名門MG 21年ぶりの2ドアオープンスポーツカー、MGサイバースター登場!

MG Cyberster
ブリティッシュスポーツの名門、「MG」といえば、かつてのMGAやMGB、ミッドシップのMGFなどコンパクトなスポーツカーで人気を博してきた。そのMGブランドは、現在は中国メーカーの元にある。そのMGの最新作、MGサイバースターに試乗した。
TEXT & PHOTO:加藤ヒロト(KATO Hiroto)

MG、21年ぶりの2ドアオープンスポーツ

全長×全幅×全高:4535mm×1913mm×1329mm ホイールベース:2690mm

イギリスの名門自動車ブランド「MG」は軽量2ドアスポーツカーでその地位を築いたと言っても過言ではない。1924年、オックスフォードにあったウィリアム・モーリスの「モーリス・ガレージズ(MG)」は初の量産スポーツカー「14/28」を完成させた。その後、「14/40」「18/80」「TAミジェット」などの名車を戦間期に送り出し、名声を得てゆく。第二次世界大戦が終わると、当時イギリスに駐留していたアメリカ軍兵士を中心にMGの美しきマシンたちは人気となっていく。アメリカへの輸出も徐々に拡大させ、1955年には戦後初の新規設計2ドア「MGA」をリリース、7年間で10万台以上を生産したベストセラーとなった。

北京モーターショーのMGブース。MG100年がアピールされていた。
同じく北京モーターショーにて。「London>>>Beijing」と書かれている。

その後、MGAからバトンを渡された「MGB」や、MGB生産終了から15年後に登場した「MG F」など、MG 2ドアスポーツの系譜は時を超えて受け継がれていった。しかし、2005年に当時の親会社「MGローバー」が倒産、歴史あるMGブランドは中国の「南京汽車」の手に渡ることになる。

片割れのローバーは上海汽車が買収するものの、買収に成功したのは「ローバー75」の生産設備のみで、商標は手に入れられなかった。そのため、上海汽車は新たに「ロエウェ(荣威=Roewe)」ブランドを設立して旧ローバー車種の生産をまずは継続させた。一方でMGは南京汽車傘下で「MG TF」の生産継続に加え、新規車種も投入していった。2007年には上海汽車が南京汽車を買収、現在に至るまでMGは上海汽車のブランドとして展開されている。

MGはその後も中国市場を中心にコンパクトハッチバックやSUVなどの実用的な車種を取り揃えていった一方、スポーツカーにおいてはMG TFの生産を2011年に終了、ラインアップから姿を消してしまった。それから12年後の2023年、MGは「ゲーミングスタイル」をコンセプトに持つ純電動スポーツカー「サイバースター(Cyberster)」の発売を実現した。

3グレードで700万円弱からの設定

中国での車両価格はGlamour Edition(シングルモーター):319800RMB Style Edition(シングルモーター):339800RMB Pioneer Edition(デュアルモーター):359800RMB

21年ぶりとなる新たなMGの2ドアスポーツカーは全長4533 mm x 全幅1912 mm x 全高1328 mm、ホイールベースは2689 mmと、非常にボリューミーなボディを持つ。また、バッテリーを搭載していることもあってか車両重量は2トンを超え、2075~2210 kgとなる。

グレードはモーターやバッテリーの違いで大きく分けて3種類用意される。駆動方式は後輪駆動のシングルモーターと四輪駆動のツインモーターとなるが、前者は制御によって出力が310 hpと335 hpに分けられている。ツインモーターのグレードは前201 hp・後335 hpの構成で合計出力536 hp、最大トルク725 Nm、0-100 km/h加速は3.2秒をたたき出す。駆動用バッテリーはグレード共通で「CATL(寧徳時代)」の三元系リチウムイオン電池を採用、容量64 kWhと77 kWhが用意される。77 kWhバッテリーを搭載する四輪駆動の最上級グレードでは一回の充電で520 km(CLTC方式)を走行可能と案内している。

