限定でもないのにわずか6000台……スバル・アルシオーネSVXは苦難の星? パーツ欠品にも負けずネオクラシック車のワンオフカスタムを楽しむ!

2023年7月29日(土)、群馬サイクルスポーツセンター(群馬県利根郡みなかみ町)で開催された走って遊べる『群サイBIGMEET』。多数の来場者を集め大いに盛り上がったこのイベントだが、走行会はもちろんミーティングもあり、実に多彩なクルマがオーナーと共に集まっていた。そんな参加者の中から気になるクルマを紹介していこう。今回はスバルのスペシャルティカー、アルシオーネSVXなのだが……このSVXはあまりに個性的だった!
REPORT&PHOTO:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi)

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「アルシオーネ」はどういう意味?

スバルのエンブレムには6つの星が描かれている。この星々は株式会社SUBARU(以下、スバル)という社名の由来にもなっている、牡牛座の「昴(すばる)」を表している。古来より六連星(むつらぼし)とも言われ、肉眼で確認できる6つの星を「昴」と呼んでいた。冬から春にかけて東の空で観測できる昴は、M45プレアデス星団とも呼ばれ、「アルキオネ」「アトラス」「エレクトラ」「マイア」「メローぺ」「タイゲータ」「プレイオーネ」の7つが代表的で、ギリシャ神話にも七姉妹の名前として登場している。

スバルの「六連星」エンブレムの変遷

スバル車に付けられた初代のエンブレムは6つの星が線で繋がるようなデザインとなっていたが、現代のスバル車に取り付けられているエンブレムは一つの大きな星の右側に5つの星が並ぶようなデザインとなっている。この最も大きく描かれているのが、星団の中で最も明るい星である「アルキオネ」で、英語読みではアルシオーネとなる。

スバルのフラッグシップモデルに命名!

スバル・アルシオーネ(VRターボ/1985年)
EA82型1.8L水平対向4気筒SOHCターボエンジンを搭載し、パートタイム4WDのVRターボとFFのVSターボをラインナップ。CD値は当時国内最高の0.29を実現(VSターボ)。

1985年にスバル(当時は富士重工株式会社)から発売された、初のスポーツクーペの名称として採用されたのはご存知の通り。当時は同社のフラッグシップモデルとして、昴で最も輝いている星の名前を名付けられたのだ。しかし、アルシオーネは初年度の国内登録台数はわずか3315台。1987年には2700cc水平対向6気筒エンジンを搭載したグレードを追加するものの販売台数の向上には繋がらず、国内での登録台数はわずか8000台にとどまった。

スバル・アルシオーネ(VX/1987年)
1987年のマイナーチェンジで2.7L水平対向6気筒SOHCエンジンを搭載したVXを追加。4WDモデルはVX、VR(VRターボよりグレード名を変更)ともにフルタイム化された。

国内での販売は低迷していたとはいえ、北米、ヨーロッパ、オーストラリアでも販売されたアルシオーネ(北米とヨーロッパではSUBARU XT、オーストラリアではVortex)は、1991年に生産終了するまで約9万9000台が生産された。

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スバルに限らず、国内で販売している車種で海外へ輸出しているモデルの中には、国内とは異なる車名…

二代目、襲名「S”VX”」!

スバル・アルシオーネSVX(1991年)
EG33型3.3L水平対向6気筒DOHCエンジン+フルタイム4WDモデルのみで、グレードは装備の違いにより「バージョンL」と「バージョンE」が用意された。

初動から販売が低迷したアルシオーネではあったが、初代レガシィのヒットによって富士重工の業績が回復していたことと、日本はバブル経済真っ只中だったこともあり、早々に後継車種の開発が行われた。スバルのイメージリーダーとなるアルシオーネに相応しく、より大型のグランツーリスモ・クーペとして企画された。

今回取材したおるたなさんのアルシオーネSVX。アルシオーネSVXはジウジアーロデザインらしい端正なフォルム。フロントマスクは当時の初代レガシィ後期型にも似た水平基調のデザインとなっている。

エクステリアデザインはイタリアのデザイン会社であるイタルデザインに依頼し、ジョルジエット・ジウジアーロによるスタイリングが採用された。航空機にインスピレーションを受けたというグラスキャノピーのサイドウインドーやウエッジシェイプのボディスタイルは、初代モデルのイメージを引き継ぎ、よりスタイリッシュに進化している。

