日本導入は35台!? シトロエンDS3レーシングはラリー映画『OVER DRIVE』の劇用車をWRCワークスカラーにレプリカ!!

2023年10月に富士スピードウェイで開催された「ラリーファンミーティング2023」には、全国から多くのラリーファンが集結。会場内にはラリーファンらしく、ラリーカーのベースとなったクルマばかり。中には実際に競技に参加している車両やWRCレプリカにドレスアップしている車両もあり、来場者の車を見ているだけでも楽しい。今回は2012年のレッドブルカラーに仕上げられたWRC仕様のシトロエンDS3レーシングをピックアップ。オーナーに話を聞いてみると、この車両、単なるレプリカではないことが判明。ある意味「本物」だった。
REPORT:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi) PHOTO:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi)/CITROEN/CITROEN RACING

新たなラリー好きの祭典『ラリーファンミーティング2023』初開催! 新井敏弘選手もその走りを披露! ミーティングエリアにはレプリカマシンが大集結!

2023年10月8日(日)、富士スピードウェイで『ラリーファンミーティング2023』が開催された。ミーティングイベントあり、“世界のToshi Arai”ことラリードライバー・新井敏弘選手のゲスト出演あり、プロドライバーのドライブによる同乗走行あり、ラリーと関係の深いパーツメーカーのブースありと、ラリー尽くしの内容で、来場したラリーファンも大満足! 今回が初開催ではあったが、早くも次回開催も期待されるイベントとなった。 PHOTO:橘 祐一(TACHIBANA Yuichi)/MotorFan.jp

ちょっとだけ振り返るシトロエンのラリーヒストリー

シトロエンがラリーフィールドに初登場したのは1956年のモンテカルロ。前年のパリ・モーターショーで発表されたばかりのID19(DS19の装備を簡略化したモデル)がプライベーターにより参戦。ピエール・クルトのドライブするID19は総合7位を獲得。1300〜2000ccクラスでは優勝を果たし、出場した6台全てが完走という結果を残している。

シトロエンID19

1959年にはモンテカルロとアドリアティコでポール・コルテローニが総合優勝を果たし、この年のドライバーズタイトルとマニファクチャラーズタイトルを獲得。その後も上位入賞を続け、1966年にはマイナーチェンジされたDS21をドライブしたパウリ・トイボネンが優勝している。

シトロエンDS21

DSシリーズは生産が終了する1970年代の中盤まで参戦していた。その後もCXやGSが活躍。1986年には当時のグループBに参戦するため、FFのBXをベースにプジョー504用エンジンを縦置きで搭載して4WDへと改造したBX 4TCを投入するものの成績は振るわなかった。

シトロエンBX4TC

1989年にはレーシング部門のシトロエン・スポールが誕生。AXやZXでレース活動を開始する。1991年には同じPSAグループのプジョーがラリー競技から撤退したのを受け、それを受け継ぐ形でZXが参戦。同年のパリ・ダカールラリーではアリ・バタネンのドライブにより総合優勝を獲得している。パリ・ダカールラリーでは1994、1995、1996年に3年連続で優勝している(1995、1996年はグラナダ・ダカール・ラリー)。

シトロエンZXラリー

1998年にはクサラでWRCに参戦。1999年のカタルーニャとツール・ド・コルスで初の総合優勝を獲得した。2007年からはC4にスイッチ。セバスチャン・ローブはデビューから4年連続でドライバース・タイトルと獲得している。

シトロエン・クサラWRC
シトロエン・C4 WRC

2011年にWRCの車両レギュレーションが変更されるのに合わせ、ベース車両がDS3へと変更された。新規則に合わせてエンジンは1.6Lターボ、トランスミッションはマニュアルのシーケンシャル・フロアシフト、センターデフが廃止となっている。2011年はメキシコ、ポルトガル、ヨルダン、イタリア、アルゼンチン、アクロポリス、フィンランド、ドイツ、フランス、カタルーニャ、ウェールズで総合優勝。セバスチャン・ローブ&ダニエル・エレナ組はドライバーズ、コドライバーズ、マニファクチャラーズのタイトルを全て制覇し、翌年も同様に全制覇した。2017年からはC3に車両を変更するが、2019年をもってWRCからワークスチームは撤退している。

シトロエンDS3 WRC
シトロエンC3 WRC

ワークスの撤退後、シトロエンC3は下位カテゴリーのR5規定車両とそれに続くラリー2規定車両をカスタマーチーム向けに販売。好成績を挙げている。

シトロエンC3ラリー2(2024年仕様)

映画『OVER DRIVE』の劇用車!?