CLTC航続距離:Glamour Edition(シングルモーター)501km/Style Edition(シングルモーター)580km/Pioneer Edition(デュアルモーター)520km

全体的なフォルムの比率はMG F以降のミッドシップレイアウトのような雰囲気を醸し出しており、BEVらしくノーズが極端に短くもなく、典型的なスーパーカーのように過度に長くもない。一方で「スポーツカー」らしさを演出することに躍起になりすぎて、ボディには流線的なラインが多すぎる印象も受ける。赤ラインが入ったフロントリップやサイドステップ、リヤのディフューザーはオプションではなく標準装備なのだが、これに関しては装着されていない状態を標準とし、あとから装着するか否かを選択できるようにした方が良かったのではないかと感じた。純粋な走りを楽しむためのシンプルなスタイルも合わせて用意することで、より紳士らしいブリティッシュスポーツに近づけるだろう。

室内はいい意味でタイト

ドアは電動シザードアを採用しており、乗り込む際はドア上部、降りる際はドア内側かキャビン中心にあるボタンを押して操作する。ドア自体が結構な大きさであるのも相まって、跳ね上がる様子はなかなか迫力のある光景である。

全幅はほぼ2メートルの車体だが、実際に座り込むとそのコックピットは良い意味で狭く作られている。運転席と助手席の間はセンタートンネルで区切られており、またダッシュボードのレイアウト、インフォテインメントやエアコンの操作ボタンもすべて運転席の方向に配置されている。

ハンドル奥の10.25インチディスプレイがメーターとしての役割を果たす。

ハンドル奥の10.25インチディスプレイがメーターとしての役割を果たし、その左右にも一枚ずつ角度をつけてディスプレイが配置されている。左側のディスプレイでは運転に必要なテレメトリーや詳細設定、右側ではナビゲーションや再生中のメディア情報、その他アプリなどを起動できる。ダッシュボードのデッキ部分にはエアコン操作用の物理ボタンがあるほか、その真下にも縦長のディスプレイが設置されている。こちらのディスプレイでもエアコンや充電設定が操作可能で、設置位置的にもより自然な手の動きで動かせると感じた。電動ルーフと電動ドアの操作ボタンもその周辺にまとめられている。

走り出すと、モーターの制御は意外とマイルドであることに気がついた。スポーツモードにすると爆発的な加速を得られるが、低いアイポイントとキャビンの密集感も相まってか、酔うような感じではない。最近、続々とリリースされる中国ブランドのBEVはこの辺りの設計がどこも下手なため、純粋に気持ちの良いこの感覚には驚かされた。

コーナーで曲がる際にちょっとアクセルを煽っても、非常に安定している。さらには直進路で踏み込んでみると、その伸びやかな加速がクセになるのだ。一方でボディは2トン超、ところどころの挙動で重さを感じる瞬間もあった。パワーは十分な一方、どうしてもボディの重さをモーターの力で押し殺している印象だ。これに加え、脚周りはスポーツ性よりも快適性を重視しており、スポーツカーらしい硬さではない。路面の凹凸は気にならないが、スプリングのレートが柔らかいのか一度衝撃を吸収するとすぐには揺れがおさまらない感覚もある。

電池容量:77kWh(ユーザブルエナジー74.4kWh)
急速充電は144kW(英国仕様)

サイバースターは中国で31.98万元(邦貨換算:約684.5万円)から36.58万元(約782.8万円)で販売されている。とても運転が楽しいのは事実なのだが、中国の消費者からの反応はイマイチで、2024年3月の販売台数は109台にとどまった。対して、MGの母国・イギリスでは2024年4月下旬より販売を開始、価格は5万4995ポンド(邦貨換算:約1083.2万円)からだ。かなり強気な値段設定に思えるが市場では純電動の2ドアオープンがまだまだ少ないこともあり、注目度は高いだろう。

キーワードで検索する

著者プロフィール

加藤 ヒロト 近影

加藤 ヒロト

中国車研究家