ジウジアーロがデザインしたグラスキャノピーを実現するためにミッドフレームのサイドウインドウを日本車で初めて採用した。

搭載されるパワーユニットは、EG33型と呼ばれる3318ccの水冷水平対向6気筒DOHC24バルブのNAで、最高出力は240ps(日本仕様)を発生。組み合わされるトランスミッションは4速ATのみで、駆動方式は4WDのみとなっていた。ただし、1994〜1995年モデルの北米仕様にのみFF仕様が用意されたが、実際にデリバリーされたのは非常に少数だと言われている。
スバル独自の4WDシステムである、バリアブル・トルク・ディストリビューション4WD(VTD)が初めて採用され、通常のトルク配分はフロント36%、リヤ64%に設定され、4WDで起こりやすいアンダーステアを低減している。

当時はスバル最大の排気量だった3.3Lの水平対向6気筒エンジンを搭載。2.2L水平対向4気筒のEJ22型エンジンに2気筒追加したもので、後の6気筒EZエンジンとは共通点はない。

これまでのスバルにはなかった高性能で高級クーペとなったアルシオーネSVXは、車両本体価格が333.3万円から399.5万円(1991年モデル)と高価だったことと、バブル経済の崩壊直後だったということもあり、日本国内では発売年の1991年は1725台、翌年の1992年度でもわずか1325台しか販売されず、1996年の生産終了までに5944台が登録されるにとどまった。ちなみに北米市場では1万4257台、全世界でも2万4379台となっており、販売成績は初代モデルにも遠く及ばない結果となった。

アルシオーネSVXはスバルでは初めて六連星エンブレムではなく車種エンブレムを戴いた。その流れは初代インプレッサ(1992年)、二代目レガシィ(1993年)、初代フォレスター(1997年)と続き、2001年の三代目レガシィのマイナーチェンジまで続いた。

他に類を見ないワンオフドレスアップ

国内販売は6000台にも満たない台数しか販売されなかったにも関わらず、生産終了からまもなく30年を迎えるいまでも実働状態を維持しているファンも多く、中には複数台所有しているユーザーもいるほどだ。

ドアのラインから上はブラックに塗り分けられている。より低く、シャープな印象に見せている。

今回紹介するおるたなさんもそんなファンの一人。スバルのお膝元である群馬県出身のおるたなさんは根っからのスバル好き。BE5、BH5、BG9、BPEとレガシィを乗り継ぎ、ついにアルシオーネSVXに辿り着いた。この白いSVXを手に入れたのは5年前。スバルのフラッグシップであることと、6気筒のボクサーエンジンを味わってみたくて手に入れたと言う。

インパネからセンターコンソールに繋がるデザインが特徴的。現代のクルマにはない独特の雰囲気が漂う。L字のサイドブレーキレバーも独特だ。

維持していくのは大変かと思いきや、これまではそれほど大きなトラブルはなく、エアフローのハンダが割れて走行中にストールしたことと、ヒュージブルリンクが飛んで始動不能になったことくらい。一般の人からすれば十分に大きなトラブルだが、マニアにとってはたいしたことではない……のか? ただ、最近はATが滑り始めてしまい、補修パーツも手に入りにくいのでどう修理すべきかが大きな悩み。部品取り車から取り出すか、いっそのことGDBのミッションを流用してMT化か?

ホイールは純正をホワイトにペイント。当時のレガシィのホイールとは異なり、同じ5穴でもPCDはレガシィの100mmに対してアルシオーネSVXでは114.3mmを採用していた。

今となってはドレスアップパーツはおろか補修パーツも入手困難なアルシオーネSVXだが、他車種からの流用やワンオフパーツでカスタムを楽しむ強者も多い。

レガシィ・ランカスター6用のエンブレム「H6」が貼り付けられているが、前述の通りEG33型はEJ22型がベースなので、同じ水平対向6気筒DOHCでもランカスター6に搭載されたEZ30型とは全くの別物。

おるたなさんのこの車両もTEINの車高調でローダウンされている。リヤのホイールアーチにセットされているスパッツは、他社種のボディパネルを流用して板金職人に造ってもらったワンオフパーツ。世界で2セットしか存在しないのだとか。

リヤのホイールハウスに取り付けられているスパッツは、他車種のボディパネルを加工して製作したワンオフパーツ。

この白の車両はグレードが「バージョンL」で、本来は本革内装が装備されている上級グレードだが、グラスエリアが広くエアコンが効きにくいので、表面が熱くなりにくい布シートに交換されている。

おるたなさんのアルシオーネSVXは上級グレードの「バージョンL」なので、内装は本革仕様だがグラスエリアが広く暑いのでファブリックシートに交換してある。

おるたなさんは他にもう1台アルシオーネSVXを所有しているので、こちらの白い車両はもっとカスタマイズが進むかもしれない。

カーオーディオはアナログUVメーター搭載のCD/MDレシーバー、パナソニック「CQ-VX5500D」を装着。今でも人気のモデルだ。

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