日産・フェアレディZの頂点に立つ最強の「フェアレディZ432」。432は、高性能エンジンの象徴“4バルブ/3キャブ/2カム”の意味【歴史に残るクルマと技術035】

フェアレディZ432
フェアレディZ432のフロントビュー
初代「フェアレディZ(S30型)」は、日産自動車のブランド向上のため1969年に誕生した。なかでも、そのトップグレード「フェアレディZ432」は、レーシングプロト「R360」に由来する高性能S20型DOHCエンジンを搭載した最強のモデルである。
TEXT:竹村 純(Jun TAKEMURA)

フェアレディZの源流は、フェアレディSP&SR

戦後の1950年代、日産は海外市場に進出するため、欧州製の小型スポーツに対抗できるスポーツカーの開発を進めた。出来上がったのが、1962年にデビューしたオープンカー「ダットサン・フェアレディ1500(SP310型)」だった。

フェアレディ1500は、1963年の第1回日本GP“スポーツカー1300cc~2500ccクラス”で優勝するなど活躍したが、主要ターゲットの米国市場からはさらなる高出力を要求された。その要望に応え、排気量を1.6Lに拡大し、2連装キャブレターを装着するなどチューンナップしたのが、1965年デビューの「ダットサン・フェアレディ1600(SP311型)」である。

ダットサン・フェアレディ2000(SR311)
1967年にデビューしたフェアレディシリーズの最高峰「ダットサン・フェアレディ2000(SR311)」

さらに1967年には、フェアレディシリーズの最高峰「ダットサン・フェアレディ2000(SR311型)」を投入。フェアレディ2000は、2.0L直4 SOHCエンジンにすることで、最高出力145ps/最大トルク18.0gmへパワーアップ。最高速度は205km/hまで向上し、1967年と1968年の日本GP“GTクラス”で圧巻の2連覇を成し遂げた。

マニアのためのスポーツカーから脱皮した初代フェアレディZ(S30型)

オープンスポーツ、フェアレディシリーズの後を継いで、1969年にボディをクローズドクーペに一新したフェアレディZが誕生。フェアレディZは、マニアのためのスポーツカーではなく、誰でもが運転を楽しむことができるGTカー的な要素を取り入れたスポーツカーだった。

フェアレディZ-L
フェアレディZの上級グレード「フェアレディZ-L」

米国をメインとした海外市場をターゲットに、スポーツカーらしいロングノーズ&ショートデッキの美しいフォルムを採用。インテリアについても、コクピットの眼前に2つ、センターコンソールに3つのメーターを配置するという凝りようで、多くのファンを魅了した。

国内向けのグレードは、標準グレード「Z」と上級グレード「Z-L」、そしてトップグレード「Z432」の3つを設定。
ZおよびZ-Lのエンジンは、最高出力130psのSUツインキャブを装着した2.0L 直6 SOHC(L20型)、Zは4速MT、Z-Lには5速MTが組み合わされた。

車両価格は、Zが84万円、Z-Lが105万円。ちなみに当時の大卒初任給は3.4万円程度(現在は約23万円)なので、単純に現在の価値にすると標準グレードZが約570万円に相当する。
欧州のスポーツカーにも引けを取らない走りと流麗なフォルムを纏ったフェアレディZは、お買い得感を持って歓迎され、日米で大ヒットした。

名機S20エンジンを搭載したZ432はレース仕様のスーパースポーツ

フェアレディZのトップグレードZ432は、標準グレードZと上級グレードZ-Lとは異なるS20型エンジンを搭載した最強モデルで、432は“4バルブ/3キャブレター/2カム”を意味するネーミングだ。
S20型エンジンは、もともとは日産に吸収合併される前のプリンス自動車が製作したレーシングプロト「R380」に搭載されたGR8エンジンがベースで、それから派生し3代目(ハコスカ)「スカイランGT-R」用にアレンジされた名機である。3連装ウェーバー製キャブレターを装着した2.0L直6 DOHCのS20型エンジンは、最高出力160ps/7000rpm、最大トルク18.0kgm/5600rpmの驚異的な性能を発生した。

