アメリカのテキサス人、キャロル・シェルビーが作り出したアングロ・アメリカンスポーツカー、シェルビー・コブラが大好きです。1962年、イギリスのACカーズが生産していたスポーツカー、ACエースへフォードからのエンジン供給を実現。小さな車体にV8の大馬力エンジンを押し込んだシェルビー・コブラを作り上げ、フェラーリに立ち向かったのです。映画『フォード VS フェラーリ』の冒頭でのコブラのレースシーンは素敵でしたね。
ボクのコブラとの出会いは、中学生の頃の雑誌で見た黒い427コブラの小さな写真カットでした。さっそく画用紙に水彩絵の具で描いたコブラは、僕の描いた水彩のスポーツカーの最初の作品でした。まだ透明水彩の描き方は知らず、単純に黒に白を混ぜて明るいところを描いてガシガシと色を塗ったこの作品を皮切りに、好きなクルマをどんどん画用紙に描いていき、いつしか絵の具に水を混ぜて明るいところを仕上げる透明水彩へと技法は変わっていきました。
こうして習作を描き続け、ある程度描けるようになった頃、自動車雑誌への投稿を思いつきます。当時の自動車雑誌にはイラストの読者投稿欄があり、中でもプロのイラストレーターが毎回寸評を入れてくれるレベルの高いところを選んで投稿を始めました。1983年、15歳の時、創刊されたばかりの雑誌『オートクラブ』のイラストコーナーで初掲載されたのは、ペンと薄墨で仕上げた正面から見たコブラ427でした。それを評してくれたのは今でも親交があるイラストレーターの佐原輝夫さんでした。このコブラの絵をとても評価してくれたのが嬉しかったです。僕のイラスト初掲載はこのコブラといってもいいかもしれません。
当時愛読していた雑誌で、東京・恵比寿にあった『Mr.クラフト』という伝説の模型店の広告ページに「コブラのプラモデルの入荷」というお知らせを見つけ、同店を初めて訪れたのは中学生の頃でした。『Mr.クラフト』はまだ2階までが店舗で、2階はスロットレーシングカーコーナーだった時代です。お店は輸入プラモデルがメインでガラスケースには完成品も並び、ワクワクしながらアメリカ製、amtの1/25プラモデルキットのコブラ289を手に取りました。当時出たMPCの1/16コブラ427もすぐ買うことになります。
amtのコブラは、実車が現役時代の60年代なかばに初版が作られた金型で、80年頃に久しぶりに再販されたものでした。野球選手の顔写真が入った箱の中のモデルは緑の成型色で、エンジンやシャシーから組み上げていくかなりこだわった作りでした。エンジンは水色のスプレーを吹き、ボディはナス紺のやや紫系の濃いブルーに塗りました。メッキのホイールと太いタイヤは車高を下げて、タイヤがボディからはみ出さないように工夫しました。白いゼッケンサークルは数字なしのものを選び、ややレーシーなお気に入りのプラモデル完成品が出来上がったのを今でも覚えています。
それからこのamtのキットは10数台以上製作していますが、今でも手持ちには未組み立ての60年代の貴重な初版が2つあり、さらに、あの野球選手=レジ―・ジャクソンの顔が入った緑のコブラのキットも久しぶりに手に入れました。その他にも数台のレジンキットや427コブラのキットも手元にあるので、またこれからも、コブラをどんどん形にしていくつもりです。
もちろんコブラの絵もいつも描いてしまいます。2003年から始めた『ペーターズギャラリー』での個展では、仕事以外の「作品」として描きためた水彩画を発表しています。今年の個展でもこの1~2年で描きためた数台のコブラを含めた作品たちを発表します。今回このページに掲載させていただいているのは、2020年に描いたコブラ289USRRCレーサーです。
このガーズマンブルーという深いメタリックカラーのセンターに走る、2本の白いル=マン・ストライプはコブラの象徴ですね。大好きなケン・マイルズらがドライブしたUSRRCレーサーは最も好きなコブラで、太いタイヤや高めの車高、ライトの網のカバーなど、そのディテールがたまりません。他にもボクはいつも個展では、デイトナコブラや289レーサーなど、コブラへの想いを込めた作品を、模型のコブラたちとともにご披露させていただいています。
(初出:『今も昔もコブラに夢中!』 2021年10月16日/編集部にて一部改稿)