DS3スポーツシックの1.6L直噴ターボエンジンをベースに、最高出力156ps、最大トルク24.5kgmから、最大出力207ps、最大トルク28.0kgmにパワーアップしたDS3レーシング。

話をラリーファンミーティングに戻そう。会場で見つけた特徴的なレッドブルカラーのWRC仕様にドレスアップされていたDS3は、2011年に世界限定1000台で発売され、その後2000台が追加になったものの、日本市場にはわずか35台しか割り当てられなかった貴重なモデルであるDS3レーシングがベース。

シトロエンDS3レーシング
フロントバンパーはWRCマシンを参考に、開口部が大きくワイドな形状となっている。グリル内がメッシュで、シトロエン・レーシングのロゴが入る。

WRCマシンのように大型のフロントバンパーと前後のブリスターフェンダーが装着され、リヤにはカーボン製のウイングが装備されている。

ただでさえワイドになっているDS3レーシングのボディに、ワンオフのオーバーフェンダーが装着され、さらにワイドになっている。
カーボン製のリヤウイングはサイズもインパクトも大きい。ガッチリダウンフォースを産むので燃費に影響が。製作費は軽自動車1台分くらいかかっているとか。
ワイドなブリスターフェンダーを装着したため、給油口はリヤフェンダーの前側に移設されている。バイク用のようなフィラーはちょっと給油しにくいのが難点。

これらのボディパーツは全てワンオフで製作された世界で1台の貴重な車両なのだが、ラリーやレースに参戦するために作られたものではなく、2018年に公開された映画「OVER DRIVE」の劇用車として製作されたもの。

OVER DRIVE
東出昌大と新田真剣佑が公道自動車レース「ラリー」に生きる兄弟を演じるヒューマンエンタテインメント。『海猿』『暗殺教室』の羽住英一郎が監督を務めた。DVD、Blue-ray、配信にて視聴可能。
劇場公開:2018年6月1日
配給:東宝
(C)2018「OVER DRIVE」製作委員会
『OVER DRIVE』予告編

これはある意味ラリーカーより珍しいかもしれない。トヨタ・ヤリスに乗る主役の東出昌大のライバルとして登場する、北村匠海がドライブしていた車両そのもの。映画では黒×白のカラーリングが施されていたが、オーナーが購入後に2012年のレッドブル・ウェールズラリー・グレートブリテン仕様にレプリカ化されている。

ワークスのレッドブルカラーはシトロエンの絶対王者、セバスチャン・ローブ/ダニエル・エレナ組のカーナンバー1。

オーナーの井出原さんは、当時乗っていたプジョー308GTをラリーレプリカにカスタムしようととあるショップを尋ねたところ、ガレージの隅にこのシトロエンDS3を発見。当初は非売品として展示されていたが、ショップのオーナーを説得して譲り受けることができた。

ホイールはENKEIのパフォーマンスラインPF07の18インチを装着。WRCマシンはOZを装着するが、シンプルな7本スポークもよく似合っている。

購入後にはロングドライブに出かけることが多く、購入時に6万kmだったDS3はもう12万kmを超えている。映画のロケ地巡りやラリーイベントにも積極的に参加している。一度ピストンリングが割れるというトラブルに見舞われたものの、現在は絶好調。リヤスポイラーが重すぎて燃費が悪いのが悩みだとか。

オーナーの井出原さんは、この車両を大切にしてくれる方がいれば引き継いでもらいたいと考えている。興味があれば本人のフェイスブック(本名の井出原崇で開設している)から連絡を。
車内にはシトロエンDS3 WRCウェールズラリー・グレートブリテンRedBullのカーナンバー1(セバスチャン・ローブ/ダニエル・エレナ)のミニカーも。

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著者プロフィール

橘祐一 近影

橘祐一

神奈川県川崎市出身。雑誌編集者からフリーランスカメラマンを経て、現在はライター業がメイン。360ccの軽…