最終回となる今回は基本に立ち返り、ボクの本職である水彩画の制作過程についてお話しましょう。
このクルマは、皆様ご存知のランボルギーニ ミウラ。ジウジアーロの原案を、同い年の若き日のガンディー二が仕上げた、伝説のスーパーカーです。しかも貴重な初期型のスリークなP400。あるイベントで知り合った上品なオーナー様から、水彩画制作をオーダーいただいたものです。
まずはお送りいただいた写真をもとに、鉛筆でスケッチをしていきます。全体のバランスを考えて、流れるようなラインを意識しながら描いて行きます。今回の紙の大きさは51×36センチという大きめサイズで、フランス製アルシュ高級水彩紙を用います。この紙は絵の具の吸い込みが違うのです。
そして一度、この鉛筆スケッチの段階でオーナー様にお見せして、OK いただいてから下書きを仕上げていきます。いつものA3スキャナーでは入らない大きさだったので、この状態でいったん写真に撮り、全体の形を何度も確認します。さらに一晩おいて頭の中をリセットしてから形を見直しています。
翌朝から色つけ。透明水彩なので白はつかいません。薄い部分から水で溶いた薄い色を重ねていきます。ボクは背景から描き進めることが多いです。まずは幅3センチくらいの柔らかい刷毛(ハケ)で、薄いトーンを入れて行きます。
さらに素敵なガレージの様子を描き込みます。ここは床の反射が見せ場になります。この状態で空間が出るように気を付けて描いていきます。
そして背景の仕上げ。色の濃いところは一発で仕上げ、何度も絵の具をいじらないように注意します。そこにクルマを置く空間の光が見えるように。クルマ本体はまだ白いままです。
いよいよクルマ本体に取り掛かります。今回は窓から仕上げて行きます。透明な部分はこの絵の見せ場になります。艶感と立体感、透明感などを水彩で一度に表現していきます。
そしてミウラの見せ場である、ガンディーニによる複雑なデザインを持つホイールに取り掛かります。タイヤの厚みなどの量感や質感にも気を付けて、足まわりを仕上げていきます。
最後にミウラの美しいボディをカラーで一気に仕上げます。丸みや鉄板、アルミの前後カウルのヒヤッとした触感、ラッカーの塗膜の厚みなどを表現したいところです。これで一気に絵が完成していくので、自分でもいつもワクワクしていく工程です。ミウラの低くて雄大な広がりを持つスタイリングを、写真から少しデフォルメして表現してみました。そして別注していた額に額装して絵の完成です。オーナー様からはとても喜んでいただけました。ありがとうございました。
水彩画は現在のボクのペースだと、朝から描き始めれば夕方には完成するという感じでしょうか。
それでは読者の皆様、本当にありがとうございました。またお会いしましょう。
(初出:『ミゾロギ流・水彩クルマ絵とは?』 2022年4月2日 編集部により一部改稿)
まだまだ『溝呂木 陽の水彩カースケッチ帳』は続きますが、気になる方は下のリンクからぜひ追ってみてください。溝呂木さんの水彩画や取材写真を交えた楽しいクルマのお話がまだまだ読めます。