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妥協なしの取り組みで新次元のステージに突入
徹底的にスリム化を果たした『NBR390A』は、ひとつの完成形だったはずだ。事実、このラチェットハンドルは前回のオブザイヤー受賞作。けれど、それから1年も経たないうちに、また違った究極が出てきてしまうのだから、技術進化はたゆみない。
ネプロス「neXT」の冠を添えられる新ブランドは、見た目からして既存イメージとは大きく違う。NBR390Aと同様のメカニズムを使いつつ、また別のベクトルで大きな進化を果たしている。
何より、採られた手法が違う。産学連携で実用が進む先進分野の一つである「トポロジー最適化」は、力学的・数学的根拠に基づく条件のもとで、剛性を落とさずに軽さを追求するもの。寸法効率化や形状効率化の先を行くものとされる。
そのアプローチを経て導かれたのがこの姿だ。橋桁のような独特の構造は、究極の軽さと強さを体現する。とはいえ、計算式のようにすぐに答えが出たわけではない。開発スタートは2016年から始まっており、実質7年もの開発期間を要している。それでも、実用化の例としてはこれとて短期に入るという。製造部門を社内に持つ、モノ作りのエキスパートだからこそ可能にできた濃密な7年でもあったわけだ。
産学連携による新たな手法の採用でネプロスが生み出す新たな“新化”
すでに行き着くところまで到達した感のある、KTCネプロスによる究極のツール制作。だからこそ、次へのステップはより難しさを増す。
「これまでの経験でも、ある程度突き詰められたという自負はありました。だからこそ、そこから考えを新化させないと次の形状は求められません。たとえ加工の難易度が上がったとしても、突き詰めたものを一度壊す必要があると考えました」
その手段として採られたのが、“トポロジー最適化”と言われる構造最適化手法だ。
「物体を仮想でメッシュ状にし解析すると、力を加えた時にいる部分といらない部を仕分けできます。そこで得たのが、なくてもいい部分があるという着眼点でした」
トラス構造と言われる独特な形状にたどり着く大きな一歩とはいえ、それだけで成立するほど商品化は簡単ではない。
「強度試験をしても大丈夫だというのがこれで分かったんですけど、持ちやすいかっていったらそうではないわけで。ここから先は、どういう形状が実際に手に馴染むかを考えました」
トポロジー最適化はあくまでもいち手段。次なるステップを踏む上では原点回帰も大事なプロセスになった。
「工具はもともと、人ができないことをできるようにしたのが始まりだと思うんですね。安全であるとか安心できる工具っていうのがその次のステップ。さらにその先に、実際に工具を使う皆さんがどういう物を求めているかに考えが及びます。うちで言うネプロスです」
受賞モデルはこのさらに先を行くものだ。
「新しく化ける“新化”として、ネプロス・ネクストがあります。ネプロス・ネクストは作業者の工具を使用する姿勢を観察、研究して最適化されたツールです」
あくまで、軽さは一つの要素に過ぎない。
「まとめると、ダイレクト感と伝達性と拡張性、それから感性です。これらが等しく綺麗に進化すれば、“新化”していると言えるんじゃないかと考えました。軽量化も一つのPRポイントではあるんですけど、使いよさを突き詰めた結果としてこの製品はあります」
社内外に渡り、製品化の反響は大きなものだった。
「第一印象で、すごくインパクトを受けたという声は届いてますね。あと、違う会社さんでは、“うちではこれは作れない”とも言われました。ひと目見て手間が掛かるのが分かるんで、どうしても敬遠してしまうとのことです。考えついても量産はできないというレベルなのかもしれません」
“新化”の歩みはまだ始まったばかり。ラチェットハンドルは、そのひとつに過ぎない。