007年)

2015年、ベースとなるギャランフォルティスの生産終了を受けてランサーエボリューションXの生産終了がアナウンスされ、2016年に26年間の歴史に終止符が打たれた。

シリーズ初のワゴンモデルが登場!

この長い歴史の中で、唯一のワゴンモデルが1500台限定で発売されたのは2005年。
当時ランサーセディアにラインナップされていたワゴンボディをベースに、エボリューションⅨのパワーユニットとドライブトレーンをごっそり移植。このパワーに対応するため、セダンボディに比べてリヤ周りの剛性が低いボディを強化している。ピラーとルーフの接合部分には補強を施し、大型のクロスメンバーを追加。リヤラゲッジの開口部には50以上のスポット溶接増しを施し、リヤのフロアやホイールハウス、ボディサイドも接号部分を強化。リヤショックの取り付け部分には補強財も追加しているほどだ。

ランサーエボリューションワゴンGT-A(2005年)

また、大きなエアスクープが開いたアルミ製ボンネットや前後バンパーもエボリューションⅨ用が使用されるほか、アルミフェンダーやサイドドアもエボリューション用を使用して前後ともにブリスターフェンダーになっている。見た目だけでなく、走りもエボリューションⅨと遜色のない仕上がりで、実際にスーパー耐久などのレースにも参戦している。

ランサーエボリューションワゴンGT-A

用意されたグレードはGTとGT-Aの2モデル。GTはエボリューションⅨと同様の280psのMIVECエンジンを搭載し、 6速MTを搭載する。GT-AはエボリューションⅦGT-A用の272psエンジンと5速MTを搭載。フロントのナンバープレートは中央に配置されている。

ランサーエボリューションワゴンGT

2006年にはチタン合金のタービンを使用してレスポンスを向上させたランサーエボリューションワゴンMRが限定発売されているが、販売台数はわずか400台にとどまっている。ランサーエボリューションワゴンが販売されたのは約1年強のわずかな期間のみで、総生産台数も2847台と記録されている希少車だ。

ランサーエボリューションワゴンMR(2006年)
■ランサーエボリューションワゴンGT
全長:4520mm
全幅:1770mm
全高:1480mm
ホイールベース:2625mm
車両重量:1500kg
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ
総排気量:1997cc
最高出力:280ps/6500rpm
最大トルク:40.0kg-m/3000rpm

チューニングにドレスアップに走行会に……
ワークスレプリカ×痛車仕様で我が道を征く

ともあむさんの愛車は2005年式のランサーレボリューションワゴンGT。このホワイトパールのボディカラーはメーカーオプションの設定だった。

そのわずか3000台弱の中の1台が、2023年7月に開催されたBIG MEET2023に参加していたので、撮影させていただいた。
オーナーのともあむさんは自身が高校生の時に発売されたランサーエボリューションワゴンに一目惚れ。必ず手に入れてやると心に決めて、社会人1年目の2018年に、2005年式のGTを思い切って購入した。

サイドのドアはランサーセディアワゴン用ではなく、セダンのエボリューション用が使用されている。リヤフェンダーはブリスターとなっている。

コツコツとチューニングやドレスアップを楽しみながら、月いちペースでサーキット走行などを楽しんでいる。購入から3年後、ボディカラーを1995〜1996年頃の三菱石油ラリーアートカラーをモチーフに、好きなキャラクターを組み合わせた念願の痛車仕様に。ラリーレプリカと可愛いキャラクターが融合した独自のスタイルとなった。

1995〜96年頃のWRCワークス車両ラリーアート三菱石油カラーをベースに、可愛いキャラクターを組み合わせたレプリカ&痛車仕様だ。
足まわりはHKSの車高調でローダウン。 Winmaxのブレーキで制動力を強化。ホイールのスポークにも推しのキャラクターが。
製作当初は『ラブライブ!』仕様だったステッカーを昨年『世話焼きキツネの仙狐さん』に変更。貼り付けはほとんど自分で。原作絵がこだわりだ。

定期的にサーキットで全開走行をしているにも関わらず、これまで大きなトラブルは一切ないのだとか。これは油脂類や消耗品などを早めに交換し、定期的な予防整備を行っているからに他ならない。

タイミングベルトやエンジンマウントは早めに予防交換して完調を保つエンジン。ラジエターはトラストのアルミ製に交換している。
テールエンドのチタンカラーが美しいHKSのスーパーターボマフラーを装着。生産台数の少ないワゴン用はアフターパーツが少ないのも悩み。
ハンドルはOMPのディープコーンに交換。ホーンボタンにも推しキャラが。追加メーターは全て赤文字盤で統一している。
ドライバーズシートはBRIDEのフルバケット、ナビゲーターシートはレカロのセミバケットを装着。サベルトの4点ベルトも装備。
オーナーのともあむさん。サーキットを壊れずに楽しく走れる痛車を目指してコツコツとカスタマイズしている。

高校時代から憧れ続けて手に入れたランサーエボリューションワゴンに、限りない愛情を注ぎ込んでいる。

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著者プロフィール

橘祐一 近影

橘祐一

神奈川県川崎市出身。雑誌編集者からフリーランスカメラマンを経て、現在はライター業がメイン。360ccの軽…