「こんなのシビックじゃない!」が最高の褒め言葉? 進化したe:HEVに大衆車のレベルアップを実感

ホンダの大衆車として長きにわたり愛されつづけているシビックがマイナーチェンジを実施した。目立っているのは6速MT専用グレードである「RS」の追加設定だが、どっこいハイブリッドも確実に進化しているという。雨中の渋滞している首都高で、その実力を確認することにした。

PHOTO&REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

「LX」と「EX」パワートレインはそのままに2グレードに変更

2.0Lエンジンと2モーターを組み合わせた「e:HEV」パワートレインは従来のまま。

11代目シビックがマイナーチェンジを実施。クルマ好きの間では、6速MT専用の新グレード「RS」が話題だが、先進運転支援システムや装備類も進化している。そこで、ハイブリッドに新設された最上級グレード「e:HEV EX」に試乗、主にホンダセンシングなど運転支援機能の進化具合を確認してみようと思う。

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2024年1月の東京オートサロンにて、プロトタイプが展示されたときから注目を集めていた「シビックRS」が市販開始…というわけで、公道試乗をする機会を得た。標準車との装備差や、新たにロードスポーツを意味するRSへと進化した背景、そして実現した乗り味についてお伝えしよう。 PHOTO&REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

まずは、マイナーチェンジによってシビックのハイブリッド系グレードがどのように変わったのか、ホンダの発表から引用しよう。

・従来モノグレードだったe:HEVモデルを、e:HEV LXとe:HEV EXの2グレード設定に変更
・インテリアには、ハイブリッドの静かで滑らかな走りを想起させる、より明るく軽快な印象のグレー内装を追加
・18インチのアルミホイールには、シャークグレーメタリック、マット切削の新規デザインを採用
・e:HEV EXに、電動パノラミックサンルーフを標準装備(電動チルトアップ機能付き)

もちろん、フロントマスクもマイナーチェンジでシャープな顔つきに変わったことで、「爽快シビックevo.」というコンセプトをカタチで表しているのはハイブリッドにも共通の進化ポイント。ただし、エンジンフードの下に収まるパワートレインについては基本的には変更なしと公式発表されている。

シビック(市民)という名前であれば、インフレ時代の庶民感情に寄り添って、カタログスペックで24.2km/Lという燃費性能を改善してほしいと思うが、エントリーグレードでも399万8500円というシビックe:HEVであれば、このくらいの経済性でオーナーは満足するということなのだろうか…。

もっとも静粛性については、相変わらずハイレベルで不満はない。写真からもわかるように試乗当日は、かなり大粒の雨に見舞われたが、車内で雨音が気になることはなく、ハイブリッドシステムからのノイズもほとんど感じられない。思えば、江戸時代の庶民は長屋に住んでいたが、いまは鉄筋コンクリートのマンションになっている。時代がかわれば、最低限の生活レベルも上がるわけで、大衆車であるシビックが快適度を増していくのは当然の進化といえる。

その意味では、豪華になった最新モデルに対して「こんな高級な乗り味はシビックじゃない」と、いくらオールドファンが嘆いても仕方がないことであるし、むしろ「かつてのシビックと別次元にある」という進化を示しているとすれば最大限の褒め言葉といえるのかもしれない。

エアコン吹き出し口を隠すメッシュ部分はホワイトで縁取る。非常に爽やかな印象だ。
ハイブリッドの18インチアルミホイールは新意匠となり、高級感を増している。
ドライブモードで「SPORT」を選ぶと、スピーカーから加速サウンドが流れ、気分を盛り上げる。

ホンダセンシングはブレーキングが上手になった

大粒の雨が降っているという悪条件で、ホンダセンシングの進化具合を確認した。

2024年の大衆車には先進運転支援システムも必須といえる。シビックは単眼カメラを用いた「ホンダセンシング」を標準装備しているが、そのメイン機能として期待する衝突被害軽減ブレーキについて「交差点での右折時においては、四輪・歩行者だけでなく自転車・二輪車まで検知対象を拡大」したほか、「直進時における左右からの横断があるケースでは、歩行者・自転車に加え、四輪車も検知可能」となるなど時代の要求に合わせた進化版となっている。