S20型エンジン
「フェアレディZ432」に搭載されたS20型(直6 DOHC)エンジン

流麗なフェアレディZのボディに、高性能S20型エンジンと5速MTを組み合わせたZ432の最高速度は210km/hに達し、0-400m加速は15.8秒を記録。車両価格は、標準グレードZの約2倍となる185万円。今なら1250万円に相当するスーパースポーツであり、1970年の鈴鹿1000kmレースで優勝を飾るなど、まさにフェアレディZが誇る最強モデルだった。

ライバルトヨタ2000GTと性能はほぼ同等

フェアレディZ432のライバルは、市販化前の数々のレースで優勝し、スピードトライアルで世界記録を連発したトヨタ2000GT。発売されたのは、フェアレディZ432の2年前1967年5月だった。
リトラクタブルヘッドライトのロングノーズとファストバックの流麗なフォルムに、インテリアにはローズウッド材のインパネやレザーのバケットシートを装備、こちらもスーパースポーツだった。
ライバルの2つのモデルを比べてみよう。

フェアレディZ432
1969年にデビューした「フェアレディZ432」

【フェアレディZ432】
3連装ウェーバーキャブ装着/2.0L 直6 DOHCエンジン搭載/価格 185万円/最高出力160ps/7000rpm/最大トルク18.0kgm/5600rpm/最高速度210km/h/0-400m加速15.8秒
【トヨタ2000GT】
3連装ソレックスキャブ装着/2.0L 直6 DOHCエンジン搭載/価格 238万円/最高出力150ps/6600rpm/最大トルク18.0kgm/5000rpm/最高速度220km/h/0-400m加速15.9秒

トヨタ2000GT
1967年にデビューした「トヨタ2000GT」

2つのスーパースポーツの性能はほぼ同等だが、車両価格には大きな差がある。2000GTの価格238万円は、当時の大卒初任給2.8万円をベースに試算すると2000万円にも達する。

走りだけでなく、豪華な装備の2000GTに対して、もともとフェアレディZが誰でも入手可能な価格設定のスポーツカーだったこと、さらに上級グレードZ-Lとの差がほとんど名機S20エンジンの差であったとされるZ432。これにより2000GTとの価格に差が出たのだろう。

フェアレディZ432が誕生した1969年は、どんな年

CB750FOUR
1969年にデビューしたナナハンブームの火付け役となったホンダ「CB750FOUR」

1969年には、フェアレディZ432の他に日産「スカイラインGT-R」、ホンダのバイク「CB750FOUR」も登場した。スカイラインGT-Rは、フェアレディZ432と同じS20型エンジンを搭載した3代目(ハコスカ)スカイラインのトップグレード、CB750FOURは750cc空冷4気筒エンジンを搭載した高性能バイクで日本にナナハンブームを巻き起こした歴史的なバイクである。

その他、この年には東名高速道路が開通し、アポロ11号が人類初の月面有人着陸に成功、日本初の原子力船「むつ」が進水した。「水戸黄門」、「8時だよ!全員集合」、アニメ「サザエさん」のTV放送開始、マンガ「ドラえもん」が連載開始、明治製菓「アポロチョコレート」が発売されたのもこの年だ。
また、ガソリン53円/L、ビール大瓶142円、コーヒー一杯88円、ラーメン92円、カレー146円、アンパン25円の時代だった。

レーシング用エンジンから派生した名機S20型エンジンを搭載したフェアレディZ432。現在も日産のフラグシップスポーツとして君臨するフェアレディZの初代の最強モデル、日本の歴史に残るクルマであることに間違いない。

フェアレディZ432の主要諸元
フェアレディZ432の主要諸元
【フェアレディZ432 車両詳細】
年式:1969年
型式:PS30型
全長×全幅×全高:4,115×1,630×1,290mm
ホイールベース:2,305mm
トレッド(前/後):1,355/1,345mm
車両重量:1,040kg
エンジン:S20型(直6 4バルブ DOHC)
排気量:1989cc
最高出力:118kW(160ps)/7000rpm
最大トルク:177N・m(18.0kgf・m)/5,600rpm
サスペンション(前/後):ストラット/ストラット(独立) 
ブレーキ(前/後):ディスク/ドラム(アルミフィン付)
タイヤ:6.95-H14-4PR
その他:1969年10月発表、11月発売/1978年6月生産終了

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著者プロフィール

竹村 純 近影

竹村 純

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までを…