護衛艦「はたかぜ」型の起工は1983年(昭和58年)、進水は翌84年(昭和59年)、竣工は86年(昭和61年)。2番艦として「しまかぜ」が造られ、同型として2隻がある。約35年間を護衛艦として活動したが、新鋭イージス艦「まや」型の就役にもとない2020年に「はたかぜ」が、2021年に「しまかぜ」が練習艦へ種別変更されている。
護衛艦籍からは退いたが、次代を担う海上自衛官を育成する教育の現場へ投入された。じつのところ海上自衛隊「最大の敵」は少子高齢化による人材不足ではないか。脅威は海の向こうにもあるが、我が国の内側・人口減少社会にもある。喫緊の課題である人材難に対して、古くはなったが現代的なミサイル護衛艦の基礎を固めた搭載装備群でもって海防のプロを育てる第二の仕事を行なう。練習艦「はたかぜ」「しまかぜ」がこれから果たす役割は大きい。
まず護衛艦「はたかぜ」型が登場した時代背景から。本艦は第三世代ミサイル護衛艦(DDG)として1980年代(昭和50年代半ば)に計画された。当時は冷戦時代で、各種ミサイルの飛躍的な発達がみられた頃。護衛艦にも攻守双方での各種ミサイルの搭載と運用が具体化していった。米国ではイージス・システム搭載艦が現れており、日本でもその導入見込みが現実味を増してゆく。「はたかぜ」はそんな時代にあった。
「はたかぜ」は当初4隻の建造計画だったが、イージス艦「こんごう」型の建造が決まり、2隻だけにとどまった。ちなみに「DDG」は「Guided Missile Destroyer」の略語であり、艦隊防空用の艦対空の誘導ミサイルを搭載した艦を示す。海自の艦種記号のひとつでもある。「Destroyer」は世界的には駆逐艦を指すが、海自は「護衛艦」と称する。
次に「はたかぜ」のメカ概要。本艦は海自DDG初のガスタービンを主機関とした艦だ。複数積んでおり、巡航時と高速時とで使い分ける。外観では、長い艦首部分が外形上の特徴。そして船体中央部に構造物が密集し、その中央部には太く短い煙突を1基据え付け、後部マストには無骨な対空レーダーを取り付けるなど、全体の姿は旧来のいわゆる「軍艦」らしいスタイルを持つのが特徴だ。5インチ砲が前後に置かれているのも現在の護衛艦には見られない姿となっている。
対空ミサイルランチャー(発射機)を前甲板に配置し、射撃指揮装置を2基、艦橋上に置いた。発射機は艦首最前方にあるため波をカブりやすい。発射機への飛沫防止や凌波性(波浪中を航走できる性能)の確保、甲板でのミサイル搭載作業などのため、護衛艦では本型のみのブルワークを艦首部に設けた。ブルワークとは、船舶では「舷墻」(げんしょう)と呼ばれ、上甲板の外舷に沿って立ち上げた波の侵入を防ぐ囲いのことを指すそうだ。
対空ミサイルは「スタンダードSM-1(MR)」を使用。対空防御には高性能20mm機関砲CIWSを後部に2基、5インチ単装速射砲を前述したように前方と後方に配している。水上打撃力には対艦ミサイル(SSM)「ハープーン」を装備。全体に強火力の装備群で構成されている。
海自DDGとして初めて後甲板をヘリコプターの発着甲板とした設計も光る。格納庫はないが、発着甲板を設けているのは便利だ。たとえば対潜戦を主眼としたとき特に有効で、立体的な作戦能力を発揮する。救難も然りだ。