「併用軌道」って何?地元住民以外は案外知らない路面電車の走る道路での交通ルール

「併用軌道」とは、いわゆる路面電車の線路のことだ。路面電車は一部の地域でしか運行されていないため多くの人にとっては馴染みが薄く、地元の地域の人しか知らないような交通ルールもある。観光などで訪れる際に備えて路面電車がある道路の走り方を知っておこう。

「併用軌道」とは路面電車の線路のこと

併用軌道とは路面電車の線路を指す。路面電車が走らない地域に住む人にとっては物珍しい存在であるため、旅行先でのクルマの運転時に戸惑うことも多いようだ。

「軌道」とは線路を指す。クルマやバイクなどと通行をともにする路面電車の線路には「併用軌道」という名称が与えられている。対して道路外に敷設された線路は「専用軌道」だ。

路面電車は、広島や長崎など全国17都市19路線が運行されており、生活や観光の足に加えて都市のシンボルにもなっている。しかし、その地域に住む人にとってはありふれたものでも、路面電車が走らないその他の多くの地域に住む人にとっては縁遠い存在だ。

事実、観光などで訪れた人からは路面電車と並走するのは怖いとの声も聞かれる。巨大な路面電車の圧迫感や、異なる周囲の雰囲気に戸惑うのは仕方がないといえよう。

自動車教習所でも路面電車については触れられるが、基本的なルールのみを学科で教わる程度で具体的な指導を受けることは少ない。そのため守るべき交通ルールが曖昧な人も多いはずだ。

路面電車がある道路での特別な交通ルール

併用軌道が敷設された道路を走行する際、とくに注意したいのは「信号」「標識」「停留所」に関するルールだ。それぞれについて具体的に解説していこう。

路面電車専用の信号表示がある|黄色の矢印信号と赤いバツ印

ややオレンジ色にも見える黄色の矢印が路面電車専用の信号だ。「電車用」と表示される信号機がある一方で、表示がない場所も存在する。

クルマと同じく、路面電車も道路に設置された信号機に従って通行する。路面電車専用の信号機が設置されている場合もあるが、原則として従う信号機も信号のルールもクルマと共通だ。

しかし、細かな違いもある。覚えておきたいのは路面電車専用となる「黄色の矢印」と「赤いバツ印」の信号表示の存在だ。

クルマは青色の矢印信号に従って通行するが、路面電車が従うのは黄色の矢印信号だ。もし、黄色の矢印信号のみが右を指していたとすれば、クルマは右折をしてはいけない。矢印が黄色であることに気づかず、青の矢印だと思って右折すれば当然クルマは信号無視になってしまう。

赤いバツ印の信号は路面電車専用。信号をはじめて見るドライバーは「電車専用」と表示されていたとしても進行をためらってしまうことだろう。

また、赤いバツ印の信号表示は「路面電車のみ停止」を意味しており、クルマは従う必要がない。それを知らないドライバーが、勘違いして停止し渋滞が発生するケースも実際に起きているようだ。

そのほか広島では、2両あるいは2両編成の路面電車が通過することを警告する「白色の信号」が備わっている場所もある。これら路面電車専用の信号の意味を知らないと混乱してしまう。

軌道敷内は原則侵入禁止!|ただし一定条件下でなら通行可

レールの上にクルマが乗った絵柄の標識が「軌道敷内通行可」だ。ただし、標識がある場所でも軌道敷内は路面電車が優先となる。

原則として、併用軌道内は侵入禁止となっている。しかし、以下の場合には併用軌道内への侵入が認められる。

  • 「軌道敷内通行可」の標識がある場合
  • 右折やUターンなど線路を横断する場合
  • 駐車車両等の追い越す場合
  • 道路工事や危険防止のためにやむを得ない場合

併用軌道に侵入する際には徐行も一時停止も不要だ。ただし線路上は駐停車禁止となる。また線路上は路面電車が優先となるため、後ろから路面電車が接近してきた場合は進路を譲る必要があることは覚えておこう。

徐行?それとも停止?|安全地帯標識の有無と停留所の周辺のルール

路面電車の停留所周辺の通行は条件とルールが多岐にわたるため非常にややこしい。しかも実際には守られていない現実がある。

併用軌道がある道路を通行する際は、路面電車だけでなく停留所で乗り降りする乗客にも細心の注意を払わなければならない。

しかも路面電車の停留所は、道路の真ん中に設置されている場所が多いうえ、周辺を通過する際の細かなルールも設けられている。

停留所をみつけたら、まずは「安全地帯」となっているか確認しよう。安全地帯であれば青地に白で「V」のような指示標識が設置されているはずだ。

停留所周辺を通過する際は、安全地帯かどうかに加えて路面電車/乗降客の有無でも以下のようにルールが変わる。

停留所が安全地帯の場合

  • 停留所内に乗降客がいる場合でも徐行すれば通行できる
  • 乗降客がいない場合は徐行の必要がない
  • 安全地帯の左側と前後10m以内は駐停車禁止

停留所が安全地帯ではない場合

  • 路面電車も乗降客もいない場合はそのまま通行可
  • 乗降中の客がいる場合は、人がいなくなるまで路面電車の後方で停止して待たなければならない
  • 路面電車が停車中、かつ乗降客がいない場合は徐行して通行できるが、路面電車と1.5m以上の間隔を確保できなければ通行はできない

「怖い」「難しい」と感じるなら無理せず併用軌道を迂回しよう

交差点のような急カーブを曲がる路面電車の側面と前後のオーバーハング部は、線路上からはみ出す量がどうしても多くなる。

以上で述べた「信号」「標識」「停留所」それぞれのルールは、あくまで道路交通法に基づく最低限のルールだ。実際に併用軌道がある道路を走行する際は、さらに多くのことに注意を払わなければならない。

後方から接近する路面電車に注意

併用軌道に侵入する際は後方からの接近する路面電車に注意しよう。実際に右折やUターンしようとしたクルマと、後方から来た路面電車が接触する事故が起きている。路面電車の走行速度は遅いとはいえクルマのような急減速はできないことも覚えておきたい。

路面電車への近づきすぎに注意

長い路面電車が交差点やカーブを通過する際は、思いのほか車体が線路外へはみ出す。路面電車と並走していると車体側面などと接触する危険があるため、常に余裕を持った間隔を確保しておこう。

乗降客の動きにも注意

クルマと路面電車利用者との接触事故も起きている。路面電車に乗り遅れそうな人が、歩道から横断歩道を通らず飛び出して来ることもあるため、停留所側だけでなく歩道側にも注意を払うことが大切だ。

停留所周辺は人の往来が活発なうえ、ときには予期しない行動をすることも。路面電車だけでなく乗降客の動きにも注意したい。

併用軌道はクルマと路面電車が混在して走行するため特有の危険がある。路面電車がある環境に慣れ親しんだ地元民ならともかく、はじめて観光で訪れた人が現地での運転に対して「怖い」「難しい」と感じるのは自然なことだ。

運転に自信がなければ、迂回してでも極力併用軌道内に立ち入らないようにするとよいだろう。あらかじめカーナビなどで地図を確認し、路面電車が走るルートを避けるのも手だ。

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