さらに、先行車に追従するACC(アダプティブクルーズコントロール)の制御も時代進化を遂げた。道路のアップダウンに合わせた速度制御を洗練させたという。とくに渋滞時に停止する際のブレーキングについては、自然で滑らかなフィーリングに改良されたという。そこで、雨で渋滞している首都高に乗り込み、ACCをフル活用して、進化したホンダセンシングを確認することにした。

包み隠さず、正直な印象を書けば、最初のブレーキングは満足できるものではなかった。前を走るクルマを認識できていないようなカックンブレーキで、ひと昔前のACCに戻ってしまったのか、と思うほど。しかし、心配だったのは最初だけで、それ以降は上級ドライバー顔負けのブレーキングテクニックを見せてくれた。シビックのホンダセンシングは自動運転レベル2であり、あくまで運転手の支援機能ではあるが、一流の運転手がサポートについているかのような、しっとりとしたブレーキングで、ほとんどピッチングを感じることなく渋滞を走行していくのは見事というほかない。2020年代の大衆車は運転支援についても高いレベルにあるといえる。

渋滞する首都高速で進化したホンダセンシングを確認。しっとりとしたブレーキングで、ほとんどピッチングを感じることない。同乗者はACCで走行していると気付かないほどスムーズな走行だった。

こうなると、最初のカックンブレーキの原因が気になるが、エンジニア氏に聞いてみたところ「大きな雨粒がちょうどカメラを遮ってしまったのではないか?」という仮説を立ててくれた。それでも”適切な車間距離を維持する”という機能は問題なく働いているのでブレーキフィールがカックンなくらいで不満に思う必要はないのかもしれないが、カメラだけでなくミリ波レーダーなどを併用してロバスト性を上げていけば、そうしたネガが解消できるかもしれない、というのも偽らざる感想だ。

試乗車のボディカラーは「シーベッドブルー・パール」。3万8500円高の新色だ。

Google搭載の最新デジタルコックピット

標準装備となる9インチ・ホンダコネクトナビはGoogleアシスタントやGoogleマップを採用した。

もうひとつ、市街地走行で確認したかったのは新たに採用されたGoogle搭載のコネクティッド機能。9インチのホンダコネクトナビは標準装備で、普段スマートフォンで使い慣れたGoogleマップでルート設定できるのは新鮮な感覚だ。

ホンダとしてはシームレスな操作感をセールスポイントとしているが、これまた正直にいえば「従来のカーナビに比べると少々ちぐはぐに感じる部分がある」という印象があった。自車位置の特定に車両データも使っているはずなので位置情報の精度は上がっているはずだが、音声案内やリルートのタイミングにわずかな遅れがあるような印象だった。

このあたり自動車メーカーの求める安全性(慎重さ)とスマートフォンの世界が持つ先進性(スピード感)がアジャストしきれていないのかもしれない。とはいえ、ホンダに限らずこれからの自動車メーカーはSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)へのシフトは避けられず、スマホアプリのようなスピード感も求められる。シビックに新搭載されたGoogle機能へのアジャストが、そうしたスピードアップに寄与することを期待したいとも思う。それこそ、大衆車であるシビックらしい役割といえるかもしれない。

10.2インチデジタルメーターや本革巻きステアリングホイール、BOSEプレミアムサウンドシステムは標準装備。
プライムスムースとウルトラスエードのシート。
後席もフロントと同じコンビシートとなる。

「CIVIC e:HEV EX」スペック

CIVIC e:HEV EX
全長×全幅×全高:4560mm×1800mm×1415mm
ホイールベース:2735mm
車両重量:1490kg
排気量:1993cc
エンジン:直列4気筒DOHCアトキンソンサイクル
最高出力:141PS(104kW)/6000rpm
最大トルク:182Nm/4500rpm
モーター:交流同期電動機
モーター最高出力:184PS(135kW)/5000-6000rpm
モーター最大トルク:315Nm/0-2000rpm
バッテリー:リチウムイオン電池
駆動方式:FF
WLTCモード燃費:24.2km/L
使用燃料:レギュラーガソリン
最小回転半径:5.7m
タイヤサイズ:235/40ZR18
乗車定員:5名
メーカー希望小売価格:430万7600円

LEDリアコンビネーションランプは全グレードに標準装備。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…