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陸上自衛隊による進水式
広島県と愛媛県のあいだ、芸予諸島に連なる生口島の内海造船瀬戸田工場にて、新型輸送艦の進水式・命名式は行なわれた。発表された艦名は「にほんばれ」。この艦は、陸上自衛隊の隊員を中心として、今年度末に新編される陸海共同部隊「自衛隊海上輸送群(仮称)」に配備される。そのため、式典列席者は陸上自衛隊幹部が多くを占めた。まさに「陸上自衛隊による進水式」と言えるものだった。
「にほんばれ」の命名者は名目上、防衛大臣だが、実際には陸上自衛隊によるものだろう。海上自衛隊の艦艇命名ルールとは異質の、なんとも不思議な名前だ。なお、命名理由として「任務の完遂と航海の安全と願い、太陽にちなむもの」と説明された。
なぜ、陸上自衛隊員が輸送艦を運用するのか
「自衛隊海上輸送群(仮称)」は、南西諸島の防衛のため、海を越えて部隊や物資を輸送するために新編される組織だ。現在、海上自衛隊が保有する輸送艦は「おおすみ」型3隻のみであり、自衛隊の海上輸送力は充分とは言えない(なお、民間との契約に基づいて、大型フェリー2隻も部隊輸送に活用されている)。とはいえ、現在の海上自衛隊には、新たな輸送艦部隊に人員を割ける余裕がなく、「陸上自衛隊員を中心とする輸送艦部隊」が設立されることになったのだ。
海上輸送群には3種類の輸送艦艇が導入される。
・「小型級船舶」と呼ばれる基準排水量2400トン/全長80mの輸送艦
・「中型級船舶」と呼ばれる同3500トン/120mの輸送艦
・「機動舟艇」と呼ばれる、より小型で小回りの利く輸送艇
このうち、「にほんばれ」は小型級2400トン輸送艦の1番艦となる。数百トンの輸送能力があり、車両であれば十数両を搭載できるという。
これら輸送艦/輸送艇は、既存の海上自衛隊輸送艦よりかなり小さい(「おおすみ」型は8900トン/178m)。これは、大型船を乗り入れることができない離島の小さな港湾にも接岸できるようにするためだ。また、「にほんばれ」型2400トン輸送艦は、砂浜に艦首を乗り上げて、物資を陸揚げする「ビーチング」能力もあり、港湾が無い島や、破壊されてしまった島にも補給が可能だ。
同艦の乗員は約30名で、その大半を陸上自衛隊員が占めることになる。艦長も陸上自衛隊幹部が選ばれる可能性があるようだ(現時点では艦長が陸海いずれの幹部になるか、また階級等について、未定であるとの説明を受けた)。
2027年度までに合計10隻体制を目指す
前述したとおり、海上輸送群は今年度末に新編される。司令部は呉だ。輸送艦は、中型級輸送艦・小型級輸送艦各1隻が今年度中に就役し、やはり呉地区に置かれることになるという。来年度には、さらに小型級輸送艦2隻が加わり、小型級輸送艦3隻で「海上輸送隊」を編成。同隊は海上自衛隊阪神基地に移転する計画だと言う(以後の体制について未定)。
海上輸送群は、令和9年度(2027年度)までに、中型級輸送艦2隻/小型級輸送艦4隻/輸送艇(機動舟艇)4隻の10隻体制の整備を完了する予定だ。地味な役割ではあるが、島嶼防衛に向けた、自衛隊の「足腰」とも言える存在であり、我が国の防衛力を支える重要な部隊となることは間違いない。